国道奔走記〜チェイサーを借りて優雅な西九州


新幹線の500系「のぞみ」で博多入りした。それにしても速い。新大阪から2時間17分。東京を朝6時に発った「のぞみ1号」は、新大阪を8時32分に出発し、10時49分には博多に着く。飛行機にするか迷ったが、今回の旅は学生時代の友人がここ博多で結婚式を挙げるので、それに出席するための旅。それに絡めて、西九州の国道を走ろうという算段。ホテルは博多駅前ということで、翌日朝のレンタカー返却の段取りを考えて新幹線にした。

<国道263号 福岡〜佐賀>
 「のぞみ1号」は定刻どおり博多に到着し、妻がホテルにチェックインしに行くいっぽう、僕はトヨタレンタカー博多駅前営業所に直行した。今回は少し贅沢しようということで、2000ccマークUクラスを申し込んだ。営業所で対面したクルマは現行型マイナーチェンジ前のチェイサー。同じ借りるにしても新しい方がいいので、まずは満足。手続きを終え、運転席に乗り込み、パワーシートのスイッチを動かしてドライビングポジションを調整する。ドアミラー・ルームミラーの角度を整え、いざ出発。とりあえず、妻が待っている博多全日空ホテルへ向かい、そこから国道202号線へ進路をとる。福岡市内は道路案内標識が極めて少ない。幸いカンで曲がるとそれが202号だったけれど、大きい道路が複雑に交差する市内は、とくに看板類の整備を進めてほしいものだ。天神付近は地下鉄工事で車線が規制され、ひどい渋滞だ。ここを過ぎれば、と思ったのだが渋滞は解消しない。それどころか、数キロ走って左折した国道263号はもっとひどい渋滞だった。チェイサーの性能が生かしきれないことにイライラがつのる。ひまつびしに、運転席周りを見渡してみる。まだ1万8千キロしか走っておらず、比較的新しいほう。僕の経験からいうと、レンタカーは通常3年使用でその間約10万キロを走る。運がいいのだ。さらに、あとでわかったことだが、このクルマは2.5アバンテ。2000ccだと思っていたので、これまた嬉しい事実。
 佐賀県との県境近く、山並み迫るところになって、やっと流れ出す。ここまで約15kmの道のりに1時間弱かかった。時刻は1時近くになり腹も減ってきたので、どこか食事をするところでも、と思うがすでに時遅し。「峠を越えるまでは無理か」と思いかけていた頃、三瀬峠に向かう上り坂の途中でレストランを見つけた。趣味のいいインテリアとBGMは美人のママといいコントラストを奏でている。食事も僕はカレー、妻はピザを注文したのだけれど、とても上品な味わいで、渋滞のことなどすっかり忘れて気を良くしたのであった。このようないい店に出会えると、行きあったりばったりの旅もいっそう楽しくなる。
 ヘアピンカーブが連続し高度を稼いでいる。三瀬トンネルに入る。ここを出ると佐賀県だ。出口(佐賀県側)に料金所がある。普通車250円也。料金は妥当な線だろう。
福岡と佐賀をショートカットする国道ということでそこそこの交通量を想像していたけれど、クルマの量はそれほど多くない。所々センターラインが消えるところもあるが、基本的には走りやすい2車線。川上峡の温泉街が見えると佐賀市街も近い。長崎道の佐賀大和インター手前から4車線のバイパス路になる。高架の国道34号をくぐり抜けると再び2車線。つき合ったところが終点。263号はこれで走破だ。


国道263号 佐賀県大和町 川上峡にて小休止


<国道207号 佐賀〜諫早>
つきあたりの交差点を左折すれば国道264号が久留米に続き、僕は右折して国道207号で長崎をめざす。いったん34号と重複したあと江北町で207号は有明海沿いのルートをとる。同じ長崎をめざす34号は、温泉で名高い武雄や長崎空港のある大村を経由するルートをとる。ふたつの国道は諫早で交差し、207号は大村湾沿いを走り、北側から長崎に入り込み、34号は南側ルートで市街に通じる。34号は佐賀以西を学生時代に通っており、今回は当然207号を選択することとなった。ちなみに、諫早までJR長崎本線は207号ルートに寄り添っており、道路と鉄道で幹線の経由地点が異なっている。国道と鉄道の幹線は同じような経路をとっているのが通例だが、ここ九州ではほかに、久留米・熊本間で国道3号と鹿児島本線のような例がある。前者は山鹿市経由で山中のルートをとるが、JRは大牟田を通る海沿いルートになる。ここを併走する国道は208号である。
 単調な道が続いたあと、鹿島市の中心街を過ぎると左手に有明海が広がった。ムツゴロウで全国規模の知名度を誇るだけあって、沿道にはムツゴロウにちなんだ名前の店が多数軒を並べる。物議をかもした例の水門はこの近くのはずだが見つけることはできなかった。おそらく見逃したのだろう。海が見えてからすぐ、道の駅鹿島がある。立ち寄って、無料展望台から有明海を眺める。双眼鏡が無料なのは良心的だ。覗いてみると、サギが干拓で羽を休めている。僕は水門の是非を話せるほどこの地域の勉強をしていないけれど、その工事が人間と自然との共栄共存をはかるぎりぎりの選択だったのかどうか。そこだけがこの風景と快適な2500ccの乗用車の姿と重なった。
207号は海沿いに南下し続けている。カニ料理の店がやたら多い。そんなに大きなカニがとれるのだろうか。普賢岳が見える頃には、太陽が真正面の位置になった。進路が南南西に変わったのだ。諫早市に入った。


国道207号 佐賀県鹿島市 有明海の干潟が広がる


<国道34号 諫早〜長崎>
思ったより賑わいのある諫早の町を通り抜け、長崎へは34号を選んだ。207号の残りは帰りに走ろう。前回は長崎バイパスを利用したので、今回は完全な一般道を走ることにする。長崎を訪れるのは4回目だが、来る度いつも「すごいところに家が建ってるなあ」と思ってしまう。その地形が良港を導き、貿易によって経済が発展したのだけれど、この断崖に建つ家々を見て、人間の営みの力強さみたいなものを、僕は安心感のような感覚をもって感じていた。かつてない不況で「不死鳥」と信じていた日本経済に失望感が蔓延しているなか、僕は「日本はそんなにヤワじゃないんだぞ」と無意識に言い聞かせていたのかもしれない。そうすることによって、自分のあきらめを払拭しようとしていたのかもしれない。坂を降りきって市街に入る頃には、ほとんどのクルマがスモールランプを点けていた。ここ長崎に来た理由は、国道走破以外にもうひとつある。餃子だ。学生の時、ガイドブックで知ったミニ餃子の店に寄ってみたのだが、その味が忘れられず、2年前長崎に来たときにも寄っている。思案橋付近にある「雲龍亭」は電車どおりからも見える黄色い看板が目印で、近くのパーキングにチェイサーを預け、3度目の対面とあいなった。ここの餃子は、少し油で揚げたあとさっと焼くという独特の調理法をとっており、餃子の命である「かわ」が香ばしく仕上がるよう工夫されている。二人で5人前をたいらげ、腹も気持ちもすっかり満たされたあと、妻を長崎駅まで送っていった。妻の友人たちが新婦を交えて宴会をするとのことで、彼女はここから電車で博多に向かうからだ。

<国道207号 長崎〜諫早・長崎道>
18時をまわった長崎は帰宅ラッシュが始まっており、長崎駅から北上する国道206号は大渋滞。結局207号が分岐する時津まで渋滞は続いた。時津から諫早まではリアス式海岸をくねくねと走るルート。地図から予想していたとおり、センターラインのない道。もっとも、交通量もそれに見合うものだったが。走り抜けるには時間のかかるルートだが、大村市街と長崎空港の夜景が美しい。しばしクルマを停めて、大村湾の夜景に酔ってみる。諫早で夕方に通った34号に合流。これで207号は走破だ。とりあえず長崎道に乗り、パーキングエリアでこの先のルートを考えることにした。大村インターの先にある大村湾パーキングエリアに寄り、地図を開いてみる。時刻は20時30分。最優先は34号の佐賀・鳥栖間。ここを走ると34号は走破になる。多久インターまでこのまま走ると博多には23時には着けるだろう。ホテルには、明日結婚式の段取りを考えても、1時までに入ればいいと思う。ならば、と思案の末、この先の東そのぎインターで長崎道を降り、国道205号を走破したあと、国道35号の未走区間、佐世保(国道202号交点)と有田の間を走り、西九州道と長崎道で多久インターに抜けることにした。いい時簡になるだろう。大村湾が臨めるパーキングを散策したあと、再びチェイサーのアクセルを踏む。高速道路において排気量の差は大きく感じられる。実に楽だ。もっとも、レスポンスのいいトヨタの1Gエンジンとマイカーの1500ccNAエンジンとを比較する方が酷だということもいえるが。

<国道205号 東彼杵〜佐世保、国道35号 佐世保〜有田>
国道205号は平戸街道とも呼ばれ、その平戸へは佐世保で弟分の国道204号に引き継いでその役割を果たす。先ほどの207号よりも低い位置で大村湾に寄り添い、快適な夜のドライブが続く。左手側にオレンジ色の明かりが多く見えている。ハウステンボスだ。ここの駐車場に通じる交差点を過ぎると、対向車線の右折レーンが2車線で延々と続いている。連休などはかなりのクルマがここに列を作るのだろう。ほどなく国道202号と合流し、3kmで国道35号だ。7年前はここを左に曲がった。今日は右折し、35号を完走する。有田まではあっという間だった。いましがた走破した205号に続き、今日4本めの走破。

<西九州道、国道34号 佐賀〜鳥栖、九州道で福岡へ>
時間を節約するため西九州道・波佐見有田インターから高速に乗る。佐賀県の多久インターからは国道203号で34号に合流し、今回走破の旅ラストを飾る34号の完走に挑む。今日昼にも感じたことだが、佐賀・長崎はみんなゆったりと走っている。大阪とはえらい違いだ。34号の佐賀バイパスも4車線の整備された道だが、みなが左側を制限速度以下で走っている。オービスもあったが、大阪の場合、ここを過ぎるとみないっせいにアクセルを踏む。ここではそんな光景が見られなかった。やがてこの34号も対面通行となり、前車に続くゆったりとした走行になった。幹線道路だけあってトラックが多い。
 鳥栖市に入った。コンビニの数も多くなり、連休前の金曜夜ということもあって、若者の乗るクルマも目立つ。鳥栖インターの表示が見えてきた。深夜0時前、今日5本めの国道走破。これほど効率よく走破本数を稼いだことも珍しい。充実した満足感と心地よい疲労感を覚えながら左ウィンカーを出し、インターのランプに入った。
 このあと、僕は九州道を太宰府まで走り、福岡都市高速に乗り継いで、ベイエリアの百道まで、チャイサーの最後のドライブを楽しんだ。天神あたりは休日前ということもあって人通りが多い。大阪と同じようにタクシーが列をなしている。その横を通り抜けて、博多駅前のホテルに向かった。チェイサーは期待以上の楽しい旅を提供してくれた。そのチェイサーのハンドリングを惜しみつつ、ホテルのパーキングに入るためウィンカーレバーを下げた。

総走行距離:393.4km  ガソリン消費量:40.4g  燃費:9.7km/g

今回の走破距離:283.6km   累計走破距離:25,839km
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