企画とは何か


6月3日木曜日、後輩に誘われ、オカマバーに行った。
その店には、たまに行くことがある。
昨日は久しぶりだった。
「おう。久しぶり。二人いける?」、店を覗いた。
「あらあ!肇ちゃん!どうしてたのよお?!久しぶりやん!まあ、座りいよお」
推定年齢35歳、自称28歳のオカマに迎え入れられた。
このママさんと、その店のNo1ホステスのノリ子が居た。
No1といっても、ホステスは一人しか居ない。必然的にNo1になってしまう。
店は、3人でやっている。ママ、チーママ、No1ホステスの3人。
チーママは、前夜水曜日の晩にチカンに襲われ、そのショックで寝込んでいるそうだ。店には出ていなかった。
マンションの階段でチカンに抱きつかれ、そのまま押し倒された。
チカンの股間に、チーママの股間があたった。
「男か?!!!」
顔面蒼白のチカンはその場から逃げ去った。
チーママは、チカンに襲われたことよりも、チカンに逃げられたことにショックを受け、寝込んでいるという。
男色に興味が無い私には、チカンの気持ちも分かるし、チーママがショック
を受けているという点も、なんとなくだが、理解出来ないことも無かった。
しばらく飲んでいると、私の携帯電話が鳴った。
私は、ママさんに「携帯電話は持ってない」と嘘をついていた。
「肇ちゃん!携帯持ってるやんかあ!番号教えてよお!」
バレてしまった。
「番号忘れたんや。家にメモ置いてきた」
「そんなん見んでもいいの!ちょっと貸して!」
「ああっ!あかん!あっ!思い出した。たしか番号は」
友人の番号を教えた。
「肇ちゃん、嘘ついてへんやろな?」
「大丈夫、大丈夫!間違いない!」
「確認しとこ。今からかけるわ」
私は、顔が引き痙った。
私は、カウンターの影でママさんの携帯電話番号を押し、ママさんが発信ボタンを押す直前にこちらも発信ボタンを押そうと考えた。
ママさんの指の動きをじっと注視し、発信ボタンを押しかけたその時、私は自分の電話機の発信ボタンを押した。
「もしもし!」
「おう」
「よしよし。番号合ってる。暇な時に電話するわ。話相手になってねえ」
「おう。いつでもかけてこいや」
友人の石田に電話がかかることだろう。
ママさんが他の客の相手をしに行くと、続いてNo1ホステスのノリ子が来た。
「肇ちゃん。井上さんのホームページに文章書いてるでしょ。あれを読んだ人が来てん。肇ちゃんを紹介して欲しいって。SNKっていうゲームソフトの会社の人。あの文章を1話いくらで売って欲しいんだって。一度会う気ない?」
「ゲームソフトに使いたいんかな?」
「そうとちゃうかなあ。ロールプレイングゲームに仕立てるんかもしれんよ。」
「ふ〜〜〜ん。ちょっと考えるわ。また返事する。だけど、言うといてや。
僕に黙って、ネタをパクったらあかんでって」
「そらそうやん」
「頼むで。だけど、そんな業種の人が興味持ってんのかあ」
「他にも広告代理店の人達が読んでるよ」
「マジ?!」
「マジよ。うちの店、広告代理店の人がたくさん来てるよ。興味持ってはるよ。面白いって読んではる」「その人達にも、勝手にネタをパクッたら駄目ですよって言うといてよ。このホームページのネタを使いたい場合は、ちゃんと僕の了解とるようにって言うといて。相談にはのるから」
「分かった。ちゃんと言うとく」
ゲームソフト会社、広告代理店の企画担当なんて、非常に華やかなイメージを持っていた。
湧き出すアイデアを売り物にしている華やかな職業だと信じていた。
ところが、よくよく話を聞くと、地道な作業だそうだ。
いろいろな所に足を運び、何かネタになるものは無いか、地道に探しまわっているそうだ。
どんな仕事でも、地道な努力から良い結果が生み出されるのかもしれない。
家に帰ると、岡田さんから電話があった。
飲み屋での出来事を報告した。
「企画の仕事って華やかだと思ってましたが、地道なものなんですねえ」
「企画か!俺、得意やで!そんなん簡単や!」
「おっ!たとえば、どんなんですか?」
「パチンコや。フィーバーのリーチアクションや。『リーチ!!!』言うてな、画面で俺が踊るねん。数字そろったらな、『大当たりい!!!』言うんや。ええやろ?順司(酒井さん)がリーチに出てきたらな、リーチアクションが派手なのに、一つだけ数字ずれて外れるんや。がははは!!!それから何千回転も大ハマリや!がははは!!!」
「岡田さんと酒井さんが出てきても、内輪しか知りませんやん」
「ええんや!おもろいやんけ!おっ!企画の仕事ええなあ。俺もしようかな。どっか広告代理店で募集してへんかのお?」
企画とは何か、岡田氏の持論を1時頃まで聞かされた。