「情報氾濫社会」の現代、私たちは常に情報に囲まれて生きている。従って、得た情報の取捨選択とそれに基づく行動の連続が日々の生活だと言っても過言ではない。 情報を知恵に変換せよ 例えばゴルフをする際、初めてのコースでいきなりプレーする人はいないだろう。当然コースの全体図を把握し、天候や風向きにも注意を払わねばならない。さらに仲間の経験談やキャディのアドバイスなど、様々な情報を収集して頭の中で整理した後にスタートするのではなかろうか。もしもこれらの情報が無ければ何の行動も起こせず、情報の内容や質によってプレーの結果さえも左右される。これこそ「情報を制するものはすべてを制す」のゆえんである。 ただ注意すべきは、情報がすべて正しいとは限らないという点だ。精度は上がったものの、天気予報は結果的に間違った情報となりうるし、なかには悪意で流されたかく乱・粉飾情報や、デマもあるだろう。ありとあらゆる情報が混在するなかで、溺れることなく現代を生き抜くには、正しく現状を理解して正確な予測を立てる技術が必要不可欠であり、次の3つを磨く努力を怠ってはならない。 1.得た情報が正しいのか、自分に役立つのかを判断する選択眼 2.選び取った情報のもつ意味を正しく読み取る洞察力 3.大切な情報を見逃さない目ざとさ また個人に限らず企業も同様に、必要な情報を迅速に収集して正しく分析し、適確な判断を常に下し続けなければ、高度情報化社会において勝ち組となることはできまい。そしてこの一連の作業において重要な役割を担うのが、ほかならぬITである。 周知の通りITはInformation(情報)Technology(技術)の略だが、実は「情報」に当たるもう一つの英単語にIntelligenceがある。アメリカの諜報機関、CIA(中央情報局)の「I」はIntelligenceの頭文字であり、軍事作戦遂行の第一段階「情報収集」に当たる単語もIntelligenceだ。まずはInformationと、「知能、知恵」の意味を併せ持つIntelligenceとの大きな違いを十分に理解しておかねばなるまい。 社外で講演をしたとき、よく「情報不足で経営改善の打開策が見つからない」という経営者の悩みを耳にするが、「情報氾濫」の現代では新聞やテレビに始まり、営業マンの週報などの自社情報まで、さまざまな形で市場の情報は集まっているはずだ。問題は、多岐にわたる情報を整理統合し、それらが意味するものを導き出す「分析」という過程を知らないか、その方法が分からない点にある。足りないのは、実務に必要な情報や知恵であるIntelligenceなのだ。例え、高価な情報機器を導入しても、集めた情報が文字や数字の羅列でしかないInformationのままならば、それは「目的を忘れて手段に溺れる行為」と言うほかないだろう。 では、情報を知恵に変換するとはどういうことか。次回はその「技術」について考えてみたい。 |
11月9日、IT経営をうまく実践するための実務的なソリューションを紹介するセミナー「中堅・中小企業のIT導入成功戦略2004」(主催:IT経営応援隊、日経BPセミナー事業センター)が開催された。 午前に行われた基調講演「ITで時代に勝つ!〜『メリー流経営』の秘訣とは」では、メリーチョコレートカムパニーの代表取締役社長、原邦夫氏が同社において、ITをどのように活用してきたか、その方針について語った。 メリーチョコレートカムパニーは東京・大田区にある、チョコレートを始めとするギフト菓子の製造、直販会社。ITを駆使して仮説・検証を繰り返し、無借金経営で増収増益を続け、年商は約270億円、社員数は約700人へと成長した。 メリー流経営の根本にあるのは「仮説の検証」である。これは、経営の問題点などに対して、仮説を立てる、実行する、情報をすばやく収集する、分析・判断する、新たに仮説を立てる、実行するというもの。これを繰り返すことで知識が集積され、先見力が生まれる。この情報収集、分析、判断に欠かせないのがITというわけだ。 「なぜ、もうからないのか? なんとか利益を出そうとすることを考えれば、自ずとITが必要になる」と原社長は語る。同社が導入、構築したITシステムは基幹業務全般におよび、項目数は183に上る。 その中で、特に注目したいのが、POSシステムと物流システムだ。 物流改革で返品率は0.3%に メリーチョコレートでは、POSシステムを活用し、売り上げた商品ごとに、顧客の属性情報を収集している。性別、年齢はもちろんのこと、プレゼント用かどうかなどといった購入目的についても店頭でデータを入力する。これを本部で一括して分析、個々の顧客のニーズに、多品目少量生産の商品アイテムできめ細かく対応している。 「POSで売上管理をしている会社は多いが、顧客の分析をしているところは少ない。大手百貨店、アパレルでもこれができているところは少ない」と語る。 社内業務の効率化では、物流改革に取り組んだ。「業務フローを見直せば、なぜ利益が出ないかが分かってくる。分析した結果、製造と販売で売り上げた利益を、物流が食い尽くしていることが分かった」(原社長)。そこで、ロボットを導入し、担当者を7名まで減らした。さらに、コンピューター管理することも合わせて行い、返品率を0.3%まで低減することができたという。 中小は身の丈にあったIT化を しかし、こうした「メリー流IT活用」に対し「メリーがものすごいことをやっているとは思わない。他社がやっていないだけ。メリーは一歩先に行っているだけです」と原社長は語る。また、IT化を進めようとする経営者に対して「IT化はやればできる。できないのはやる気がないだけ!」と厳しくセミナー参加者にハッパをかけた。 「中堅・中小だからできない、というのは間違い。大リーグでもリトルリーグでも、野球には変わりがない。基本的にルールは一緒。経営について、大企業でも、中小でも決して差はない。ただ、いきなり何千万もするシステムを導入しようとするから挫折する。身の丈に合ったIT化、和紙を一枚、一枚重ねるように、丁寧に段階を進んでいけば、必ずやり遂げられる」と語った。(宇賀神 宰司=日経パソコン) |
バレンタインデーとホワイトデー。冬の終わりを告げるイベントが終了し、ようやく春の訪れを肌で実感できる季節となった。世の男性諸氏も「お返し」というお勤めを果たし、さぞかしほっとしていることだろう。 今でこそ「バレンタインの生みの親」と呼ばれ、国産ギフトチョコレートのリーディングカンパニーを自負する当社、メリーチョコレートカムパニーだが、今日に至る道程は決して平坦ではなかった。企業としての基礎は、創業者である父や先人達が築いてくれた。しかしその後「IT」と出会わなければ、おそらく当社の現在の姿はなかったであろう。「IT」という呼称が市民権を得るはるか以前から、ITは当社に多大な恩恵をもたらしてきたのだ。 不況を嘆いても業績は改善しない その出現を「革命」と称され、不況の救世主として脚光を浴びたITは一時の「ITブーム」をもたらした。一方で、百貨店やスーパーの売上げは低迷し、バブル崩壊後「失われた十年」を経てもなお、個人消費は低調で回復の歩みは遅い。 ただし、個人消費の中でも、最近になって持ち直している分野もある。このことを考えると、一概に景気が悪いと決め付けるのはいささか早計であろう。一時的な足踏み状態はあるにせよ、むしろ「景気はゆるやかな回復基調にある」と考える方が的を射ているのに、何故いまだ「景気浮揚」の合唱が鳴りやまないのだろうか。 「景気浮揚」を声高に語る人々の話を聞くと、厳しい経営環境にあることは理解できるし、業界や業態によっては同情も禁じ得ない。しかしそれらを総括すると「景気の良い状態」とは「格別の努力や工夫をしなくても売上げが伸び、利益が拡大する状態」を意味しているように思えてならない。 お祭騒ぎのバブルが崩壊して空前の不況に突入したとき、私たちは「今後はもう右肩上がりの経済は望めない」と覚悟したはずだ。確かに日本の経済政策や政治が多くの問題を抱えていることは否定し得ない事実ではある。しかし、「右肩上がりでない経済」こそ、現在私たちが遭遇している経済状態そのものであり、受け入れていく必要があるだろう。 「不況のときこそ企業の優劣が鮮明になる」と言われる。不景気な話を尻目に着実に業績を伸ばしている企業が多く存在することを忘れてはならない。経済政策や財政の問題点を物知り顔に吹聴し、嘆いてみても、自社の業績が改善されるわけではないのだ。 そんな心配をする前に自社の欠点を洗い出し、長所や優位点を正しく評価し、社員の総力を結集することに専念すべきだ。自らの企業は、自らの知恵と汗で守らなければ誰も助けてくれないこと。そのために必要不可欠なのが「情報活用」であり「IT」であること。そして「まずITありき」の姿勢で取り組むのではなく、経営革新の過程でおのずと必要になるものがITなのだと、改めて肝に銘じておくべきだ。 「チョコレート」と「IT」の組み合わせは一見奇異かもしれないが、このアナログとデジタルのコラボレーションこそ、当社の強みだと自負している。 次回は、まず「IT」について、私なりの考えを述べてみようと思う。 |
前回「情報を制するものはすべてを制す!」では、単なる文字や数字の羅列でしかないInformationをIntelligence(知恵)に変換する重要性について述べた。そこで今回は、IT(情報技術)のT(Technology)についても同様に別の単語を探してみた。Technologyは科学分野の「技術」を意味するが、このほか「手法、技量」という意味のTechnique、また一般的な「技術」にあたるSkillが類似の単語として挙げられる。 ゴルフを例に考えると、新しい素材でクラブを創り出すのはメーカーであり、その新たなハードの特性を発揮する打ち方、Technologyを開発し、実際にTechniqueとして確立するのはプロだと言えるだろう。そしてアマチュアは、プロの編み出した新しい打法を自らの体型、体力、経験、運動能力などに合わせて、練習を重ね自分のものにする…、これがSkillだ。 従ってタイトル「IT IS BUSINESS」の「ITとIS」について整理すると、以下のようになる。 Information Technology:いわゆる「情報技術」 Intelligence Technique:単なる情報を分析・活用して「知恵」へ変える手法 Intelligence Skill:ITで得た「知恵」を実際に活用する技術 IT用語に振り回されると本質を見失う 本連載でこれまで何回も英単語やカタカナ語が登場し、すでに食傷気味の読者も多いのではなかろうか。昨今、外来語のはんらんが問題視されている。特にIT分野では難解な専門用語が頻出して、素人には近寄り難いイメージを作り出しているのが現状だと言えよう。専門家はそのたびに平易な日本語に訳して説明するのは煩わしく、カタカナ語をそのまま使う。そのため、実際の利用者である素人をますますITから遠ざける結果となっているのは非常に残念だ。 そして多くの企業では、「IT革命」という熱病に侵された経営者が、「時代に取り残される」という不安感から専門の技術者や外部の人間に自社のIT化を任せてしまっている。現場では「帯に短し、たすきに長し」というお仕着せのシステムに日常業務を合わせたり、ひどい場合は機械に業務が振り回される、という本末転倒の状態に陥っている。 企業におけるIT(情報技術)は、消費者の日常生活や市場動向に関する情報を的確に収集して科学的に分析し、顧客の要望や要求を探究する「道具」であり、この道具を使いこなして商品を開発し、販売戦略を立案するのは人間以外にはいないことを忘れてはならない。 重要なのは、「どのようなIT設備を導入したか?」ではなく、「そのシステムで何を読み取り、企業をどのように変えようとしているか?」ということだ。経営者は自社の「ITニーズ」を把握し、自ら率先してより高度な知恵を生み出すことに専念し、一般社員は得た知恵を実務に活用すべく研鑚を続ける。これこそIT(情報技術)の恩恵を享受する道だと言えるだろう。 次回は、経営の3大要素である「ヒト・モノ・カネ」を改めて考えながら、さらに具体的に「情報」の重要性について考察していこう。 |
炭水化物、たんぱく質、脂肪は、健康維持に必要な三大栄養素と言われるが、「飽食」時代の人々はエネルギー摂取よりもっぱら排出に腐心。ビタミンやミネラルの補給に熱心だ。経営においても同様に「三大要素」である「ヒト・モノ・カネ」から、「情報」に高い関心が移っているのは周知の通りだ。 しかし今回は、「情報」に関する取り組みは後段に譲り、まず「ヒト・モノ・カネ」についての考えを紹介しよう。 1)ヒト 「人材=人財」と言われるように、「ヒト」がすべての基本である。モノを作り、売ってカネを生み出すのも、ヒトを育てるのも、情報を集めて活用するのもヒト以外にありえない。一時はもてはやされた欧米型成果主義も今はその弊害が指摘され、再び日本独自の人事制度が模索されている。当社では創業以来「家族的経営」の旗印のもと、定年まで安心して働ける終身雇用制度を一貫して守り続け、悪平等を排除して真の「年功」序列を実現している。 2)モノ 「品質第一主義」を経営理念の一つに掲げる当社では、「良いものは一度食べたらその味が忘れられなくなり、再度求められる」と創業者が表現した「アンコールの沸く作品」作りが大きな目標だ。チョコレートの祭典「サロン・ド・ショコラ パリ」で準グランプリを受賞し、一流ショコラティエたちのアンコールの喝采をもって迎えられた快挙も、「商品ではなく味を売る」という信念のもと、正直にモノづくりに徹してきた50年の歴史を思えば、何ら不思議なことではない。 また生産設備や各売店の情報端末も大切な「モノ」だ。不況の時こそ積極的な設備投資をと、千葉県船橋市に「情報流通センター」を建設。人的労力を先端機器に置き替えて人件費を10分の1に減らすなど、利益を生み出さない物流部門の経費削減を実現し、利益率向上に大きく貢献している。 3)カネ 無駄な支出を抑える「倹約」と、必要経費まで出し惜しむ「ケチ」とを、まずはっきり区別しておく必要がある。目先の売上げに固執せず、利益第一の経営戦略で地道に積み重ねてきた利益を「必要」と判断した部分に積極的に投資し、さらなる利益を得ることができるのも、全社員に倹約の精神が培われているからだと言えよう。 「バブルの頃、この古いビルを建て替えるように皆さんから言われましたが、亡くなった亭主から『お客さんはビルを見に来るんじゃねぇ、味を楽しみに来るんだ』とよく言われたんですよ。不景気でもなんとかやっていけるのは、あの頑固な亭主のおかげです」とは、以前銀座の老舗料理屋の老女将から聞いた話だ。 本業から外れることなく「品質第一の味づくり」に徹し、過剰投資を慎んだ地道な経営戦略によって、当社は今「経常利益率10%」「無借金」という創業者の夢を実現した。これも、銀座の女将のような心意気で、ただ正直に経営の本質を見つめ続けてきた結果にほかならない。 ITには確かに無限の可能性があるが、決して周囲に踊らされたり、先走って失敗したりしないよう、自社に必要な事柄をしっかりと見極め、着実に歩みを進める必要があるだろう。 では実際の経営における「情報」の重要性はどのようなものか、次回検証してみたい。 |