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社会起業家とは
 
藤沢 このたび、7月1日に、
「社会起業家フォーラム」を設立されるのですが、
いま、なぜ、社会起業家なのでしょうか。
  
田坂 7月1日に、「社会起業家フォーラム」を設立させていただきます。
このフォーラムを設立する目的は、一言で言えば、
「社会起業家」としての「生き方」や「働き方」を
広く社会に提唱することであり、
そうした「生き方」や「働き方」をめざす方々を
支援することです。
 
しかし、そのためには、
まず、そもそも「社会起業家」とは何か。
そのことを、明確にしなければなりません。
 
実は、このフォーラムの最初の活動は、
この「社会起業家」という言葉の「新たな定義」を提案することです。
 
これまでの「社会起業家」という言葉、
すなわち、「ソーシャル・アントレプレナー」という言葉は、
英国を始めとする海外でも、また我が国においても、
様々な意味合いにおいて使われてきました。
しかし、これまでの「社会起業家」の定義は、概ね、
次の二つの意味を持って使われてきたと思います。
 
まず第一は「社会起業家」の「社会」という言葉の意味です。
これは、しばしば、
「社会起業家」とは、単なる「起業家」ではない、
という表現とともに使われてきました。
その意味は、「社会起業家」とは、一般の「起業家」のように
「営利」を目的として活動するのではなく、
「社会への貢献」を目的として活動する人々であるという意味です。
そして、その「社会への貢献」の分野も、
医療、福祉、環境、教育、文化などの「社会サービス」の分野で
活動する人々という意味が中心でした。
 
そして第二は「社会起業家」の「起業家」という言葉の意味です。
これは、しばしば、
「社会起業家」とは、単なる「社会活動家」ではない、
という表現とともに使われてきました。
その意味は、「社会起業家」とは、
社会奉仕や慈善運動を行う一般の「社会活動家」のように
「寄付」や「補助金」に頼って活動するのではなく、
「事業としての持続性」のある活動を行う人々であるという意味です。
そして、その「事業としての持続性」を確保することのできる
プロフェッショナルとしての起業能力や経営能力を身につけた人々
という意味でした。
 
すなわち、これまでの「社会起業家」の定義は、
医療、福祉、環境、教育、文化などの社会サービスの分野で、
起業家精神と起業能力や経営能力を発揮して
現在の事業の革新や新しい事業の創造を行っていく人々
という意味でした。
 
たしかに、我が国においても、こうした意味で
まさに「社会起業家」として活動し、
様々な実績を残している方々はいます。
そして、それらの方々の活動は敬服すべきものであり、
その姿からは深く学ぶものがあります。
 
しかし、こうした先進的・先鋭的な定義だけでは、
「社会起業家」としての「生き方」や「働き方」は、
必ずしも、大きく広がっていかないでしょう。
藤沢 では、どうすれば、
この「社会起業家」としての「生き方」や「働き方」が
大きな広がりとなっていくのでしょうか。
  
田坂 それには、先ほどの「社会起業家」の定義の二つの意味を
もう一度、深く見つめ直してみる必要があります。
 
まず第一に、「社会起業家」という言葉の「社会」の意味は何か。
そのことを考えてみましょう。
 
 
これまで、「社会起業家」について論じる書籍や論文において、
「営利」を目的とした「起業家」や「企業」ではなく、
 
「社会貢献」を目的とした「社会起業家」
という表現を、しばしば眼にしました。
 
しかし、改めて言うまでもなく、
いま我が国で活動する「起業家」の中に
 
「社会貢献」や「社会変革」の志を持っている人は、
決して少なくありません。
また、いわゆる「大企業」で働く人々の中にも
仕事を通じて「社会貢献」をしたいと考えている人もまた、
決して少なくありません。
 
この「社会起業家」というものが、
我が国において大きく広がっていくためには、
そのことを理解しておくことが大切でしょう。
 
また、時代の流れを見ておくことも大切です。
なぜなら、これからの時代は、
いわゆる「営利」を目的とした民間企業にも、
 
「社会責任」や「社会貢献」という姿勢が
強く求められる時代になっていくからです。
 
例えば、「製造物責任」(PL)や「環境共生」(エコ)
 
「地域市民」(コミュニティ)や「社会貢献」(フィランソロピー)
さらには「文化支援」(メセナ)などの言葉は、
これからの時代の企業が、
単なる「営利」だけを目的とした活動を行っていては、
決して、社会から受け入れられないことを意味しています。
ある意味で、これからの時代の「営利企業」は、
ますます「社会的公器」としての性質を強めていくのです。
 
一方、こうした時代の流れに対して、逆に、
これまで公益法人などの「非営利組織」が提供していた
「社会サービス」は、その多くが「民営化」される方向に
進んでいきます。
また、NPOなどの「非営利組織」にも、
その自立性と持続性を確保するために、
何らかの「継続的な事業収益」が求められる時代となってきています。
 
こう考えるならば、そもそも、企業や組織というものを、
「営利」 対 「非営利」という形で、また、
 
「営利」 対 「社会貢献」という形で対立的にとらえる発想そのものが
もはや古くなっているのです。
すなわち、これからの時代、
 
「営利企業」の側は「社会責任」や「社会貢献」という姿勢を学び、
「非営利組織」の側は「効率性」や「事業収益」という視点を学び、
そのことによって、ヘーゲル哲学の「相互浸透」的なプロセスを通じて、
ある意味で、類似した組織形態に向かっていくのです。
 
また、「社会起業家」が「社会貢献」のために取り組む分野は、
医療、福祉、環境、教育、文化などの、
いわゆる「社会サービス」の分野といわれてきましたが、
これからの時代には、営利企業が扱う商品とサービスの多くが、
こうした分野に関連したものになっていきます。
 
こう考えてくるならば、これからの時代においては、
これまで「営利」と言われてきた「起業家」や「企業人」でも、
まさに「社会起業家」としての「社会貢献」ができる環境条件が
ますます整っていくでしょう。
藤沢 なるほど。では、「社会起業家」という言葉の第二の意味は
どう考えればよいのでしょうか。
  
田坂 そうですね。
第二に、「社会起業家」という言葉の「起業家」の意味は何か。
次に、そのことを考えてみましょう。
 
これまで、しばしば「社会起業家」という言葉を聞くと、
その「起業家」という言葉に目を奪われ、
「会社を創って独立すること」と誤解する人が少なくありませんでした。
 
しかし、「社会起業家」という言葉の「起業家」とは、
必ずしも、「会社を創って独立する人」だけを意味していません。
海外の先進的な「社会起業家」の事例を見ても、
 
企業に在籍したまま地域の再生に取り組んでいる人々や、
役所や病院、学校や警察に所属しながら
新しい社会システム創りに参加する人々が少なくありません。
 
そういう意味で、
「社会起業家」という言葉に含まれる「起業家」という言葉は、むしろ、
「事業や組織、企業や市場、地域や社会に新しい変革をもたらす人」、
すなわち、「イノベータ」という言葉と同義語になってきています。
 
しかも、近年のネット革命やIT革命の進展によって、
「バーチャル・コーポレーション方式」の活動を行うことが容易になり、
独立して一つの会社や組織を設立しなくとも、
自由に「起業家的」な活動ができるようになってきています。
 
そのため、これからの時代には、たとえ「大企業」に所属していても、
「官庁・自治体」に所属していても、
「独立」することなく「起業家的」な活動ができるのです。
 
 
また、一方で、たとえフリーエージェントやSOHOなどの
「個人」であっても、人的ネットワークを活用して
「起業家的」な活動ができるのです。
 
こう考えてくるならば、これからの時代においては、
「大企業」や「官庁・自治体」に所属したままでも、また、
一人の「個人」のままでも、ベンチャー企業を創ることなく、
まさに「社会起業家」としての活動ができる環境条件が
整っていくでしょう。
 
もとより、こうした「起業家的」な活動をするためには、
それなりの「起業能力」や「経営能力」が求められます。
しかし、これまで新事業を成功させた「起業家」をみても、
最初から「起業能力」や「経営能力」があったわけではありません。
そうした能力は、夢や志を持って活動しているなかで、
目的を持って身につけていくべき能力であり、
また、身につけていくことができる能力なのです。
 
その意味において、「社会起業家」に、最初から、
高度な「起業能力」や「経営能力」を求めることは
必ずしも絶対的な条件ではありません。
 
むしろ、「起業家」や「社会起業家」に求められるのは、
二つの力です。
一つは、何度失敗しても挑戦し続ける、「強い志」や「深い使命感」。
もう一つは、周囲に様々な専門能力を持った人々が集まってくれる
「人間的魅力」や「パーソナリティ」。
その二つの力なのです。
  
藤沢 そうですね。私自身の起業経験でも、その大切さは感じました。
やはり、失敗しない事業はない。そして、一人でできる事業はない。
そう考えると、その二つの能力は、とても大切な力ですね。
田坂 さて、このように、先ほどの「社会起業家」の定義の二つの意味を
もう一度、深く見つめ直してみると、
これからの時代に我々が掲げるべき「社会起業家」の「新たな定義」が、
明瞭に見えてきます。
 
すなわち、これからの時代に「社会起業家」という言葉は、
 
「社会サービス」の分野で「新しい事業」を起こす人々。
 
という意味合いの「従来の定義」を超えていくでしょう。
 
そして、この「社会起業家」という言葉は、
大企業、中小企業、ベンチャー企業、政府、自治体、公益法人、病院、
学校、大学、研究機関、さらには、NPO、個人などの立場を問わず、
 
「社会貢献」や「社会変革」の志を持ち
「現在の事業の革新」や「新しい事業の創造」を通じて
「良き社会」を実現しようと行動する人々
 
という定義へと広がっていき、
それが「新たな定義」となっていくでしょう。
 
そして、我が国においては、
いま、まさに、この意味における「社会起業家」が、
数多く生まれてくることが求められているのです。
  
藤沢 なるほど。
では、もう一度うかがいます。
いま、なぜ、「社会起業家」なのでしょうか。
  
田坂 いま、なぜ、我が国の変革が進まないのか。
 
それは、決して、政治や行政の改革、経済や市場の改革が
壁に突き当たっているからではありません。
 
もう一つの大切な変革が、忘れられているからです。
 
それは、何か。
 
我々一人ひとりの変革です。
 
我が国の変革を成し遂げるためには、
「政治の在り方」や「経済の仕組み」の変革だけでなく、
我々一人ひとりの「生き方」と「働き方」の変革が
求められているのです。
 
では、いま、求められる
我々一人ひとりの変革とは何か。
 
それが、
「社会起業家」としての「生き方」と「働き方」への変革です。
 
「良き社会」を実現しようとの志を持ち
「良き仕事」を残そうと歩み続ける
「社会起業家」
 
その「社会起業家」としての「生き方」と「働き方」への変革です。
 
7月1日、この「社会起業家フォーラム」、
「 Japan Social Entrepreneur Forum 」(JSEF)は、
 
そうした「社会起業家」としての
「生き方」と「働き方」を広く社会に提唱し、
 
そうした「生き方」と「働き方」をめざす人々を
支援するために生まれます。
 
 
多くの方々の参加と応援をいただければ、幸いです。
 
  
藤沢 ありがとうございました。
 
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