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「バスシステムの質的アップの必要性とその根拠」(1998.11.28 (社)システム科学研究所「京都府公共交通意見係」投稿)
 
 交通のインフラ整備といえば、投資金額が大きいというのが相場である。しかし、今までのような右肩上がりの経済成長が見込めない今後は、それらをあてにした大幅な投資を伴う計画は愚策といわざるをえない。とくに、京都のような、都市としてある程度の規模に達し、なおかつ伝統的なたたずまいを備える、ある種特別な環境下にある京都市においては、「現状の交通インフラをさらに生かす」という方向で将来を見据えるのが得策だろう。
 以上のような観点から、具体的にはバス交通の整備が急務と考える。バスの弱点は定時性に尽きるだろう。それを阻害しているのはクルマである。クルマを排除すればバスの定時運行は確実なものとなる。しかし、クルマもそれなりの理由があって都市に流れ込んでくる。それを一方的な施策で締め出すことは現実的ではない。クルマの流入を抑えるには二つの観点が必要になる。ひとつは、都市の外側に各主要道路を連結する外郭環状道路の整備によって、クルマの能動的な都市流入を防ぐ方法と、ふたつめは、法律による流入阻止である。前者は現在建設中の京都縦貫道と、まだ計画さえない北・東側の高規格環状道路の整備が急務となる。いっぽう、後者においては、ヨーロッパの都市などでは実例が数多く存在するようだが、国内においては鎌倉市で実験例がみられる程度である。環境問題も含めて、そろそろ日本においても、パーク&ライドとセットにした都市への自動車規制が必要な時期に来ていると思われる。
 地下鉄を建設するような大規模な需要は、現状において必要を感じない。ましてや新交通システムなど、愚の骨頂である。路面電車復活論が一部でささやかれているが、運営や資金の面など、法改正を伴うような壁も多く感じられ、現状の議論はムード先行といった感が否めない。資本を投下するなら、前述のように広範囲の活性化をも期待できる外郭道路の建設に注力し、現在ある交通システムの質的アップをはかるのがもっとも効果的ではないだろうか。バスはもっともみぢかな乗り物である。障害者や高齢者にとっては、垂直移動が伴う地下鉄などは、たとえエスカレーターやエレベーターが整備されても、気分的に苦痛を伴うものだ。人に優しい、バスシステムの質的アップが、京都の町には得策であると考える。