おおやんのこと (1)


友人である大山のブログは12月2日金曜日で止まっている。
そしてもう、このブログが更新されることは、ない。

あだ名は「おおやん」。敬意と親愛をこめて、ここでは大山と記す。

彼とは地元、明石で幼少からの友人。中学時代は共通の趣味である鉄道を撮りに行ったり、FMラジオ局を開設して毎週土曜日午後にパーソナリティをつとめたり、お互いの家にいってバカな話をしたりしていた。高校はそれぞれ別の学校へ進学したが、同じようなことを続けていた。




中学3年生のとき、大山と新大阪駅へ撮影に。(1985年1月3日)


大学は彼が現役で進学したのだが僕は浪人し、その間は彼と会うことはあまりなかった。1年遅れで大学生になった頃から再び遊ぶようになり、夜な夜なクルマで播州や神戸の街を走り回っていた。大山は加古川のレンタルビデオ店でバイトをしていたので、暇つぶしをかねてよくその店に行った。

やがて彼が先に就職すると遊ぶ時間も少なくなり、僕も結婚と阪神大震災が重なって大阪に住むようになると、お互い連絡をとることはなくなった。僕は仕事が忙しかったし、彼もあとで聞くと九州へ転勤になったりしていたのでこれはこれで自然な成り行きだったのだろう。




加古川の別府港で。 1991年11月12日

バブルがはじけ、20世紀が終わって21世紀になり、インターネットや携帯電話が出てきて世の中は大きく変わったと思う。世の中が良くなるように変わったのか、あるいは悪く変わったのかはわからないが、これらのツールで今までつながらない人と連絡がつくようになった。

2009年夏、あるメールがパソコンに届いた。送信者は大山。何年ぶりだろう。
別府鉄道というキーワードで検索していたら、僕のwebサイトを見つけたという。僕のメールアドレスを表示していたので、連絡してくれたのだろう。
別府鉄道は、兵庫県の加古川市と播磨町に路線を持っていたローカル鉄道で、1984年1月31日に廃止された。当時中学3年生。よく大山と廃止前の記録にと撮影に行った。
その当時の写真を僕はwebサイトにアップしていたのだ。まさか別府鉄道が旧友を再会させる仲介役になるなんて、webページを作ったときは思いもしなかったけど。

その年の8月、大山は多くの友人たちにも声をかけ、三宮でミニ同窓会を開いてくれた。地元の友人たちとは長い間会ってなかったので、僕は嬉しくて予定の時間よりかなり早く三宮へ着いた記憶がある。
それをきっかけにまた鉄道の写真を撮りに行くようになった。地元の明石や大阪をはじめ、遠くは名古屋、岡山、高松などにも遠征した。撮りに行くのは大山と僕、そして中学時代のカメラ仲間、うっつん氏との3人がレギュラーメンバーとなった。数ヶ月に一度、そんなふうに出かけることを我々は「撮影会」と呼んでいた。「撮影会」はだいたいの場合、大山から思い出したように「撮影会しようよ」とメールが来て、行き先や被写体を僕が考え、うっつん氏とのスケジュールを調整して決まることが多かった。

そんな撮影会も、今年2016年は開催できなくなった。僕の息子にガンが見つかったからである。
しばらく、彼らにはそのことを伝えなかった。どうなるかわからなかったのと、我々は寒い季節には撮影会はしなかったから、誘いのメールが来なかったのだ。僕はその内容を伝える機会をつかみ損ねていた。
やがて春が来て、いつものように大山から「撮影会しよう」とメールが来たとき、初めて息子の件を伝えた。彼は驚き、そして励ましのことばを送ってくれた。それからしばらく、僕は撮影会どころか、写真を撮ることからも遠ざかることになる。

大山は2009年の再会後、僕がすすめたこともあってブログを始める。いろんなことがあって何度か閉鎖して別のIDで開設し直したりということはあったが、基本的にずっと記事をアップしていて、僕もよく彼のブログを見ていた。ただ、息子の件や仕事の多忙が重なり、春頃からあまり他人のブログを見る機会が減っていた。また、大山ブログも6月頃から更新がなくなり、その頃から彼のブログはあまり見ていない状態が続いていた。

息子の手術が終わり、僕をとりまく状況が少し良くなってきた(ような気がした)8月。
お盆の日曜日だった。久しぶりに大山のブログをのぞいてみた。それは、ほんとうに「たまたま」だった。
彼のブログは2日前、6月以来の記事がアップされていた。新しい記事がアップされていることに安堵したのもつかの間。そこには難しい名前の薬と、入院してそれを投与されることが書かれていた。
昨年までの僕なら、内容がよくわからない薬。しかし、息子の抗がん剤治療をそばで見ていた僕は、その薬がどんなものか、すぐに想像がついた。
信じられなかった。しばらく会わない間にそんなことになっていたなんて。




2009年8月、三宮にて再会。



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