日本カメラ2012年度カラープリントの部 実績

審査員:十文字美信氏


1月号


「休日」 金賞

審査員のコメント

今回の金賞2点は、男女の違いはあるが、偶然にも写っている世界は似ている。意識して選んでいた訳ではないが、最終的に残った。子供を撮っているのだが、ただ可愛いというのではない。不思議だったり、ちょっと恐いところがあったり、セクシーだったりと、これから大人になって身につけていくであろう、さまざまな魅力が、この2つの作品には含まれていて、子供なんだけれど人間としての魅力がすでに感じられる。特に女の子の写真は目に留まり、すぐにセレクトした。ハンモックの影の顔と体へのかかり具合、表情、そして撮影中に風が吹いてきたのだと思うが、その風を感じる。こうしたさまざまな要素が混ざり合っていて、とても素晴らしい。




2月号


「夏日」 銅賞

審査員のコメント

よく見る夕方の斜光風景。都会の街感と十代の女の子がしゃがんで携帯を見ているという、今の風俗が写っている。斜光のおかげで、かろうじて普通の風俗を捉えた風景から「写真」になっている。




3月号


3次予選通過 




4月号


「夜更かし」 銅賞

審査員のコメント

パソコンのモニターの光で顔が照らし出されている。部屋の電気とモニターの光との色温度の違いが効果的に表現されており、明るさのバランスも良い。夢中になってパソコンを触っている佇まいが、現代の典型的な一場面に思えた。




5月号


「息子」 金賞

審査員のコメント

これがなぜ金賞になったのか。ほかの応募作品と比べてどこがどういう風に違うのか、はっきり言葉にできないが、明らかにこの写真が持っている魅力というのがある。この写真のみに漂っているのか分からないが、「息子」が写っているのではなく、少年自身が持つ初々しさ、洒落たセンスが写っていて、それが見ている人に届く。それは少年時代に持っていたい、ひとつの理想的な感覚というか、一瞬、写真だけが捉えることができた感覚というか。純粋なものに感じた。実際に少年に会っても、こういう風に受け止めて捉えられないと思う。上半身の動きだけが止まっていて、あとがブレているが、井上さんが無意識に少年の動きに合わせてシャッターを切った感じがする。うまい具合にブレた。何かをこちらに向かって言いかけているようなこの姿がすごくいい。ひとえに少年の魅力に尽きる。




6月号


「ピクニック」 銅賞

審査員のコメント

プロっぽいセンスを持った人だ。そして撮る写真に気品がある。被写体のいる空間のどこに自分の位置があるのか、自分が関係の当事者になることが写真にするひとつの条件だが、それが苦もなくできている。もし、井上さんが家族ではない被写体を撮ったらどんなものが撮れるだろうか?




7月号


落選




8月号


「リラックス・タイム」 銀賞

審査員のコメント

これまで息子さんを撮った秀逸な作品があったが、今回の娘さんを撮った写真もいい。ただ、お嬢さんの井上さんを見つめる視線が井上さんには分かっており、あらかじめ見えていたものを撮ったようで、新鮮な目には感じられなかった。具体的に何と言うのは難しいが、井上さんが写真を撮りながら、新鮮な驚きの瞬間にうまく出会うことができれば、さらに次元の高い作品になる。そのレベルはアマチュアの領域を超えてしまうが、家族と父親という関係以外の新しいアプローチを図っていくことで、新鮮な家族写真が生まれてくるのだろうか。




9月号


「路地」 銅賞

審査員のコメント

逆光とリフレクションで浮かび上がった、カードに夢中な少年の表情に尽きる。カードの1枚を引き抜いて見せびらかそうとしている一瞬前、そしてこれからしようとする仕草。細い路地の感じも魅力になっている。フレーミングも少年の影を意識して撮っている。




10月号


「住処」 銀賞

審査員のコメント

黄昏時、帰宅した人の部屋にポツポツとついた明かりが、田んぼの水面に映り込んでいる。非常に優れた写真で、金賞枠が3点あればこの作品も加えたかった。何でもない風景、何のドラマもない瞬間を、こうやって写真に撮ることで、この場所で実際に見ているのでは感じられない、さまざまな感情が生まれてくる。僕が写真を選ぶひとつの、そして大きな基準になっているのだが、今回のこの写真にはそれを感じる。井上さんが撮ったことで、このアパートが何か愛おしいというか、可愛らしく感じられた。





11月号


「海辺」 銀賞

審査員のコメント

金賞に迷った1枚。毎月、井上さんの写真に対する取り組みに共感というか、このまま行ってほしいという気持ちで見ている。井上さんは家族を被写体にしていることが多いが、家族を通して現実を超えかかった、日常の中の不思議な断片をよく見つけている。今回の写真も母と娘の位置関係といい、見ている人がこの場にいるような何とも言えない良さがある。金賞2作品よりもう少しポジティブで、日常の側に踏みとどまった一瞬、向こう側には行かない、絶妙な位置取りがされている。家族で出かけた時の本当の瞬間、日常を非常に感じる作品。




12月号



「潮風」 金賞

審査員のコメント

セレクトした後で気付いたが、奇しくも1月号の金賞作品も、井上さんが撮ったお嬢さんの写真だった。最後にまた金賞になったとは、劇的な感じがした。井上さんの作品も、早川さんの金賞作品と同じく、少女の持っている、この時の少女だからこそ感じられる可愛らしさや美しさ、言葉では言いようのない、馥郁とした香りみたいなものが、風に乗って見ている人に感じられる。素晴らしい写真だ。井上さんも早川さんも、デリケートな光に対する感度が非常に良い。写真ならではの素晴らしい一瞬を捉えている。肉眼では見えない、見過ごしてしまうようなところに存在する匂いのようなものを写真で捕まえた時、被写体が人間である場合は、そのままひとつの強さとなって定着されるんだなと、今回の金賞作品2点から感じた。




日本カメラ2012年度カラープリントの部年度賞 3位