市場拡大のためには
明日7月22日木曜日は、東京のコバ*シが出張で大阪に出てくる。夜は、BEACHちゃん、新人のMザキも誘って、4人で飲みに行く予定だ。 またもや私の病気が出て、イタズラ心が働いた。 今朝、コバ*シに電話した。 「明日の待ち合わせどうする?」 「じゃ、7時に難波」 「分かった。それとな、ミスターTに吹き込んで欲しいことがあるねん」 私がコバ*シに託した内容は次の通りだ。 木曜日は、男4人で飲むのではなく、美女4人も来る。このようにミスターTに吹き込むように言っておいた。 コバ*シは、昼休みにミスターTを誘い、近くの食堂で昼食をとった。 「俺、明日大阪に行くねん。夜にI氏と飲むんや。BEACHちゃんも来るんや」 「3人か?」 「いや、7人」 「7人?」 「I氏が、女の子連れて来るんや。俺がな、あいつに『たまには華やかな飲み会してくれ』って言うたんや。そしたら、近くの百貨店の女の子達を誘いおったんや。あいつ、動きが早いわ」 「百貨店?!」 「おう。23歳の子ら。婦人服売場の店員さんや。その内の一人は会ったことあんねん。ごっつい奇麗な子やったわ。他の3人は会ったことないけど、あの子の同期の子だったら、ごっつい奇麗な子らやろなあ」 「女の子、4人も来るのか?」 「そう。男は、I氏と俺とBEACHちゃん。あっ!男の人数少ないなあ。I氏に言って、もう一人男連れて来てもらおう」 「待て!ちょっと待ちなさい!たまたま俺もよお、明日、大阪に行かなきゃなんねえって思ってたとこなんだよお。奇遇だなあ。後で連絡すっからよお。しょうがねえなあ。奇遇なんだよなあ。いわゆる偶然てやつだな」 「おいおい。ミスターT。急に出張なんか組めるんか?」 「緊急だな。緊急なんだよなあ。機敏に対応しなきゃあなんねえ。後でよお、お前んとこ連絡すっからよお、I氏に待ち合わせ場所聞いといてくれえ」 「そうか。じゃあ、一緒に飲もうや。あっ!そう言えば、さっきI氏に電話したら、あいつ、百貨店の子らに断ろうか迷ってたわ」 「えっ?!何っ?!なんで断るんだよお?!あいつ、どうしたんだあ?!駄目だ!そんなことさせちゃあ駄目だあ!早く阻止せねば。コバ*シ。携帯電話だ。早く早く」 「いや。あいつな、他の女の子ら誘おうか迷ってるんや。たまたま昨日、合コンに行ったんやて。そこで、ごっつい奇麗な子らと知り合ったらしいわ。 すっごい美女が4人来たんやて。その子らに『近々飲みに行きましょう』って誘われとるんや。それで、そっちの子ら誘うのもいいかなあって言うとるんや」 「なんだ。そういうことなのか。心配したよお。I氏、何か病気にでもかかったのか心配したじゃねえか。最近よお、雨降ったりなんかして、湿気がひどいだろお。I氏のやつ、湿気で変な病気にかかってねえかなあって、心配してたとこなんだよお。なんだ、元気なんだな?I氏は元気にしてるんだな?そっかそっか。それだったらいい。いやあ、女の子はよお、いつだって会えるからよお、そんなのどうでもいいんだ。I氏だよ、I氏。あいつが元気でいさえすれば、それでいいんだ。そっかそっか。安心したよお」 「あっ、そうなん。女の子どうでもいいんだったら、I氏に電話して、『明日は、男だけで飲もうや。気兼ね無しに』って言うとくわ」 「ばっ!ばかやろお!どうしたんだ?!お前が湿気でやられてどうすんだあ?なあに意味の無い言葉をつらねてんだあ?お前、俺に気つかうことないんだぞお。明日はよお、I氏の顔たててやらなきゃなんねえ。今日の明日で断ってみろ。女の子達に失礼じゃねえか。百貨店の子らもよお、ただでさえ訳の分からない客にストレス感じてんだぜえ。そこに飲み会断ってみろ。4人友、発狂するぞお」 「じゃあ、その子らに来てもらえって言うとくわ。だけど、I氏は『合コンで知り合った4人のほうが数段奇麗だ』って言ってたなあ」 「なにっ?!コバ*シ。お前、そっちの方がいいんだな?いいよいいよ。お前の好きなようにすりゃいいんだ。百貨店の子らは断ってよお、その子らに来てもらっていいんだぞ。百貨店の子らは、また別の機会に相手してやればいい。あの子らはよお、日ごろから変な客の相手したりしてるからよお、ちょっとしたことで動じないんだなあ。鍛えられてんだよ。合コンで知り合ったほうを連れて来てもらいなさい。なっ。コバ*シ。お前はそうしたいんだろ?俺はさあ、どちらでもいいんだ。だけどよお、お前だ。お前が好きなようにすればいい。俺は合わせるからよお」 「じゃ、知ってる子が居る百貨店の子らに来てもらうわ。そのほうが気兼ねしないし」 「ばっ!ばあかやろお!何、俺に気つかってだよお!どうしたんだあ?ダニにでもかまれたのかあ?湿気が悪いんだな。何も俺に気をつかうことはないって言ってるだろお。合コンで知り合った子らに来てもらいなさい」 「じゃ、そう頼んでおくわ。合コンで知り合った子らは、みんな実家に住んでるんやて」 「それがどうしたんだ?どこに住もうが勝手じゃねえか」 「百貨店の子らは、みんな、一人暮らしなんやて」 「...どうしてだ?」 「え?」 「どうして、お前は、いつもそうなんだ?」 「いつもって?」 「なんで、そんな大事な事を先に言わねえんだ?なんで、お前はよお、報告ってものが大事だって覚えねえんだ。そんな大事な事を先に言わなきゃなんねえだろ。判断が狂うところだったじゃねえか。お前は、いったい何年会社に勤めてるんだあ?よく言うだろ?ホウ・レン・ソウってのが大事だって」 「ホウ・レン・ソウって何の略か知ってんの?」 「ホウは報告だ。レン・ソウは連想だあ。当たり前だろ」 「連絡と相談や!」 「ばあかやろお。連想だ」 「どうせ、独り暮らし、連れ込みって連想してんのやろ?」 「ばあかやろお。お前が百貨店の子と久しぶりに会いたいって言うから、気つかってやってんのによお。なんで、そんなこと言うんだあ?どうしたんだ?最近おかしいぞお。たまには、外科に行けよお。検査してもらったほうかいいんだぞお」 「なんで、外科やねん。まあええわ。じゃ、I氏に言っとくから。お前、ほんとに明日、大阪に行けるんやな?」 「今から部長に言うよ。緊急だからな。早急に決着しなきゃあなんねえ」 「じゃ、予定たったら、後で教えてよ」 ミスターTは、コバ*シから吹き込まれた話を信じた様子だ。 昼休みが終わると、早速上司に「今からの時代は、大阪ですよ。この経済動向についていかなきゃあ、我々取り残されますよ」などと得体の知れないビジネストークを熱く語っていたそうだ。 「で、明日ですけどねえ」 「あっ、明日ね。明日の会議ね。早く資料作っとけよ。いつも、変な言訳して資料出さないけど、明日は、ちゃんと自分で作った資料を自分で説明してくれよ」 「いえ、資料はいいんです」 「だめ。ちゃんと作りなさい」 「じゃ、資料は作っときます。で、会議なんですけどね」 「会議は、予定通りの時間にするから。会議室予約しといてよ」 「予約はしておきます。僕の代わりにですねえ」 「代わり?欠席はあかんぞ」 「いえ。あの。大阪の商権がですねえ」 「大阪?大阪は、大阪本社に任せとけ」 「いえ。それは、手薄なんだよなあ。僕も応援にですねえ」 「じゃ、今度行ってくれ」 「いえ... あの... 百貨店の市場調査に」 「百貨店?君、担当してるのは量販店やんか」 「市場拡大のためにですねえ」 「来月に拡大してくれ。明日は、こちらで会議に出てくれ」 ミスターTの交渉は失敗に終わった。 そこにコバ*シが、「ミスターT。明日、何時にすんねん?」 と声をかけようとしたが、ミスターTの姿を見て、言葉が出なかったそうだ。 ミスターTは、頭をかきむしっていた。さらに髪が薄くなったことだろう。 事情を察したコバ*シは、何も聞かずに部署に戻った。
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