国道奔走記〜愛媛周遊

<往復割引の恩恵にあずかってフェリー利用>
 愛媛県の各国道をまわるため、3月の金曜日、六甲アイランドから今治行きの愛媛阪神フェリーに乗り込んだ。乗客は予想以上に多い。金曜日だからか? 2等はけっこう混み合っており、詰めて敷かれた毛布一列ごとに人が寝転がっている。空いている場所を見つけて寝床を整えた。
 今回フェリーを使ったのは、往復利用すると帰路が半額になるという、かなり得な割引をインターネットのホームページで見つけたからだ。フェリー各社は、ある一定期間内(だいたい2週間)に往復利用すると、帰りが数十パーセント割引になる設定をしている。年末に利用した、関西と門司を結ぶ阪九フェリーは帰路が2割引。今回利用した愛媛阪神フェリーと、大分行きのダイヤモンドフェリーは5割引と、割引率はダントツ。大阪南港と愛媛の東予を結ぶ四国オレンジフェリーは、行程的にこちらのほうが利用しやすいのだが、3割引で、しかも元の値段が若干高かったので、こちらのフェリーを利用することにした。
 値段は、神戸・今治間が4m未満で10,800円。往復割引を適用すると、往復で16,200円となる。ちなみに、高速代は、西宮北からいよ小松まで10,200円。これにガソリン代が加わり、往復の疲労を考えると、いかにフェリーが安くて便利なものか一目瞭然である。
 昨年末に九州の門司に行って以来のフェリー。今回はそのときより距離は短いが、それでも船内の設備は充実している。食堂、風呂はもちろん、ゲームコーナーやサロンなど、快適に過ごすことができる設備はフェリーならではだ。ただ、この便は出港時刻が遅いこともあり、売店・食堂は出航後しばらくして閉店になるので注意。
 22時55分、定刻に六甲アイランドを出港し、今治へは明朝6時10分着予定で、ひじょうに使いやすいダイヤだ。

六甲アイランドのフェリーのりば

<曇り空の今治からスタート>
 ビールを飲み、明石海峡大橋を通過した0時過ぎに横になったが、おひとり、いびきが強烈なおっちゃんがおり、なかなか寝付けなかった。はじめは寝言で裏声を出し叫んでいるのかと思ったが、どうやらいびきらしい。「があ〜・・・」とふつうのいびきのあと「ひぃぃぃぃ〜〜〜」と続くのだ。「ひぃ〜」の部分は毎回あるわけではない。「があ〜」を何回か繰り返したあと、忘れた頃に突然訪れるのだ。これが気になって眠れない。気がついたら、そのおっちゃんの周りは誰もいなくなっていた。
 そんなことはどうでもいいのだが、寝不足のままフェリーは今治港に入港した。どんよりした曇り空である。天気予報では、終日雨だといっていたが、間違いなく雨が降ってきそうな雰囲気だ。6時すぎの今治の町はまだ眠りから覚めておらず、クルマもほとんど走っていない。バイパスができて県道に降格した旧道を南に走る。第一目的の国道378号は松山の西隣、伊予市から始まる。そこまで、部分開通の今治小松道と、4車線化工事たけなわの松山道を利用した。

国道378号 愛媛県双海町

<せっかくのシーサイドルートも雨に泣く〜国道378号前半>
 やはり天気予報のとおり、雨である。せっかくの海沿いを走るルートなのに。こればかりはどうしようもない。雨に似合う音楽でも聴きながら、のんびりドライブを楽しもう。
 伊予市街を通り抜け、小さな峠を越えると海が広がった。
 ほどなく着いた道の駅「ふたみ」は人影もまばら。雨のせいもあるのかな、と思ったが、営業時間でなかったようだ。ここには大きく3つの施設があるが、夕日のミュージアムは9時、特産品センターは10時、レストランは11時にならないと開館しない。ただし、トイレは使える。
 開館が一番早い夕日のミュージアムでも、見学するのにまだ40分以上待たなければならない。今日はすべてパスして先を急ごう。ちなみに、この国道378号双海町前後ではサイクリングコースが整備されており、ここ道の駅でも2時間500円でレンタサイクルもある。基本的なコースは8km1時間とのこと。手頃なコースだ。
 国道沿いにはサイクリングコースが整備されおり、天気がよければさぞ気持ちよいだろう。ところどころで斜面に菜の花が咲いており、鮮やかな黄色の色彩が目に飛び込んでくる。パーキングスペースもあちこちに用意されており、クルマを停めることに躊躇することななさそう。ただし、トイレはほとんどなく、飲食店やコンビニも見あたらないので注意。この付近でのんびり過ごそうと思えば、食料を事前に用意するか、道の駅がポイントになりそう。
 穏やかな瀬戸内海沿いのドライブを楽しんだあと、道は八幡浜にむけて峠を越える。といっても、今は長大トンネルのおかげでなんなく越すことができる。長浜町から保内町にはいるとすぐ海から離れる。ここから国道197号と合流する間は、ついこの間まで瞽女(ごせ)が峠という狭隘路が存在していた。「瞽女」とは、しゃみせんをひき歌をうたって金銭をもらう盲目の女性のこと。なぜこのような地名がついたのかは知らないが、何か意味ありげな名前だ。ここを国道378号は2つの大きなトンネルでやりすごす。ひとつは伊予市よりにある喜々津トンネル。1993年9月の完成で延長615m。もうひとつは瞽女トンネル。延長2156mの長いトンネルは1999年2月に開通した。明るいトンネルを越えても保内町。道が狭くなり鳥居の下をくぐる。ここだけ道路改良から取り残されているようだ。佐多岬からやってくる国道197号(正式には大分市)と合流し、重複区間で八幡浜へ向かう。ここを通るときはいつも渋滞だ。

瞽女(ごせ)トンネル

<センターラインがないリアス式海岸沿いのくねくね道〜国道378号後半>
 八幡浜の市街を抜け、国道197号と別れ再び単独の道になった378号は、いきなりローカルな情緒がただよう。たんに漁港街を抜ける生活道路だ。これはこれで雰囲気があっていいのだが、やはり国道の威厳などというものは微塵も感じられない。
 国道378号の後半は、ひたすら地形のいちばん外側を丁寧になぞる。すなわち海沿いなのだが、細やかなリアス式海岸なのでカーブもきつく、少しも前に進まない。残念ながら観光ポイントもほとんどない。コンビニは当然ない。飯を食うところも、とりあえず見あたらない。
 走ってばかりで退屈してきた。何かないかな、と地図を眺めたら、八幡浜と宇和島とのコース中間付近に「魚霊塔」というものが載っている。おそらく、この付近の漁師の方が中心となって、魚の恵みに対するお奉りの気持ちを形にしたものではないかということが想像できる。どんなものなのか、さっそくい行ってみよう。
 というわけでたどり着いたのだが、正直言って残念。海にせり出した小高い丘の上にその塔は立っているのだが、それほど綺麗に整備されているわけでもなく、地面は雨のせいもあって泥だらけ。壊れかけたベンチが、とりあえず置いてある、という感じで塔の前にあり、眺めは決して悪くないはずなのだが、木々の枝が邪魔をして、視界はもうひとつ。せっかく立派な塔を作ったのだから、周りももう少し何とかしてほしい。魚たちも少し可哀そうにさえ思えてしまう。
 さて、次にもう寄るところはなさそうだ。あとは国道56号と合流する吉田町まで走るだけ。
 とはいっても、この道のりが長い。八幡浜から吉田町までは、約70km。急カーブの連続で、ここを通り抜けるのに、軽く2時間はかかる。絶えずハンドルを回し続けなければならないので、かなり疲れる。よほど海沿い道が好きな人以外にはあまりおすすめできない。
 腹ペコ状態で国道56号に合流。宇和島はすぐそこだ。

いまいちだった魚霊塔


<海に次は川〜四万十川沿いに 国道320号・381号>
 宇和島で昼食にラーメンを食べたあと、今度は内陸部に向かう。国道320号はすでに全線走破しているが、宇和島から約13kmの広見町から、窪川へと抜ける国道381号を走破するためだ。381号は宇和島起点で、広見町まで320号との重複区間。広見町から窪川までの約70kmが単独の区間で、窪川から終点の須崎への間は、国道56号との重複区間である。
 道の駅「広見森の三角ぼうし」の目の前にある交差点が、国道320号と381号とが分かれるところだ。320号はそこそこ交通量があったが、381号に入るとクルマの量は格段に落ちる。
 線路が見える。JR予土線だ。ローカル線なので本数は少なく、列車をみかけることはほとんどなかったが、381号はこの予土線とほぼ全線にわたって同じルートをたどる。つまり、線路も道路も、四万十川とともに旅するわけだ。
 ほぼ2車線の快適な道は、高知県に入って西土佐村の少しの区間で狭くなる。前には10tダンプが走っており、対向車は所々広くなったところで待機している。狭いところで頭を突き合わせても、だいたい相手側が下がっている。ダンプの後ろにいるおかげで、一見ありがたいように思えるが、道が狭いので余計に視界がきかない。そう思っているうち、広いスペースで道を譲ってくれた。
 西土佐村の中心部、江川崎で国道441号が分かれていく。ここから四万十川沿いの旅が始まる。そう思えば楽しいのだろうが、雨はいっこうにやまない。まったく、いつまで降り続くのだろう。
 広々とした川に沿って走るのは楽しい。ふと眺めてみれば、雨のおかげで、川をとりまく風景は水墨画のように独特の情緒を醸し出している。こういう日は、日没前になればさらに美しいモノトーンの世界を作り上げるのだろう。
 リバーサイドドライブをしばらく楽しみ、大正村の道の駅「四万十大正」に着いた。昼食時を除いてずっと走り続けてきたので、ここでしばらく休憩。シートをフルフラットにして体を横たえる。 少し休んでから、道の駅をぶらついてみる。屋内には道路情報コーナーがあり、通行規制などのインフォメーション用パソコンが置いてある。規制だけじゃなく、雨の状況(降雨量)を調べることができるのはありがたいが、動いているのは指定区間だけのようだ。メニューには各国道の番号が並んでいるが、これから向かう197号のデータは出てこなかった。
 さて、疲れもとれたことだし、再び交通量の少ない381号を東に向かおう。
 国道381号は四万十川に沿って走る。いわずとしれた日本最後の清流と呼ばれる四万十川の由来はアイヌ語源説などいくらかあるが、いずれも実証されているわけではなく、謎のままである。謎といえば、この川のルートも謎っぽい。国道381号では、窪川方面へ確実に海の方面へ向かっているのだが、川は逆に流れている。かなり大きく蛇行しているのだ。妙な感覚にとらわれながら、淡々と走って窪川の町に出てきた。

国道381号 四万十川とともに

<国道197号で大洲へ>
 国道197号は、高知から四国を斜めに北上し、佐多岬から大分へと続く国道。岬の三崎町から大分県の佐賀関までは海上区間でフェリーも運航されている。この197号は、以前四国をまわったときに断片的に走っており、大分県側はともかく、四国内だけでも走破しておこうという魂胆。窪川のコンビニで軽食を買い込み、県道19号を使って東津野村の船戸という集落に出た。
 免許をとってすぐ、納車されたばかりのクルマを不安げに操って、バイク仲間と四国を旅したのは11年前の夏。室戸岬で1泊めを過ごし、四国カルストが広がる天狗高原をめざしていた。その頃の197号は改良途中で、1.5車線の狭いくねくね道を木材を満載したトラックがやってくる。終始助手席にいる友達に左側をみてもらい、なんとかやり過ごしたのだが、そのとき「197号は、読んで字のごとく『い・く・な』(行くな)やな」と友人が言ったことが妙に頭に残っている。時を経て、今はそのときのことが嘘のように走りやすく改良されている。
 道ばたで少し仮眠したら、あたりはすっかり暗くなってしまった。「気合いを入れ直して、大洲へ向かうぞ」と思ったのもつかの間。道の駅「やすはら」に、突如として洒落た粋な建物が現れた。「雲の上のレストラン」。ガラス張りのきれいな建物である。真っ暗の山中だけに、レストランの明かりは特別に際だっている。少しのぞいてみたが、コースメニュー中心で高そうなのでパス。すぐとなりには「雲の上温泉」。疲れも溜まっていることだし、こちらに入ってみよう。
 ここ最近にできたらしい建物はとてもきれいで、入浴料500円というのもありがたい。営業案内を見ると、4月から10月までは夜10時まで。それ以外は夜9時まで営業しているようだ。
 温泉には、打たせ湯、ジェット風呂はもちろん、サウナや露天もある。これだけの設備で500円はありがたい。雨に打たれながら露天風呂を楽しむ。どしゃぶりはちょっとつらいが、そこそこの雨ならたいして気にならない。
 風呂から上がってメシでも食おうと思ったら、食堂は5分前の19時30分で終わったとのこと。残念。
 疲れもとれ、今日の宿泊地である道の駅「内子フレッシュパークからり」へ向かおう。夕食は、おそらく国道56号が交わる大洲までないだろう。

快適な道に生まれ変わっていた国道197号 高知県東津野村

<快適夜のドライブ>
 国道197号はその後も通りにくい区間はなく、順調に夜のドライブを楽しむことができた。夜なので交通量もきわめて少なく、1時間半ほどで大洲に着いた。国道197号は、これで四国内の走破を終え、残りは大分県内だけとなった。
 大洲で食べた回転寿司は、残念ながらネタもサービスもいまいちだった。ガラガラの店に詰めて座らされた時点で少し嫌な感じがしたが、まわってくるネタを食べてさらに気分は落ち込む。適当に切り上げ、あとは内子で寝るだけ。その道の駅では、何台かのクルマが止まっており、どうやら皆ここで車中泊をされているようだった。

道の駅 内子フレッシュパークからり

<午前中で2本の国道を走破>
 また爆睡してしまった。目が覚めたら、朝の8時。昨夜は早めに0時頃寝たのになあ。昨日とはうって変わり、快晴である。よく冷え込んでいるが、その分すがすがしくて気持ちよい。朝食をとろうとしたけれど、ここには道の駅にしては珍しく自動販売機がない。歩いてもすぐところに販売機があったので、熱い缶コーヒーを買い、カロリーメイトの朝食を済ませる。洗顔をしたあと、辺りを散歩する。駅の横には川が流れており、長さが20mくらいの吊り橋が架かっている。対岸にはキャンプサイトが整備されており、そこの歩道にはウッドチップが敷き詰められている。踏みしめたときの感触がなんとも心地よい。昨夜の雨で湿ったウッドチップは、ゆっくりと踏み心地を確かめながら歩きたくなるような柔らかさである。
 朝の散歩を終え、2本の国道走破へと出発した。国道379号と380号は、重複区間を多分に含みながら、単独ではこの周辺の小さな集落と国道を結んでいる。379号は、内子から56号と別れ、いったん東に進んだあと、小田町で進路を北に取り、松山インターの近く、砥部町で高知から来ている33号と合流する。内子から松山へは、56号がメインルートだが、それぞれ三角形の1辺と2辺を形成してるようなものだ。380号は、小田町からそのまま東に進み、これまた久万町で33号と合流する。
小田町から380号の単独区間が始まる。町の中心部を抜けると、すぐに1.5車線の狭い道になった。あとはこのまま峠を越えて33号に合流するパターンかと思いきや、真弓峠の手前で道が急に広くなる。意外な展開に驚くまもなく、綺麗なトンネルが現れた。道はこのまま2車線快走路のまま33号に合流した。峠手前(小田町)も道路改良工事が行われている。いずれ近いうちに快適な国道に生まれ変わるのであろう。
 小田町に戻り、今度は379号で今回国道走破のラストを締めくくる。というほど大げさなポイントもなく、1.5〜2車線の国道379号は、ヘアピンカーブは続くものの、わりとあっさり山を下り、松山市街の郊外風景が広がる砥部町で国道33号に合流した。

 このあと、県道と国道11、196号で今治へ向かい、14時35分発のフェリーで四国をあとにしたが、国道11号の桜三里付近が雪景色で、道路も路肩に10cmほど積もっていたのには驚いた。

(旅行日 2000年3月10〜12日)


今回の走破距離:400q 
累計走破距離:29,730q