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コンピテンシーについて

〜@IT情報マネジメント から引用
http://www.atmarkit.co.jp/fbiz/cstaff/serial/competency/01/01.html
 
コンピテンシーの正しい理解と使い方
永井 隆雄
AGP行動科学分析研究所 所長
2003/12/6
 
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コンピテンシーという考え方がある。職務において高い業績をあげている人の行動特性のことだ。情報システム部門に働くスタッフのコンピテンシーにはどんなものがあるのだろうか。今後、数回にわたって考えていこう。(→記事要約へ)
 
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- そもそもコンピテンシーとは?
 
 情報システム部スタッフのコンピテンシーを説明する前に、最初にコンピテンシーとは何かを説明した方がいいと思う。コンピテンシーという言葉が数年前からはやっていて、企業が人事の仕組みを考えるうえでもそれなりの地位を占めるようになっている。ところが、コンピテンシーは言う人によってに違いがあってかなり混乱しているし、コンサルタントの商売道具にもなって、中には科学的根拠のないコンサルティングが跋扈しているという現実もある。そこで、あらためて概念的に整理しておかなければなるまい。
 
 働いている人に額を定めて給与を払うには、何らかの評価が必要になるが、そのためには人の評価以前に、人々が従事している仕事がどんなものかを知る必要がある。一般に、働いている人(worker)を「人材」といい、従事している仕事を「職務」と称する。そこで本来的には、給与を決める仕組みを考える前作業として職務分析が行われる。ただし、これはかなり面倒な手続きなので、日本ではほとんど実施されていない。フラナガンという産業心理学者が1950年代に考案した職務分析の手法に「クリティカル・インシデンツ・テクニック」(重要事象法)がある。これは業績に寄与する要因だけを拾うという簡便法であるが、これがコンピテンシー手法の基礎になっている。ただ、注意しなければならないのはこの手法はあくまでも簡便法であり、オーソドックスな職務分析を補完するものにすぎない。
 
 1970年代に業績をあげる人とそうでない人との違いに興味を持ったマクレランドが高業績者(ハイパフォーマー)の特性を「コンピテンシー」と呼ぶことにした。もし高業績者がどのような人か分かれば、最初からそういう人を採用すればいいわけだし、平均的な人を高業績者に仕立てることができる可能性もある。マクレランドの考えた手法は主に採用すべき人材/採用すべきでない人材の各特性を明確にし、採用選考をソリューションするのに大いに役立った。
 
 日本ではどういうわけか人材開発の可能性の部分が強調され、コンピテンシーさえ明確にすれば全社員が高業績者になっていくと喧伝されてしまった。もちろん、それはあり得ない。コンピテンシーで給与を決めると皆が納得するという意見もあるが、米国ではそんな用途はほぼ皆無であって、実務的に無理がある。やはりその人が生み出した成果や業績によって報酬が決まるべきであるという方式が一般的なようだ。
 
 私は「誰でもハイパフォーマーになれる」「できるやつのまねをしろ」「売れる営業マンに付いて行け」という能天気なコンピテンシー・マネジメントには一貫して批判的な立場を取ってきた。しかし、コンピテンシーを一切合切、否定しているわけではない。活用可能な範囲はある。
 
 コンピテンシーとは高業績者の特性のことであり、こうした人々の実際の行動の中で業績や成果を平均より高める要因になっている行動傾向のことである。コンピテンシーはもともと職務分析の手法から生まれたものであり、特定の職務ごとに決定される。従って、どんな人がその職務で優秀な成績をあげているのかを特性的に列挙したものがコンピテンシーということになる。そしてコンピテンシーを作るには、最低でも職務分析の方法を取らなければならない。またコンピテンシーでは、その職務で必要な知識やテクニカルなスキルを通常除外して考える。そのため、コンピテンシーをモデル化してもそれだけでは人事管理は十分に行えないことも出てくる。職務によっては知識や技能が重要で、無視できないことも少なくないからだ。ただ、もともと採用基準だったので、昇進決定の基準にはしやすい。
 
- 情報システム部門スタッフに求められるコンピテンシーとは?
 
 
 情報システム部門のスタッフはどんな業務を行っているのか──企業によって多少違いはあるが、他部署との連携が多いようだ。つまり、社内を中心とした対人業務が少なくない。ゆえに、コミュニケーション能力は必要と考えられる。ただ、開拓訪問型営業などと比較すれば、社内各部署との折衝は対立・葛藤があるというわけではない。そのため、高度な交渉力/ネゴシエーションのようなものまで必要とは考えにくい。またいろいろな人と幅広く仕事上の接点を持っていかなければならない。そういう意味で社交性はある程度大事かもしれない。
 
 SEは業務の流れを把握し、それをシステムにする仕事をしている。企業によって開発の領域は違うかもしれないが、それに応じた幅広い知識、とりわけシステム関連の知識が問われることになる。ただ、業務知識は通常コンピテンシーには含まない。むしろ、知識は最低限クリアしていることを前提に、優れた人がどんな思考をするのかがポイントなのである。
 
 思考プロセスは観察できないので、分析するのは多少難しいが、能力としては要点把握力とか構想力、系統化力などが挙げられる。これらの多くは心理テストで測定できる。例えば、企業がよく採用で使っているSPIのようなシステムにはそういうものが組み込まれているし、私が所長を務めるAGPでもCUBIC(キュービック)というシステムを提供している。そこに言語能力や数的処理能力を測るモジュールがある。
 
ユングの類型論
外向
外部環境に関心が向きやすく、その関連の中で考えや行動を行うタイプ。社交的で実行力があり、新しい環境に順応・調和しやすい人
内向
自分の内面に関心が向きやすいタイプ。外界に対して関心が薄く、控えめで思慮深い。感情を外に表さない、責任感の強い人
 ここで難しい問題がある。心理学者のC・G・ユングが考えた外向−内向という分類があるが、内向的な人は思索的な行為に適性がある一方、外向的な人は活動的であるとされている。この外向−内向はクレッチマーの気質分類にも相通じていて、外向は循環気質、内向は分裂気質に対応している。じっくり考えるのが得意な人はあまり活動的ではないし、活発に動き回り社交的に振る舞う人はあまり思考をめぐらすのは得手ではないというのがパーソナリティ理論の通説だ。
 
 そのため、SEを採用する際にどちらがいいかは一概にいえない。ただ、たった1人で業務が完結するわけではないので、チーム数人でお互いが補完関係になって部門として業務を行えれば問題ないという考え方が、最近では米国の人事管理でも重視されてきている。
 
- コンピテンシー活用時の注意点
 
 
 実際にコンピテンシーを作る場合だが、どんな人材を採用するといいのか、という観点で考えていくとよい。活躍すると期待されながら活躍せずに終わった人がどんな問題点を抱えていたのかを考えることも重要な視点であろう。実際、企業が採用した人材のうち、期待通りに活躍するのは3割程度である。日本の場合、活躍しない要員も含めて内部に抱え込む傾向があるので、こうした人材ロスをどう下げるかは重要な視点である。
 
 ローパフォーマーを抱えたまま、少ないハイパフォーマーをこき使って、企業の業績をあげようというのは無理がある。またあまり一部の人をハイパフォーマーとして称賛してスポットライトを当て過ぎると、“てんぐ”になってしまってろくなことにならない。てんぐ化現象はディレールメント(キャリア上の脱線)として、近年では注目されてきている。しかるべき人を採用したらきちんと育成し、脱線しないようにサポートしなければならない。
 
 コンピテンシーを具体的に活用する場合にも、細心の注意が必要だ。私の知人の勤めていた上場企業では、外資系コンサルティング会社にコンピテンシーのコンサルティングを受けたそうだ。その際、社内で活躍している人材、ハイパフォーマーにインタビューをしたそうである。そのインタビューを受けた人たちは、自分が高業績者とされて大いに発奮したのだが、その後は半分以上が転職してしまった。また思い上がって不正行為に走り、降格されたり解雇された者もいたようだ。つまり、ハイパフォーマー頼みのアプローチはある意味で危険だ。コンピテンシーを乱用すると、ディレールメントが大量発生してしまう可能性があるのだ。
 
 
システム部門要員の人材像
 
 
 古典的といえるシステムエンジニアのイメージがある。まず無表情で、いずれかというと暗く、話しても何を言っているか、どうも要領を得ない。ただ、システムには精通していてそれなりに動くものを作ってしまう。だから付き合いにくいのだけども、システムのことはその人に相談して依頼するしかない──というものだ。
 
 実際、AGP行動科学分析研究所にあるデータを見ても、SEを希望する人は、営業などのほかの職務に応募する人と比べると、かなり対人スキルが低く、意欲面でも低めの人材が多い。それだけを見れば、一般的な意味合いで、あまり企業が好まない人材がSEを希望し、その中から企業も採用選考をしているということになる。
 
 もちろん、古典的な意味合いでのSEが実際に活躍するわけではないし、そのような人は企業も好まない。私が実際に知っている優秀なSEはこういうイメージとはおよそかけ離れた人物である。
 
 経営トップ層との直接の折衝を行っていく気概や、戦略的な構想力と全社的な視野があり、相手にイメージを湧かせる非常に優れたコミュニケーション能力、さらに社内外のスタッフをたくみにマネジメントするリーダーシップなど多くの点で、その会社の看板社員たるにふさわしいスマートな人が多い。もちろんこのようなハイパフォーマーが簡単に育成できるわけではなく、その人は社内で育った人ではなく、どこかのシステム専門の会社にいた人やもともとシステム系のコンサルタントだった人が多いようだ。
 
- 選考段階の適性診断
 
 
 ところで、現在確立されているパーソナリティ心理学に基づく適職選定試験はそれなりの信頼度になっており、各社が提供している試験はそれなりの職業適性をはじき出す。その背景となっている理論は気になるかもしれないが、大きな差はない。気質分類、興味・関心、意欲的側面、態度的側面、情緒の安定性などがあるが、主要なテストは似たようなところに照準を合わせている。ただ、違いはその信頼度である。応募者の自分をよく見せたいという心理傾向を超越してどれだけその人の適性をプロファイルするかにツールの命運がかかっている。
 
 心理テストの話になったが、私の所属するAGPはコンピテンシーに関して次のような見解を持っている。人間には個人特性があり、職業適性を予測するものが「資質特性(aptitude)」である。ちなみにAGPのAはaptitudeである。
 
 資質特性は、何らかの教育機会や経験が与えられて職務遂行に必要な知識や技能を習得させようとした場合、その習得がどれほど円滑に行えるかの習得能力と考えられている。要するに、同じ研修や上司の指導をあっても、然るべきことを習得できる人もいればできない人もいるということを示すものだ。
 
 分類 資質項目名 定義
気質的側面 思索型:内閉性 社交意識が低く、内向的で、対人的接触を好まない
思索型:客観性 相手と距離を置き、冷静で客観的な物の見方や態度を取る
活動型:身体性 軽快で、体を動かしてテキパキと活発に行動する
活動型:気分性 気分に浮き沈みがあり、また時に高揚し、そのときの気分で行動する
努力型:持続性 几帳面で、コツコツと粘り強く物事を進めていく
努力型:規則性 発想が定型的で、決まりやルールなどを重んじた行動を取る
積極型:競争性 勝ち気で負けず嫌い、競争となると躍起になる
積極型:自尊心 気位が高く、甘えん坊なところがある
自制型:慎重性 見通しをつけ、いざという時に備え、注意深く行動する
自制型:弱気さ 覇気がなく、情緒的に不安定で、物怖じしてしまう
興味・関心の
対象領域
日常周辺事型 雑多な一般的生活知識が豊富で、物事の表面的現象を見ようとする
客観・科学型 物事を分析的に考え、またはあるがままの事実を捉えようとする
社会・経済型 政治や経済など社会的動向に関心を示す
心理・情緒型 人間の心理的動向や情緒的な出来事に関心を示す
審美・芸術型 芸術的関心が高く、外界を美的観点で捉えようとする
態度的側面 積極性 自らの意見や提案を出し、率先して実行に移そうとする
協調性 仲間と一緒に考え、協力して目標に向かうことができる
責任感 自分の発言や引き受けたことに対し、責任を持とうとする
自己信頼性 自分の意思や行動に自信があり、周囲からも信頼されている
指導性 周囲から頼りにされ、意見や行動をまとめていこうとする
共感性 同じ環境に置かれた仲間と同じ目線に立ち、物事を考えようとする
感情安定性 多少の事では動揺したりせず、気持ちにムラがなく安定している
従順性 反抗的なところは少なく、人の意見や指導に素直である
自主性 自分で決断することができ、自発的に物事を実行していく
モラトリアム傾向 現在の自分の考えや生き方について確信がつかめず悩んでいる
基本的動機
と欲求傾向 達成欲求 困難な目標にも努力し、常に自分を向上させようとする
親和欲求 仲間と競い合っていくより、穏やかな環境の中にいようとする
求知欲求 知的な好奇心が旺盛で、新しいことや珍しいことを追い求める
顕示欲求 自分が輪の中心となり、人を楽しませリ興奮させようとする
秩序欲求 自分の範囲内の物事や環境はきちんと整理しておこうとする
物質的欲望 モノを獲得し保持したい、または失いたくないという物欲がある
危機耐性 逆境に耐え、苦しいときも我慢強く遣り抜こうとする
自律欲求 他人に依存したり頼りきったりせず、自力でやっていこうとする
支配欲求 人の上に立ち、他人を動かすような力関係を形成しようとする
勤労意欲 仕事への意欲があり、生きがいの部分として考えている
表1 CUBICの項目名とその定義
 
 
 そこで、採用や登用の時点で適性診断のツールで評定するのである。もちろんツール以外の方法があって、面接や投影法、作業法などもある。投影法には文章完成法やTAT(統合絵画テスト)などがあり、作業法の代表はクレペリンである。面接にはそれなりのやり方もあるが、あまり信頼度が高くない。そこで、質問紙票を使った個人特性の診断が最も普及しているのである。
 
- 仕事ぶりを左右する行動特性
 
 
 これに対して、その人が実際に職場に配属されてさまざまな能力を習得していくと、知識や技能を習得するのと並行して業績や成果をより出しやすくすると考えられる特性を体得するようになる。この特性を資質特性と区別するために「行動特性」と呼んでいるが、これがコンピテンシーであるとAGPでは解釈している。コンピテンシーは実際に習得され実践的にその人に体現されている能力や行動パターンであるということになる。
 
 例えば、内閉性や身体性、感情安定性は資質特性の項目のうちでも重要なものである。しかし、これは行動特性ではない。
 
 これに対して、要点把握力や問題分析力、計画組織力は仕事を進めていく上で重要な能力である。ある人の職務行動を見て、問題があるとき、どの部分が不足しているか、逆にある人の仕事ぶりが優れているとき、どこがどう優れているかを認識するには、行動特性によることになる。
 
系統 項目
個人特性系 イニシアティブ
対人インパクト
能動性/持続力
ストレス耐性
自律性/一貫性
意思決定系 要点把握力
問題分析力
問題解決力
決断力
業務管理系 計画組織力
管理統制力
対人影響系 リーダーシップ
説得・対話力
柔軟性/適応力
対人感受性
コミュニケーション
※AGPの提供するAWAKEのベーシック・コンピテンシーの項目
表2 行動特性(コンピテンシー)
 
 
 システムエンジニアに関して、私のコンサルティング経験で構築したツールで推奨モデルを作っている(表3)。どのような人材が必要なのか、育成していこうとしているかを明示することで、採用や登用、普段の人事評価に役立ることができる。SEに関して次のようなコンピテンシーが必要と推奨しているが、同じSEといっても仕事のスタイルなどがかなり異なるので、多少企業ごとに変更することが必要となるだろう。
 
リーダーシップ系 メタコンピテンシー ビジネス戦略系 対人スキル系 業務遂行系
エリア・
コンピテンシー
の一覧 有言実行
ビジョン共有
チーム・リーダーシップ
率先垂範
行動強制力
権限委譲
(一部省略)
多様性受容
セルフ・コントロール
自尊感情への配慮
自省性/自己観察力
向上心/学習性
公私のバランス
マーケット志向
戦略的思考
実利志向性
人間理解
パラダイム・シフト 信頼性維持
顧客志向性
傾聴反応力
関係構築力
アカウンタビリティ
人事評価力
人材活用
人材育成
エンパワーメント
利害調整力
ナレッジマネジメント
成果志向性
現実的対応
クオリティ追求
確認徹底力 
SE推奨モデル 向上心/学習性 アカウンタビリティ ナレッジマネジメント
クオリティ追求
確認徹底力 
表3 SEのコンピテンシー・モデル例
 
 
 向上心/学習性は、絶えざる技術革新に対応するために必須だろうし、アカウンタビリティは責務感を示し、通常の職務以上に強く求められそうだ。ナレッジマネジメントとは、情報の共有化を意味するが、SEがチーム的に作業すること、作業内容がほかのスタッフにも見えやすくするためには必須となる。また成果物の品質を重視するという意味でクオリティ追求、内容をしっかりと確認しながら仕事を進めていくという意味で確認徹底力が必要と考えられる。
 
〜@IT情報マネジメント から引用 終