1986.8 函館市電





函館市交通局 1986.8
Canon T70 New FD70-210mm F4 フジカラースーパーHR100




函館市交通局 1986.8
Canon AE-1PROGRAM New FD135mm F2.8 NEOPAN400



撮影メモ・・・高校2年の北海道旅行。友人が先に連絡船で青森に向かったあと、一人で函館の街をうろついていた。私は深夜0時をまわった船に乗るつもりだったので時間はたっぷりとあった。

 素敵な港町である。この日は天気が下り坂だった。函館山の夜景を見るつもりだったので、市電に乗りロープウェイ最寄りの電停で降り立った。すでにぽつぽ つと雨が降り出し、折りたたみ傘を出そうとカバンの中をごそごそと探したのだが、ない。どうやら函館駅のコインロッカーに預けた大きいリュックに入れたま まらしい。

 仕方なく濡れるまま交差点で立っていると、突然雨があたらなくなった。「はて?」と思い後ろを振り返ると、かわいい女子大生が二人、そしてそのうちの一人が私に傘を差しだしてくれていた。

「旅行ですか?」と聞かれ
「そうです。函館山に行こうと思って。でも傘を忘れてしまって」
「私たちも函館山行くので、いっしょに行きましょうか。」

そんな会話だったと思う。いやあ、旅にはいろんな出会いがあるものである。で、ロープウェイに乗ったのだが、雨でモヤっており夜景はほとんど見えなかっ た。ところがである。ロープウェイを降りて「今日はダメですねえ」と話していると、突然視界が広がり、函館の大パノラマ夜景が現れたのであった。右手側の 海には漁り火が独特の情緒を醸し出していた。3人で大喜びしたのは言うまでもない。

 やがて夜景はきらめきを失い始めた。モヤが出てきて、再び眼下は黒一色の世界になった。

 ところで、東京から観光で函館に来たという彼女たちは、どうやら私を大学生だと思っていたらしい。当時私はパーマをかけていたし、顔も「老け顔」だった のでそう思われても仕方ない。「17歳なんですよ」というと、二人ともかなり驚いていた。そんなに驚かなくてもいいのにと思ったものである。

 それでも、この1週間の貧乏旅行の話をするとかなりウケたようで、私も気がよかったのだが「そんな節約旅行なら、今日は私たちがアイスコーヒーをごちそうしてあげる」と、これまた涙が出る話である。3人で真っ暗闇の外を見ながらアイスコーヒーをありがたく頂いた。

 女子大生とはロープウェイを降りたところで別れた。
「ありがとうございました」「いい旅を」
私にとって北海道を締めくくるにふさわしい出来事であった。

 函館の街はまだ雨が降っていた。濡れることは、まったく気にならなかった。日付が変わり、連絡船は岸壁を離れた。デッキから夜の海を見た。沖には漁り火が幻想的に連なっていた。