燃料電池の開発が自動車メーカーの存続を左右する!

 日経ビジネスの一〇月一二日号に、「自動車の未来」という特集があった。記事の内容は三つの柱で構成されていた。一つは、燃料電池の登場でガソリンエンジンがなくなる可能性があるということ。二つめは、ITS(高度道路交通システム)の実現で、自動運転が可能になるということ。もうひとつは、インターネット販売が広く普及すること。これらによって、日本の自動車産業構造がここ近年において大幅に変わるであろうという内容であった。ITSは一部において実現するかもしれないが、そう簡単に普及するとは思えない。莫大なインフラ整備費用が必要だということは素人でも容易に想像できる。インターネットも、単価が高く、さらにある程度嗜好性が伴うという自動車という特殊な領域において、通販がそれほど躍進するとは思えない。クレーム修理やメンテナンスの件でディーラーはその存在価値を失うことはないだろう。食品や衣服とはわけが違うのだ。また、燃料電池で走るクルマが市販されたとしても、早急にガソリン車が姿を消すとは思えない。このあたりは、本誌でも館内氏が述べられていることに、まったく同感である。しかし、小生がこの特集でショックを受けたのは、完成車メーカーと部品メーカーの力関係が逆転する、ということだ。そのポイントは燃料電池であるらしい。各社の燃料電池車開発スケジュールは、ダイムラーが二〇〇四年に量産を開始するといいだすと、GMも同年に実用化を発表。これに対しトヨタが二〇〇三年に発売するといえば、本田が二〇〇三年、日産も二〇〇三〜二〇〇五年商品化するといいだしている。ところが、この燃料電池、ほとんどのメーカーはカナダのバラードという会社から購入しているとのこと。ちなみに、バラード社はダイムラーとフォードの三社で共同出資で、燃料電池車を生産開発する会社を発足させている。技術的難易度の高い燃料電池は、パソコンのインテル社のように、その市場をほぼ押さえる世界の業界標準企業になりうるわけである。そこで問題になるのが、自動車は、その要であり付加価値の大部分を担ってきたエンジンを外部から「購入」することになる。各メーカーが差別化をはかり、またメーカーを頂点としたピラミッド型産業構造のメインともいえるエンジンの部分は、主導権が完全に「部品メーカー」の手中に収まるというわけだ。そのぶん、各自動車メーカーは、エンジン(燃料電池)以外の部分で差別化をはかっていかなかれば生き残ることはできない。各社が発表している来世紀初頭に実用車が出てきても、それがどれくらいの速さで普及することになるかはわからない。けれど、自動車業界をとりまく情勢はこの数年で大きく変わるのだろう。出力の数値等で見た目の差別化を押し出しているようなメーカーは生き残ることができないのでは、と思えてしまう。伏木氏が常々おっしゃっている「走りをデザインする」ような発想が、これからのメーカーにはいっそう要求されるだろう。そういう観点で日本の自動車メーカーを眺めてみると、「勝ち組」「負け組」が見えてくるような気がする。ちなみに、トヨタはあくまでも自前にこだわり、松下電池工業とグループ各社に呼びかけ、独自の開発を行っているらしい。寡占企業に支配された市場には、おもしろいものなど出てこない。私はトヨタを応援したいし、ぜひ独自の商品化を実現させてほしい。メイド・イン・ジャパンの名にかけても。

(driver '99/1/20号掲載)