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胃にやさしい食材
『白身魚』
 
【白身魚が胃にやさしい理由】カレイなどの白身魚は、脂肪分が少なく消化がよいので、胃にやさしいたんぱく源といえます。
【胃にやさしいメニュー】カレイを甘辛く煮て、最後に大根おろしをたっぷり加えてひと煮する「カレイのおろし煮」などいかが? おろしのさっぱり風味がきいて薄味でもおいしく、胃に負担をかけません。大根おろしを入れたらすぐに火を止めるのがポイント。煮すぎると大根に含まれる消化酵素が失われてしまいます。
 
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『キャベツ・カブ』
 
【キャベツ・カブが胃にやさしい理由】キャベツやカブなどやわらかく煮える野菜は、消化吸収がよいので胃にやさしい食材です。
【胃にやさしいメニュー】胃の調子が悪いときは、薄味に仕上げたほうが胃に負担がかかりません。野菜スープは自然のうまみが溶け出すから、薄味でもおいしくいただけるメニュー。消化のよい白身魚とあわせて、ポトフにするのもいいですね。熱いままだと胃に負担がかかるので、少し冷ましてから食べましょう。
 
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『牛乳』
 
【牛乳が胃にやさしい理由】牛乳は粒子がとても細かいので、胃の粘膜を保護してくれる働きがあります。また、牛乳にたっぷりと含まれるたんぱく質は、傷んだ粘膜を修復する材料にもなります。
【胃にやさしいメニュー】牛乳は温めても栄養素がほとんど変わりません。白菜を煮込んだクリーム煮や、小さめに切った野菜をたっぷり入れたホワイトシチューなどは、疲れた胃においしいメニュー。牛乳のうま味と風味でこくが出て、薄味でもおいしくいただけます。
 
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『カキ』
 
【カキが胃にやさしい理由】カキは、「海のミルク」とも呼ばれ、栄養たっぷり。消化吸収のよいエネルギー源であるグリコーゲンが多く含まれています。体内の代謝を活発にするビタミンB群やナイアシン、亜鉛、鉄分、リンなどのミネラルも豊富なので、胃の調子を整えてくれます。
【胃にやさしいメニュー】カキをすり鉢ですってみそ汁に入れる「すり流し汁」なら、食欲のないときでも手軽にエネルギーを補給できます。だし汁、みそ、カキ、ゴマをミキサーに入れてなめらかにし、これを加熱して水溶き片栗粉でとろみをつけるだけ。仕上げにアサツキを散らして。
 
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『豆腐』
 
【豆腐が胃にやさしい理由】豆腐のたんぱく質も、消化吸収がよいのが特徴。脂肪分も含まないので、胃に負担がかかりません。
【胃にやさしいメニュー】ポタージュスープを作る時、バターなどの油脂を使わずミキサーにかけた豆腐でとろみをつけると、胃にやさしいメニューになります。ゆでたホウレンソウを粗く刻んで、豆腐と固形スープ、牛乳と一緒にミキサーにかけ、ひと煮立ちさせて味付けすれば、ビタミン豊富なホウレンソウのポタージュスープに。冷やしてもおいしくいただけます。
 
 
胃腸に効くお茶
(http://www3.ocn.ne.jp/~ayatori2/gourmet1/go6.html)
 
●サンザシ茶
血管拡張作用のあるクエルサチンが豊富。
B2、ビタミンC、カロチン、クロロゲン酸が含有。
 
 心筋梗塞・脳血栓・二日酔い・消化不良・慢性の下痢
 
 
●タンポポ茶
カルシウム、リン酸、ビタミンA、B1、Cを含有。
 
 母乳の量を増やす・胃腸病全般・婦人病
 
 
●ドクダミ茶
 抗菌作用のデカノイルアセトアルデヒド(生葉のみ有効)、
 カリウムが豊富、クエルチトリン、イソクエルトチン含有。
 
 胃腸病・高血圧・動脈硬化・脳出血予防・便秘・淋病・梅毒
 悪瘡・尿道炎・血液浄化・抗ガン
 
 
●バナバ茶
フィリピンで何百年も前から愛飲された民間伝承の薬草。
 
 糖尿病・肥満解消・高血圧・便秘・胃腸強化
 
 
●ハブ茶
利尿効果の高いアントラキノンのクリサファノール、
オブツシフォリンなどの有効成分が含有。
 
 疲労回復・高血圧予防・神経痛・リウマチ・胃腸強化
 食欲不振・便秘・眼精疲労による目の痛み・充血
 
 
●マテ茶
南米のインディオ達が健康茶として愛飲。
ビタミンC、A、B1、B2が豊富で、カフェインが微量。
 
 全身の活性化・便秘・新陳代謝が活発・肥満防止・高血圧
 動脈硬化・食欲増進・疲労回復・強壮
 
 
●ヨモギ茶
タンパク質、ビタミンA、B1、B2、C、鉄、カルシウム
リンが多く含まれている。ヨモギ特有の臭いはシネオール精油。
 
 胃を強化・腹痛・貧血・冷え性・リウマチ・ストレス・心臓病
 冷え性からくる婦人病・抗ガン・抗アレルギー
 
 
●ルイボスティー
南アフリカの原住民が不老長寿茶として昔から常飲。
ミネラルが豊富。抗酸化力がさまざまな病気に効果。
 
 リウマチ・てんかん・動脈硬化・胃粘膜障害・膿虚血
 クローン病・潰瘍性大腸炎・薬剤性肝障害・糖尿病・白内障
 パーキンソン病・肺気腫・抗ガン・アトピー性皮膚炎
 
 
 
胃薬の成分と効用
 
★アサヒ健胃薬 説明書より
 
消化酵素剤 ビオヂアスターゼ2000:タンパク質やでんぷんの消化を促進
      リパーゼ AP6:脂肪の消化吸収
 
健胃薬   オウレン末
  オウゴン末
  オウバク末
  ホップエキス:以上、胃の働きを活発にし、胃液の分泌を促進
 
胃腸機能調整剤 塩化カルニチン:胃の運動を活発にし、胃液の分泌を促進し、消化を助ける。
 
利胆剤   ウルソデスオキシコール酸:胆汁の分泌を促し、脂肪の消化吸収を促進。
 
胃粘膜修復剤 カンゾウ末:荒れた胃の粘膜の修復を助ける。
 
 
★太田胃散
 
<健胃薬>
ケイヒ、ウイキョウ、ニクズク、チョウジ、チンピ、ゲンチアナ、ニガキ末
 
○主な作用
 各生薬成分の健胃作用により、胃の働きを良好にする。また、生薬の持つ独特の方向や苦味などの刺激が胃の運動を活発にし、胃液の分泌を調整する。
 
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<制酸剤>
炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム
 
○主な作用
 速効性、持続性、遅効性などの作用の異なる各制酸剤が、胃の中の酸度を効果的に調整する。
 
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<消化酵素>
ビオヂアスターゼ
 
○主な作用
主にでんぷんやタンパク質などの消化を助ける複合消化酵素。
 
 
 
胃薬の話
美唄労災病院 薬剤部
 
 胃薬についてお話をします。胃薬は、大きく2つに分類でき、胃炎・消化性潰瘍の薬と、消化を助ける薬があります。前者は、さらに2つに分類でき、攻撃因子抑制薬と防御因子増強薬があります。攻撃因子とは、消化管粘膜を壊そうとする因子のことで、防御因子とは、粘膜の壊れた所を修復する因子のことです。この2つのバランスが崩れ、攻撃因子が優位になったときに胃炎・消化性潰瘍が起こります。アルコールやカフェインは、胃粘膜を刺激して胃酸分泌を促進するので、攻撃因子の1つと考えられます。
 
 攻撃因子抑制薬には、胃酸を分泌させる命令物質のヒスタミンの働きを阻害するいわゆるH2ブロッカー、胃酸分泌を阻害するプロトンポンプ阻害薬、胃酸を中和して、酸度を下げ、消化酵素であるペプシンの消化力を弱める制酸剤があります。防御因子増強薬は、胃粘膜の血流を改善するとともに、胃の運動を亢進させ、粘膜を修復する働きがあります。
 
 また、消化を助ける薬である健胃薬は、苦みや芳香で味覚や臭覚を刺激し、反射的に消化液を分泌させます。消化酵素は、消化液の分泌低下で起こる消化不良を軽減させます。お薬は、お医者さんが人それぞれの症状にあった薬を処方しているので、決められた通りに飲むようにしましょう。
 
 
★★ 喫煙と消化器系 ★★
(http://www.ias.biglobe.ne.jp/srf/for_find_documents/documents/history/papers/12.html#04)
鎌田武信*1
辻 晋吾*1
川野 淳*1
 
はじめに
喫煙と上部消化管
喫煙と下部消化管
喫煙と肝胆膵疾患
おわりに
文 献
 
 
●はじめに
たばこは種々の消化器疾患の経過に良きにつけ悪しきにつけ影響を与えることが知られている。特に喫煙が消化性潰瘍の発生と治癒に与える影響は古くから注目されてきた。ところが、喫煙がどのようにして消化器に影響を与えているかについてはあまりわかっておらず、たとえば、潰瘍の発生と治癒に重要な因子である胃酸の分泌や粘膜微小循環が喫煙でどのように影響を受けるのか精密に検討されるようになったのは最近のことである。喫煙の消化器癌の発生・抑制に与える影響については本書の他稿に譲ることとし、本稿では喫煙が影響する消化器疾患と消化器機能について臓器別に述べる。
 
 
●喫煙と上部消化管
1)喫煙と潰瘍の発生
喫煙が消化管の疾病に関連していることは古くから指摘されてきた。特に喫煙と消化性潰瘍との関連については1929年にGray1)が喫煙を中止すると潰瘍の治癒が良くなると報告して以来多くの報告がある。たとえば、喫煙者や禁煙している喫煙者では十二指腸潰瘍発生の危険率が非喫煙者の5倍となるという報告2)や、大学卒業生にアンケート調査を行い、喫煙者の3人にひとりに消化性潰瘍がみられるとした米国の報告3)などがよく知られている。また、Ainley4)らは喫煙者では消費したたばこの本数が増加するにしたがい胃・十二指腸潰瘍の発生率が上昇すると述べている。北欧で行われたいくつかの研究5-7)で、喫煙は性差や年齢にかかわらず潰瘍の危険率を上昇させることが報告されている。第一次世界大戦中に男性喫煙者は著しく増加したが、最近では男性喫煙者が減少しているのに対し、女性喫煙者が増加している。消化性潰瘍は男性に多く見られる疾患であるが、将来女性喫煙者の増加に伴い女性にも消化性潰瘍患者が増加するかも知れない。
 
酒やコーヒーはたばことともに代表的な嗜好品である。コーヒーや酒だけを摂取した際に潰瘍の発症に影響が現われるか否かについては意見が一定していない10)12)-15)が、大学在学中にコーヒーかたばこを嗜んだ者が消化性潰瘍にかかる危険度はいずれもそうでない者の1.4倍であり、両方嗜んでいた者では1.6倍とさらに発症リスクが高まるという報告がある3)。
 
2)喫煙の潰瘍治癒への影響
 喫煙と潰瘍治癒との関係についても多数の報告がある。われわれは、初回の内視鏡検査で活動期の潰瘍が発見され、その後2週間間隔で内視鏡による経過観察のできた胃潰瘍患者143症例を対象とし、潰瘍の治癒にどのような因子が重要であるかを多変量解析により検討した8)。その結果、潰瘍の大きさ、位置、患者の年齢や胃液酸度とともに喫煙の有無が潰瘍治癒の遷延に関与することが判明している8)。喫煙は潰瘍の治療効果に対しても影響を与えるという報告が多く、たとえばKormanら17)は、代表的な潰瘍治療薬であるH2受容体拮抗剤により治療した十二指腸潰瘍患者135名を喫煙群と喫煙していない群に分けたところ、喫煙していない群では治療を開始して4週後には95%の患者で潰瘍が治癒したが、喫煙群では63%が治癒したに過ぎなかったと報告している。また、たばこの本数が増えるほど潰瘍の治癒率は低下したという17)。潰瘍患者を無作為に2群に分け、医者も患者も投薬内容が判らないようにして、H2受容体拮抗剤であるシメチジンか偽薬を与えてその効果を評価する二重盲検試験18)では、喫煙はいずれの群でも潰瘍の治癒を遷延させ、少量のアルコール摂取が潰瘍の治癒を促進したと報告されている。のちに述べるように、喫煙すると胃粘膜血流が著しく低下したり、胃運動に影響があらわれることが判明しており、これらの消化管機能に与える影響が喫煙による潰瘍治癒の遷延に関係しているものと考えられる。潰瘍の治癒にはこのほかにも、粘膜上皮細胞の増殖と遊走による潰瘍面の被覆、粘膜下層の間質(繊維芽細胞や血管内皮細胞、平滑筋細胞、コラーゲン繊維など)の修復などが密接に関係している。ニコチンが繊維芽細胞などの増殖能を抑えるという報告もあり、上皮細胞の遊走に対するたばこ成分の影響77)や血管新生に対する喫煙の影響76)とともに、創傷治癒の面から注目される。一方、喫煙が潰瘍の再発に与える影響について、Kormanら17)は潰瘍治癒後12カ月無治療で経過をみたところ、喫煙していない群では53%が、喫煙群では84%が潰瘍の再発をみたと報告している。このほかにも喫煙が潰瘍の治癒と再発に影響するという意見は多い18)-20)が、兼高ら67)によれば、難治または再発性の胃潰瘍患者で喫煙している者では禁煙や節煙でかえって病状が悪化する場合があるという。
 
 近年、胃炎や胃十二指腸潰瘍、さらに胃癌がグラム陰性菌であるHelicobacter pyloriの感染に伴い高頻度に発生することが疫学調査から明かとなりつつある(詳細については成書21)を参照されたい)。わが国でも胃十二指腸潰瘍患者のHelicobacter感染率は健常者のそれに比し高い22)。抗生物質を主体とした除菌療法でHelicobacter pyloriを駆除できた十二指腸潰瘍患者では潰瘍の再発がほとんどみられないことから、本菌は潰瘍の再発にも大きく影響すると考えられる21)が、その機序の詳細には不明な点が多い。いずれにしても現状では、喫煙が消化性潰瘍の発生を促進するとともに潰瘍治癒を遷延させる因子として重要であることには変わりがないが、Helicobacter感染と喫煙との関係など今後の研究の進展に待たねばならない点は多い。
 
(図-1)
 
3)喫煙と胃粘膜血流
 喫煙が消化管粘膜および粘膜下の血流23)-28)68)-76)、消化管運動30)、各種分泌機能31)-35)、プロスタグランディン代謝36)74)75)などの消化管組織機能に影響を与えることが明らかになってきたのはごく最近のことである。この方面に対する研究が日本で進んでいることは特筆すべきであり、喫煙科学研究財団による研究助成の果たした役割を評価したい。
 
 ニュートラルレッド色素を静脈内に注射すると、色素は胃血流と胃酸分泌に比例して胃内に分泌される。これを利用して喫煙が胃酸分泌および胃血流にあたえる影響を検討したSonnenbergら23)は、喫煙が胃酸分泌を抑制するとともに胃血流を減少させると指摘した。これと同時期に、川野ら25)68)は、ボランティアの喫煙前後の胃粘膜血行動態の変動を内視鏡を用いた臓器反射スペクトル解析法により解析し、喫煙開始後3服めですでに胃粘膜血液量が著しく減少するとともに、胃粘膜に低酸素状態が生じること(図-2)、粘膜血液量の低下は胃全体にわたっていることを明らかにした。Kamadaら37)は、頭部外傷や熱傷などの重篤な身体ストレスにさらされた患者では、胃粘膜血行が健常者のそれの約 30 %まで減少することを報告している。この時の粘膜虚血の著しい部分から潰瘍性病変が発生する。また、胃潰瘍の治癒過程において、潰瘍辺縁の粘膜血行の増加がみられるが、3カ月以上の治療にもかかわらず潰瘍が治癒しない、いわゆる難治性潰瘍患者では、この粘膜血行の増加が有意に抑制されている38)。さらに、胃潰瘍患者では潰瘍の辺縁に胃粘膜血流が局所的に増加することが電子内視鏡を用いたコンピューター画像解析により明らかとされている68)。このように胃粘膜血行は潰瘍性病変発生の重要な成因のひとつであり、治癒の遷延にも大きく影響しているが、喫煙に伴う潰瘍の発症リスクの増加や潰瘍治癒の遷延にも粘膜血行の異常が密接に関連しているものと推定される。ただし、喫煙に伴う胃粘膜血液量の低下の程度は2回目の喫煙時には弱まること68)、あるいは常習喫煙者では喫煙に伴う胃粘膜血行の低下反応は軽度となること25)が報告されている。
 
4)ニコチンと胃粘膜血流
 近赤外線は生体に対する透過性が高いため、近赤外線に感受性のあるCCD撮像素子を組み込んだ電子内視鏡を用い、近赤外線を光源とすることにより胃の粘膜下血管を非侵襲的に可視化できる。この近赤外電子内視鏡を用いた画像解析法と臓器反射スペクトル解析法を用い、喫煙が胃の血行動態に与える影響を胃粘膜・粘膜下で同時に検討したところ、粘膜血の低下とともに粘膜下血管(細静脈)の収縮がみられ、喫煙に伴い粘膜・粘膜下が虚血に陥ることがわかった73)。このように喫煙が胃血流を減少させるメカニズムについて、Sonnenbergら23)は、ヒトにニコチンを静脈内投与し同様の結果が得られたことから、たばこ内のニコチンが胃酸分泌と胃血流を減少させる重要な因子であると推測した。しかし、Pawlikら39)のイヌを用い、胃血流に対するニコチン動脈内投与の影響を電磁流量計により検討した報告では、ニコチンは胃血流量をむしろ増加させたという。これらの相反する結果にはニコチンの用量、投与経路、血流の測定法など種々の問題が関与する可能性がある。ヒトの喫煙による血漿ニコチン濃度は常習喫煙者でも通常20〜30μg/L程度であり、動物へのニコチン投与実験の結果をそのままヒトの喫煙に外挿することには問題がある。家兎を用いて胃の血管潅流系を作成し、ニコチンが胃血管系に与える影響を検討すると、ニコチンは喫煙時に検出される程度の生理的濃度では胃血管抵抗に影響しない73)。通常のたばことニコチンレスたばこを用い胃内視鏡観察下に胃粘膜血液量・粘膜酸素飽和度を検討すると、いずれのたばこを喫煙せしめても粘膜血液量の減少と粘膜低酸素状態がみられることから、喫煙に伴う胃虚血にはたばこに含まれるニコチンの影響は少ないものと考えられる27)。臓器反射スペクトル解析法やレーザードプラー法による検討では、プロスタグランディン製剤などが喫煙に伴う胃粘膜の血流低下を予防することが判明している70)71)(図-3)。また、鎮痛解熱剤であるインドメサシンを前投与して胃粘膜内プロスタグランディンを減少させておくと、喫煙に伴う胃粘膜血行の低下は増強する74)。また、つぎに述べるように、喫煙時に胃粘膜組織中のプロスタサイクリンの減少とエンドセリンの増加が観察されており、喫煙に伴う胃虚血には、これらの血管から分泌され血管に収縮性あるいは拡張性に作用する物質の増減が関係しているのかも知れない28)75)。たばこの煙には数mgのニコチンのほかに20〜30mLの一酸化炭素、少量の青酸ガス、窒素酸化物など4,000種を越える物質が含まれるとされており、胃の血流異常をきたす原因物質の同定は必ずしも容易でない。喫煙が組織微小循環に与える影響としては、このほかにも血小板凝集の亢進作用29)など種々の因子が関与する可能性があり、引き続き検討する必要があると思われる。
 
胃粘膜は常に酸や胆汁酸、高温の食物など種々の傷害因子にさらされているが、プロスタグランディンは胃粘膜がこの傷害を防止するうえで重要な役割を有すると考えられている。また、プロスタグランディンには重炭酸イオンの分泌を促進し胃酸分泌を抑制する作用もあるが、喫煙はプロスタグランディン合成能を低下させること36)が報告されている。実際われわれが、イヌに1本のマイルドセブンの煙を吸入させ、その後の胃粘膜内プロスタグランディン量を検討したところ、プロスタサイクリンが前値の約3分の1に減少したほか、プロスタグランディンEについても減少する傾向がみられている75)。同様の結果がニコチンレスたばこを用いても得られており(表-1)、喫煙に伴うこれらの血管作動性物質の変動にはニコチンの関与は少ないものと考えられる。
 
5)喫煙と胃液の分泌
胃液には塩酸のほかに蛋白分解酵素であるペプシンが含まれており、喫煙はこれらの分泌を亢進させるといわれている30)。また喫煙は、十二指腸潰瘍患者の酸分泌を一過性ではあるが亢進させると報告されている31)。同様に喫煙は、H2受容体拮抗剤の夜間酸分泌抑制効果やペプシン分泌抑制効果を低下させると報告されている32)。反対にSonnenbergら23)は喫煙が胃酸分泌を抑制すると報告している。一方、膵臓から分泌される重炭酸イオンは十二指腸で胃酸を中和し、酸による十二指腸の粘膜障害を防止するうえで重要であるが、喫煙は膵液量、膵の重炭酸イオン分泌を減少させると報告されている 31)-35)。
 
6)喫煙と胃運動
喫煙は下部食道括約筋、幽門括約筋などの上部消化管平滑筋を弛緩させると報告されている40)。胃排泄能については、Grimesら41)は喫煙は固形物の胃からの排出には影響しないが液体の排出を亢進させると報告しているが、Millerら42)やNowakら43)は反対に喫煙により固形物の胃排出が抑制されると報告しており、必ずしも意見は一致していない。大隅らによれば、ニコチンは一部中枢神経性に胃酸分泌を促進する78)ばかりでなく、胃運動を亢進させる79)80)という。最近、潰瘍など明らかな病変がないのにもかかわらず、胃のもたれ感、胸やけなどの症状を訴えるnon-ulcer dyspepsiaが臨床の場で注目されている。non-ulcer dyspepsiaに伴う胃運動異常と喫煙との関係が注目される81)82)。
 
7)慢性喫煙と消化管機能
慢性喫煙と消化管機能との関係については十分な検討はされていないが、ニコチンを飲用水に混ぜラットに大量長期投与したHuiら44)は、ニコチンが胃粘膜内壁細胞数を増加させたと報告している。喫煙時にはニコチンやタールの一部は口から唾液とともに胃に送られるとされており、考慮すべき点であろう。反面ヒトでは喫煙と胃炎や胃粘膜萎縮との関係を指摘する意見もあり、喫煙と種々の消化管機能について今後も検討する必要がある45)。
 
 
●喫煙と下部消化管
1)喫煙と潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎に関しては喫煙はむしろ発症を予防したりその病態を改善するという意見が多い46)-54)。1982年にHarriesら49)は健常対象者やクローン病患者ではそれぞれ44%、42%が喫煙者であったのに対し、潰瘍性大腸炎患者では喫煙者は8%に過ぎなかったと報告した。健常者では36%がnever smokerであったが、潰瘍性大腸炎患者ではその率が48%で、禁煙者の比率も健常者で20%に対し潰瘍性大腸炎患者では40%と有意に高かった。また、喫煙者と非喫煙者を比較すると、潰瘍性大腸炎の発症頻度が前者に比し後者で有意に高いことが報告されている。さらに、喫煙者の潰瘍性大腸炎患者では禁煙により病態が増悪することが知られているほか、禁煙中の潰瘍性大腸炎患者では喫煙を再開すると約半数の患者で潰瘍性大腸炎の程度が軽減すると報告されている54)。209名の潰瘍性大腸炎患者を対象に行なったアンケート調査では、喫煙者の患者の入院率は非喫煙者のそれにくらべ有意に低かったという。さらに、潰瘍性大腸炎のヘビースモーカーが禁煙した場合、手術療法を受ける危険率は17.9倍に増加したという。最近Pullanら50)は、内服薬で維持療法中に潰瘍性大腸炎が再燃した患者を対象に、ニコチンの経皮投与の効果を二重盲検法で検討した。彼らによれば、偽薬投与群では寛解率は24%であったのに対しニコチン投与群の寛解率は49%であり、臨床評価のうえでも、腹痛や排便回数の点でもニコチン投与群のほうが成績が優れており、組織学的にも改善がみられたという。喫煙による潰瘍性大腸炎の改善にも、たばこのなかのニコチンが関与している可能性があり、今後の検討を要する。ただし、ウサギにニコチンを持続皮下注射し、大腸粘膜のアラキドン酸代謝物と粘膜付着粘液を測定した結果では、これらの値にはニコチンの用量依存性の影響がみられていない51)。ニコチンがはたして潰瘍性大腸炎の病態にかかわっているのか、かかわっているとすればどの様なメカニズムによるのか、その詳細には依然不明な点が多い。一方、Motleyら52)は喫煙者では非喫煙者にくらべ直腸粘膜のアラキドン酸代謝物が減少すると報告している。また、IL-8は好中球の組織内への遊走・浸潤を刺激するサイトカインであるが、最近吉田ら86)は、活動期の潰瘍性大腸炎患者の末梢血液中の単球は健常者のそれにくらべてより大量のIL-8を産生することを報告した。喫煙者ではこのIL-8の産生が非喫煙者にくらべ低値となる傾向があり86)、実験大腸炎モデルでも喫煙負荷に伴いIL-8とTNFαの低下傾向がみられる87)。喫煙はこれらの炎症性サイトカインや炎症性のアラキドン酸代謝物の産生を抑制することにより潰瘍性大腸炎の病態を軽減しているのかも知れない。
 
2)喫煙とクローン病
クローン病(限局性回腸炎)に対しては、喫煙は発症の危険因子であると報告されている54)。また、クローン病患者では喫煙は再発の促進因子であるという報告がある54)。さらに、最近になり炎症性腸疾患と幼少時の受動喫煙との関連が注目されており55)56)、喫煙が下部消化管に与える影響は今後も重要な検討事項であると思われる。
 
 
●喫煙と肝胆膵疾患
1)喫煙と胆嚢運動
喫煙は胆石の発生を促進させる危険因子であると報告されている57)。胆嚢の運動異常は胆石の生成に重要な役割を果たしていると推測されているが、Jonderkoら58)はヒトボランティアを用い喫煙が胆嚢運動に与える影響を検討した。彼らは2本の紙巻きたばこ(マールボロ)を試験食の摂取直後または摂取20分後に喫煙せしめ、これらの喫煙負荷が食事によっておこる胆嚢の収縮と再拡張に与える影響を超音波断層撮影装置で調べた。それによると、喫煙は胆嚢の食後収縮には明かな影響を与えなかったが、その後の胆嚢の再拡張を抑制したという。
 
喫煙はpancreatic polypeptide(膵由来ポリペプチド)の食事刺激による分泌を抑制すると報告されている。このポリペプチドは胆嚢の食後の再拡張に関係するといわれているので、あるいは喫煙による胆嚢運動障害に関与しているのかも知れない58)。いずれにせよ、喫煙が胆石の生成に与える影響については、機序の詳細に関して不明な点が多く、今後の検討が必要と考えられる。なお、腹部超音波検査など最近の画像診断技術の進歩により胆嚢ポリープがしばしば発見されているが、喫煙は胆嚢ポリープの発生には関連していないと報告されている。
 
2)喫煙と膵分泌
膵臓に関しては、喫煙が慢性膵炎発症の危険因子であるという疫学調査報告がいくつかある(例えばBourliereら59)など)。膵炎の成因のひとつに膵液分泌量の低下とそれによる膵液の濃縮が想定されている。喫煙は膵液の分泌量や重炭酸分泌を低下させることが報告されており33)-35)、喫煙が同様の機序により膵炎を増悪させる可能性もある。637例の慢性膵炎患者を腹部レントゲン検査、CT検査、腹部超音波エコーないしはERCP(内視鏡的逆行性胆嚢膵管造影検査)で追跡調査し、膵石の合併率と喫煙との関係を検討したCavalliniら60)は、1日10本以上喫煙する患者はそうでない患者にくらべ、膵石の合併が約20%多く、その合併も平均で4〜5年程度早いと報告している。
 
3)喫煙と肝炎および肝癌
喫煙が肝炎の発生や経過に影響するという報告は現在のところ見られない。しかし、イスラエル陸軍軍人を対象に行なわれた疫学調査では、喫煙は出身地域、兄弟の数などとともに、A型肝炎ウィルス感染率に関連していたと報告されている61)。また、喫煙はB型肝炎ウィルスワクチンに対する免疫反応に影響を与えると報告されている62)。一方、肝癌に関しては、喫煙は慢性ウィルス性肝疾患患者の発癌リスクを上昇させるという報告があるものの63)、喫煙と肝癌とのあいだに明らかな関連はみられなかったという報告も多い64)。喫煙は肝臓における解毒に重要な役割を有するチトクロームP450系酵素を誘導し、カフェインなどの薬剤の代謝に関係すると報告されている65)。Linら66)は、喫煙は黄変米の毒素であるアフラトキシンが関係すると思われる肝癌好発地域での肝癌の発生を抑制すると報告している。
 
 
●おわりに
喫煙と生体とのかかわりは多面的である。たばこはさまざまな化合物を含んでおり、これらが直接的、あるいは中枢神経系を介して組織微小循環、運動調節や免疫系にと多様な効果を及ぼしている。さらに、ある特定の生体機能をとってみても、それが生体全体に与える影響とその意義はその生体が置かれた状況により異なってくる。たとえば、われわれは血管新生に対する喫煙の影響を検討しつつあるが、血管新生という現象一つをとってみても、創傷治癒における血管新生と腫瘍組織における血管新生ではその生体に対する意義は全く異なるものと思われる。現在までの研究成果を見る限り消化器疾患に対する喫煙の影響には功罪相半ばするものがあるが、いにしえに「延命草」といわれたたばこの生体のダイナミズムに対する影響を検討するためには、今後このような特定の因子に対する分析的研究とともに、生体を一つの有機的統合体(ホロン)として捉え、これに対する喫煙の影響を検討しなおす構成的研究が重要となるものと思われる。