北時計からのメッセージ

 脚本家の倉本聡氏が、北海道の富良野で営む「北時計」という喫茶店がある。僕がここを訪れたのは、1990年の夏だった。メッセージが書かれた1枚の紙を、僕は今でも大切に持っている。そこには、こう書かれていた。

ようこそ北の国へ

 自然を労せずして見たいと願うなら、既にあなたは傲慢な人です。
 感動を金で求めようとするなら、あなたは愚かで軽薄な人です。
 自然は一方でひどく冷酷で、だからこそ一方で限りなく美しい。もしもあなたが一汗もかかずに北海道を見たいと思うなら、都会で絵葉書でも見ていればよろしい。でも、もうここまでせっかく来ちゃったなら、どうか本当の見方をして下さい。
 ここはいわゆる観光地じゃない。ここの住民が夫々の生活を自然の中でひっそり送ってるそうした静かな生活の場です。だからここではあなた方をもてなす施設もサービスも考える気はない、ここにあるのは生活そのものです。
 それをこそ味わいたいとあなたが仰有るなら、僕らは心から申しあげるでしょう。
 ようこそ、はるばるこの北の国へ。

倉本 聰