国道奔走記〜フェリーで北九州

<不況時代でも楽しむ精神>
 世の中、不況である。僕の会社もご多分にもれず、その影響がリストラ等につながり、とうとうボーナスにも大きなメスが入れられることになった。ただでさえ安い給料だったのに、この冬のボーナスは「ほとんどなし」状態である。ローンを返しきれないくらいの金額だ。
 このような状態で、一家の主が趣味のために旅に出るなんてことは、世間から見れば傲慢極まりない行為に映るかもしれない。事実「今回はムリかなあ」なんて思っていたのだが、家内が少しのこづかいを与えてくれた。感謝! である。その少ない費用でどこへ行こうか。
 実は以前から暖めていたネタがあった。往復フェリー使用の九州走破。フェリーが着く門司を基点に、福岡県の未走国道をレンタカーで走るというもの。フェリーは片道6000円。レンタカーも、12時間なら補償つきで6000円あまり。まさに不況直撃会社に勤める僕にふさわしい旅である。

阪九フェリーの“フェリーせっつ”

<夜景を見ながらフェリーターミナルへ>
 今回セレクトしたフェリーは、関西と九州・門司を結ぶ阪九フェリー。同区間には、大阪南港から新門司まで名門大洋フェリーが就航しているが、インターネットのホームページがエラーの連続で、連絡バス等の情報が得られにくかったので意気消沈。あっさりパスしてこちらになった。ちなみに、阪九フェリーのホームページはわかりやすかった。
 大阪側は泉大津と神戸・六甲アイランドの2ヶ所から発着しており、泉大津発は、土曜日以外が2便、その土曜日は1便。神戸発は泉大津と逆で、それぞれ1便と2便。九州内での滞在時間を最大活用するため、行きは神戸発、帰りは泉大津着の便を選んだ。
 往路に使う便は18時30発。12時間後の翌日6時30に新門司港に着く。ちなみに、帰路は新門司発20時30分、泉大津へは翌朝9時ちょうどというダイヤだ。
 12月17日金曜日、年休をとったので、余裕をみて枚方の自宅を15時過ぎに出発。実は、この日に年休を取れなかったら、いちばん遅い便にせざるを得ないと思っていたのだが、仕事も片づき、めでたく予定通りの出発となった。
 神戸・泉大津・新門司の3つの港とも、市街地から連絡バスが出ている。逆に言うと、フェリーのりばまでのアクセスは、この連絡バス以外にはタクシーしかない。タクシーなら、数千円かかるだろう。なるべく連絡バスを使うようにしたい。
 出発地である神戸・六甲アイランドへは、JRの住吉駅と阪神御影駅から出ており、途中六甲ライナーのアイランド北口駅を経由してフェリーターミナルへ向かう。六甲アイランドのみ、他のフェリーと共同運行なので、何本かの設定がある。(それ以外は、出発便にあわせた1本のみ)
 僕の乗るフェリーは18時30分発。インターネットのホームページを見ると、住吉を17時50分のバスで間に合うが、初めてということもあり、余裕をみて家を出た。
 住吉駅には16時45分に到着。50分発のバスに乗れる、と思ったが、バス乗り場がわからない。自転車置場の管理人さんに聞くと、建物の向かい側の国道2号線に停留所があるという。教えてもらったとおりに道路へ出たところでバスが通過していった。ここのバスのりばはひじょうにわかりにくい。もっと親切な案内が必要だ。
 仕方ないので缶コーヒーを飲んで時間をつぶし、20分後の17時10分発のバスに乗る。
 12月の17時過ぎという時刻は、すでに真っ暗である。六甲アイランドに架かる六甲大橋を渡るとき、窓の向こうに港の夜景が広がる。この夜景を見るだけでもこのバスに乗る価値があると思えるくらい、美しい光の情景が広がる。
 フェリーのりば、とだけ表示されているが、実際にはフェリーによって2ヶ所の乗り場がある。先に停まったのはダイヤモンドフェリー(大分行き)ののりばで、阪九フェリーはそのまま乗っておくようにテープが流れる。バスは数百メートル走って、目的のターミナルに到着した。所要時間20分。
 乗船手続きをし、あたりを散策する。といっても何かあるわけでもなく、とりあえずフェリーの写真を撮りに行く。そうしているうち、乗船開始時刻の17時45分になった。

フェリーせっつの2等自由室内

<快適なフェリーの設備>
 阪九フェリーには6隻の船があり、どれも総トン数1万トン以上の大型船。船によって細かい仕様は異なるが、今日の船は”フェリーせっつ”。総トン数15,200トン、全長189mでトラック219台と乗用車を77台飲み込む。ちなみに、旅客定員は810名。
 長い通路を通り、船に乗り込むと、まず広々としたエントランスロビーが目に入る。2等客室は右側とのことで、指示通りに進み、いくつかある区画のうち、空いてそうで窓のある部屋に転がり込む。長距離線なので、毛布が1枚備え付けられている。ちなみに、追加の毛布は1枚30円で何枚でも貸してもらえる。シーズンオフで客もそれほど多くないためか、比較的ゆったりとした間隔で枕と毛布が置かれている。まずは窓際の隅にかばんを置き、ジャケットを脱いで体を横たえた。フェリーの醍醐味は、この「転がることができる」ということであろう。上等な部屋にも心惹かれるが、ここでも十分くつろげる。
 さて、このフェリー、九州・門司まで片道6000円。JAFの会員証を見せれば、クルマがなくても1割引になる。さらに、JAFの会員証がなくても、帰りにもこの阪九フェリーを利用すれば、その帰りが2割引。これは事前の予約など必要なく、きっぷを買ったときに14日以内有効の復路割引証明書がもらえるので、窓口でこれを添えて申し込めばよい。ということは、帰りは4800円。早割制度もあり、これで申し込めば往復とも2割引。転がることができて4800円。なんと素晴らしいことだろうか。
 船内を散策してみよう。ロビーをはさんで客室の向かい側はレストラン。けっこうメニューは揃っていて、好きな物を選んで精算するカフェテリア形式。売店には週刊誌やつまみ、土産などが並べられ、夜10時まで営業している。おすすめは、使い捨てスリッパ。船内をうろうろするのに重宝だ。(僕は買って直後、通路に置いていて盗まれた。寝床に持っていったほうがいい)缶コーヒーは130円と良心的。ゲームコーナー、カラオケ、麻雀室などもあり、退屈などとはいっていられない。ありがたいのは大浴場。タダで風呂に入れる。シャンプーやドライヤーもあり、タオルと着替えさえ持っていけば不自由することない。特別室には和室なども用意されており、家族連れにはこちらがおすすめだろう。
 至れり尽くせりで、しつこいようだが、4800円。新幹線で行けば1万円である。間違いなく、かなり得なのだ。年休ありがとうございます、である。

19:30 明石海峡大橋の下を通過。光が作るオブジェクト

<久々のフェリー>
 フェリーに乗るのは1年ぶり。ちょうど昨年の今頃、四国の帰りに、高松から神戸まで深夜便を利用した。明石海峡大橋の開通で、便数こそ減らされていたが、高速代がほぼフェリー代金(4m未満でJAF1割引での計算)と等しく、こちらも得をした気分だった。
 これまで、フェリーは何度か利用しているが、10時間を超える長旅は今回が初めてである。
 出港して1時間の19時30分頃、明石海峡大橋の下を通過する。寒かったがデッキに出てみた。この冷たい風と潮の香りが懐かしい。ちょうど岸に見える明かりの群は明石の町並みである。僕はこの町で26年過ごし、今も盆や正月にはこの明石へ帰省する。10年以上も前のことだが、よく海でこの海峡を眺めていた。海に行くのは、たいてい夜だったような気がする。そこで、冷たい風を受け潮の香りを感じながら、ただぼんやりと海を眺めていたのだ。とても贅沢な時間だった。今宵の風は、その頃を思い出させてくれた。
 影も形もなかった大橋が、今目の前で宝石のようなイルミネーションを灯しながら、どっしりとこの狭い海峡を跨いでいる。華麗さと力強さがうまく融合している。純粋に、美しい、と思う光景だった。
 22時には売店も閉まり、消灯のアナウンスが流れた。ビールを飲んでほろ酔い気分の今夜は、とても気持ちがいい。寝るのが惜しい気もするが、明日の走破に影響が出てはいけない。そろそろ眠ることにしよう。

国道199号のわかりやすい看板。

<夜明けの門司へ>
 翌朝5時30分頃、蛍光灯の明かりで目が覚めた。食堂営業開始のアナウンスが流れていたような気がするが、何時頃だったのかはっきり記憶がない。でも、僕が目覚めた少し前くらいなのだろう。まだ5時半だし。
 しばらくうとうとし、ようやく6時頃起きあがった。僕は朝が弱いのだ。
 洗顔を済ませ、定刻の6時30分、フェリーは新門司港に着岸した。ここから市街までは連絡バスが出ており、こちらも無料。ターミナルの長い階段を下り「小倉駅行き」と書かれた西鉄バスに乗る。門司駅を経由して小倉まで行くのだ。
 冬の6時30分といえば、まだあたりは真っ暗。しかもここは九州。夜明けは遅い。
 6時40分にバスは発車。フェリーから下りてくるトラックとともに市街をめざす。道路は土曜日ということもあるのか、かなり空いており、小さな峠を登るときも、抜き去る乗用車はほとんどない。
 20分で門司駅に到着。ようやく辺りが明るくなってきたが、クルマはまだヘッドライトをつけている。7時に駅に着いたのだが、レンタカー営業所は8時から。ゆっくりコーヒーでも飲もうかと思ったが、喫茶店が、ない。予想以上にない。門司という町は、意外とこぢんまりした町だった。駅で新聞を買い、唯一開いていたミスタードーナツへ入る。しかし、よくわからなかったのが、モーニングセットだ。注文すると
「マフィンが焼けていないんです」
「いつぐらいに焼けるの?」と僕が聞くと
「えっと・・・」といったん奥に入ってから、再び出てきて
「9時ぐらいです」
全然モーニングとちがうではないか。
 仕方ないので、単品でドーナツとコーヒーを頼み、誰もいない店でゆっくりと新聞を読んだ。

国道495号 北九州市若松区。風が強く、海は白波がいくつも押し寄せていた。

<今回の旅の友はホンダ・ロゴ>
 8時の開店と同時に営業所へ行った。ニッポンレンタカー門司駅前店は、門司駅から歩いて1分。駅に近いのがありがたい。ひととおり申込み手続きをし、さっそく国道199号へ向かう。199号は門司港から小倉市の八幡区国道3号との交点までという、全長33kmあまりの短い国道。国道3号のバイパス的要素も果たし、3号の北側を並行して走っている。途中の若戸大橋は北九州都市高速の一部で有料。北九州市内のパノラマが広がる。その北九州市は、1963年(昭和38年)に、門司、小倉、若松、八幡、戸畑の5市が合併してできた町で、人口100万人を越える政令指定都市である。
 ロゴは、小さくて乗りやすい、さりとてこれといった特徴のないクルマである。コンパクトで使いやすいが、ホンダの味みたいなものはあまり感じず、とくに印象に残ることもない。まあ、クルマの性格上、これで十分なのだろうが。

今回の旅の友、ホンダ・ロゴ。

<今回の走破路線>
 フェリーのレポートが長くなってしまった。国道レポートは手短にしよう。
 国道199号を走り終えてから、再び若戸大橋の下まで戻り、そこから495号で福岡へ向かうことにした。芦屋町では、国道ルートが入り込んでおり、少し迷ってしまった。地図で見る限り、海沿いを走る道路なのだが、シーサイドラインはごく僅か。それでも福岡から近場の海水浴場があるということで、夏場はかなり混むらしい。
 福岡からは国道201号。全線が指定区間ということで、走りやすいが交通量も多い。篠栗町から飯塚市までは、八木山バイパスが開通しているが、ほとんどのクルマが旧道を選択。旧道といっても、それほど走りにくいわけではない。こちらを利用すれば、八木山峠で、飯塚市のパノラマが楽しめるというオマケがついてくる。急いでなければ旧道を走りたい。
 飯塚からは一旦201号を離れ、211号で未走区間を走る。211号は、大分県の日田と北九州を結ぶ国道で、このうち飯塚と国道322号が交差する嘉穂町までの13kmあまりが未走だった。
 嘉穂町からは322号の未走区間、嘉穂町・久留米市間のうち、甘木市までの峠越えを堪能する。ここは昨年5月、走破を試みたが、峠の狭隘区間で、しかも深夜で薄気味悪く、とどめをさすように霧が出てきたので、やむなく走破を断念したところである。
 322号で甘木市に出ると、386号で筑紫野市へ。全線走破済みだが、写真を撮っていないので、撮影がてらに200号を北上。
 飯塚から再度201号の完走を試みる。単調な道路で、香春岳が見える以外はこれといって特徴のない道を進み、行橋へ着いたのは17時前だった。
 参ったのは、国道10号の渋滞。201号の終点、苅田町から九州道の小倉東インターまで延々とのろのろ運転。時間に余裕があったので、それほどあせりはしなかったが、強行スケジュールのラストスパートでこの渋滞はキツかった。
 九州道を一区間だけ西に進み、小倉南で国道322号へ。学生の頃、九州一周を試みたとき、ここからスタートしたのだ。だから、322号のもうひとつの未走区間、インターから小倉市街までを走っておく。幸い、こちらは渋滞はほとんどなかった

国道201号 福岡県庄内町。今回は4本の国道を走破。

<11時間の北九州走破終了>
 小倉から門司まで3号を走り、返却場所の営業所直前にあるガソリンスタンドに着いたのは19時前。ガソリン使用量は21リットル。リッターあたり15kmという、かなりの高燃費は、僕のロゴにたいする印象をかなり良くした。
 今回は、持ってきたカセットテープ以外に、わりと長い時間、FMに聞いていた。いつもこの時期はクリスマスソングの特集をしている番組が多い。僕はクリスマスがどうとかいうより、この時期にクリスマスソングを聴くのが好きなのだ。
 けれど、印象に残った曲が思い浮かばない。そういえば、巷でも今年はヒットしたクリスマスソングというものがあまりなさそうだ。山下達郎やワムを超えるアーティストを心待ちにしてるのに。
 帰りのフェリーは20時30分発、泉大津行き。バスは19時30分にやってくる。ここ福岡県に来たからには、土産に「辛子めんたいこ」を買って帰ろう。

(旅行日 12月17〜18日)

総走行距離:314q 
ガソリン消費量:21.0g 
燃費:15.0q/g

今回の走破距離:226q 
累計走破距離:29,239q