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積み重ね〜日刊デジクリより
 
●大変なのは積み重ねること
 
例えば、英語は訓練を積み重ねないと上達できない。野口悠紀雄氏は最新刊の
『超・英語法』で、英語をものにするのにはだいたい4,000時間の訓練が必要
であろうと述べている。一般的な日本人が大学卒業までに受けてきた英語教育
の総量が1,000〜2,000時間と仮定して、あと2,000時間くらい頑張ればなんと
かなるはずだから、とにかくその量をこなしましょう、ということだ。
 
・超・英語法 師の本は常に具体的
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062122669/250-9589030-6022660
 
いずれにせよそれは容易なことではなく、野口教授は意志が弱い人間が訓練の
積み重ねを達成するための、様々なアプローチを紹介している。英語の訓練を
始めることは、そんなに難しいことではない。「続けること」が大変なのだ。
 
よく英会話商法で問題になるのはそこのところで、英会話学校に入学したとこ
ろで英語が身に付くはずもなく、(なぜって、それは「入り口」にすぎないか
ら)しかし学校側はいかにも「すぐにペラペラ、国際人!」てなイメージで、
消費者を煽りまくるからだ。
 
●積み重ねこそが力になる
 
例えば街の求人広告を一通り見て誰にでもわかる事実、それは前歴、キャリア
の積み重ねが職種・給料を決めるということだ。
 
良い職歴を積み重ねたものだけが、有利な条件で次の職場へ移っていける。年
収1,000万以上の方〜 なんていう求人広告を詳細にみると、どう考えても前
職でそのくらい稼いでいた人間しか相手にしていない、ことがアリアリとわか
る。そんなもんである。
 
「キャリア・デザイン」とか「キャリア・パス」というと、虫酸が走るような
軽い響きがあるが、職歴というものは具体的な仕事の積み重ねを継続する以外
に「デザイン」する方法がない。それは一念発起・一夜漬け・一発勝負で出来
るほど簡単なことではないから、その人の「実力」として信用ある指標とされ、
その人間の俸給、という具体的な価値に直結する。
 
時間をかけて積み重ねたものは、一瞬のみ盛り上がったものより、常に力を持
つ。基礎・土台から時間と手間暇をかけて作られた建築は地震に強い。歴史の
ある企業は景気の浮き沈み、世の中の移り変わりに強い。ボディビルというけ
れど、ボディをビルドするには一日二日では不可能なのはこの世の習いである。
「努力」の「持続」、「エネルギー」×「継続」こそが、何かを達成するため
に必要な、必須の要素であるはずだ。
 
むしろ『始めよう』というエネルギーは、『続けよう』というエネルギーに比
べればほんのわずかなものだ。だから、継続=成功とすら言い切ってもいいと、
私は思っている。
 
●IT関連も当然、「継続=成功」
 
「積み重ね」「継続」は具体的で、頼りに出来る指標である。誰の異論もない
はずだ。なのに時々、無視されたり過小評価されたりするのは、マスコミの場
合は流行りものを持ち上げて落としてなんぼ、という商売だからということも
あるが、何より「継続」が地味で、華がないからだろう。人は変化には気づき
やすいが、安定にはなかなか注意を払おうとしない。面白い・面白くないで言
えば、それは「面白く」はないからね。
 
だが普通に読み書きが出来る教育を受けてきた誇りがあるのなら、そろそろIT
関連の話題も、実績をもとに話をすべきだ。一瞬だけ注目を集めることは、誰
にでもチャンスがあるのがインターネット時代の特徴だ。××が流行だ、××
に乗り遅れるな、と一喜一憂するより、基本的に地味な努力の上に成り立つ安
定を、しっかりと見据えられるようにしたい。それがまっとうな大人の目線で
はないだろうか。違います?
 
テクノロジーは、積み上げた実績を、より多くの人に参照させることを可能に
した。過去の記録は個人・法人を問わずネットで閲覧しやすくなった。だから
こそ、より判断の指標にしやすくなった。なのに、未だに時間軸でほんのわず
かの間の出来事を、評価基準で語るのはあまりに馬鹿馬鹿しい。
 
だからホームページブーム、メールマガジンブーム、ネット起業ブーム、情報
発信ブーム、blogブーム、結局の所、積み重ねでしか達成できない成功の果実
の部分を、仕組みを導入した時点で成功したかのように言う、その神経がわか
らない。上記に挙げたブームの勝者は、ひとつの例外もなく困難な継続を達成
した者だけであり、あとは屍累々、これほどわかりやすい例もない。
 
●デジクリの未来について言えること
 
前回のまつむらさんと笠居さんのコラムで、デジクリの未来についての質問が
出ていた。これについては私は少なくとも当事者のひとりなので、もう少し具
体的に答えることが出来る。他の執筆の方々も気になるところだと思われるの
で、はっきり書いておきたい。
 
私がデジクリの運営に対していつも考えていることはただ一つ、「5年先も、
変わらず毎日届くこと」。過去の5年間に敬意を払い、「毎日、いつもの時間
に届くこと」を、この先5年間も、びくともせずに続けられるようにしたいと
いうのが目標なのだ。
 
うつろいやすいインターネットの世界の中で、常に変わらない生活の一部のよ
うに存在すること、これこそが数年をかけて挑戦しがいのある目標である。そ
のためには基礎工事こそが最重要で、この一年はそれにかけてきた。データベ
ースありき、ではなく、業務を効率化するために、データベースを導入した。
楽に、長く続けるために、いろんなことに挑戦するのである。その逆はあり得
ない。
 
発行を続けるためにはシステムだけでなく、収益も必要だ。だからいろいろと
手も打っている。デジクリは日々具体的にお金がかかっている。デジクリのス
タッフには確実に、それは日々積み重なる負担になっている。もちろんぼうっ
と見ているわけじゃない。だからといって、思いつきで行動するような馬鹿な
真似は、絶対にやらない。オーソドックスなこと、シンプルなことを取り入れ
たい。
 
日刊デジクリの内容は『なんでもあり』である。むしろ規定されてしまった瞬
間に、確かにそこにあったはずの面白さは消えてしまうだろう。形にはまって
いない面白さ、常にいろんな執筆陣の思い描いた、いろんなデジクリが読者に
届くこと、それを安定したバックグラウンドで支えたいのである。
 
世の中『思いつく』だけの人なら、本当に沢山いる。そんな人でなく、それを
実現し、そして「実現しつづける」人のことをこそ、大人ならきちんと評価し
なくてはならないし、そういう目線を持ちたいと思うし、そういう人に評価さ
れるメディアに、なったらいいな、と思っているのだ。
 
だから、もう少し、長い目で見て下さい。でも、流行すたりでメルマガやって
んじゃないんだ、メルマガが好きだからやってんだ! てなもんですよ。そう
いう心意気じゃなくっちゃ、意味がないと思いませんか?
 
【8月サンタ】santa8@mac.com
LondonとLyallとLeCarreを愛する35歳元書店員。某超大手取次社員の経験アリ。
・本当に、地味な部分を評価する人は少ない。デジクリで言えば、デジクリオ
フ会における石原買い物王子様の仕事は、もっと注目されてもいいと思う。