仕事熱心

2〜3年前ぐらいだったと思う。同期の&さんという女性に誘われ、Mr.T
も誘い3人で飲みに行った。
&さんは深刻な顔をしていた。彼氏ともめていたのを知っていた。
別れようかどうしようか迷っているので、相談をしたかったのだろう。
3人で梅田のおでん屋に行った。
我々はカウンターに座った。
「&さん。そんなに悩みなや。おでん、おいしいで。食べえや」
「そうだぞお。俺が適当に注文するからよお、食べなきゃなんねえんだ
ぞ」
その当時、各量販店が物流拠点の配置方法で企業と大学とが組み、いろん
なやり方を模索していた。有名なのは、イトーヨーカ堂とイズミ屋の対決
だった。結局、イズミ屋のやり方は失敗だったと判明した。
当時、Mr.Tも物流センターについての書物を購入したのだろう。
「I氏君。最近、彼氏とうまくいってないの」
本題に入った。
「そおなんか。喧嘩とかしたん?」
「もしかして、浮気してるかもしれないの」
核心の部分だ!
「そんなのどおでもいんだよ。物流センターだ。うちの会社(ユニ販)も
物流センター作らなきゃなねえんだ」
私の瞳孔は開いた。
「いや... あの... &さん、とにかく、おでん食べえや。やけ酒
はあかんで」
「うん。いただく」
「そおだぞお、&さん。大根食え、大根。うめえぞお」
悩める&さんに大根を勧めるMr.Tは、なぜか値段の高いものばかり食べて
いた。
「&さん。彼氏に事情聞いたか?勝手な思い込みと違うの?」
「でも、おかしいもん。女の子とデートしてるのは知ってるの。スナック
のホステスさんみたい」
核心の部分だ!
「スナックなんか駄目だあ。物流センターだ。うちの会社も物流センター
を作らなきゃなんねえんだ」
「た.たちばなさん。食べなさい。おでん食べなさい」
「そおだぞお、大根食え、大根。うめえんだぞ」
「&さん。何でも好きな物食べなさい。大根以外でもいいんで」
「有難う。I氏君。彼氏の話はもういい。また今度聞いてね」
「そおだぞお。物流センターだ。大事なんだよ。うちも、物流センター作
らなきゃなんねえんだ」
「Mr.T。物流センターはいいから、今日は&さんの話を聞くためにやな」

「ばあかやろお。大事なんだよ。物流センターだよ」
「I氏君。Mr.T君の話聞いてあげて」
「そおだぞお。&さん。大根食え、大根。うめえんだぞ」
結局、おでん屋で&さんの相談には乗れず、二次会に向かった。
洒落たショットバーだ。店に向かう途中に「Mr.T。次の店では、ちゃんと
&さんの話聞いてやろうや。物流センターの話は後で聞いてやるから」、
小声で言っておいた。「分かってるよお。あの子も可哀想だぞお。ちゃん
と話聞いてやんなきゃ駄目なんだぞお」
ショットバーに入って、席についた。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
店員の問いに、
「マタニティー」
「Mr.T!マティーニや!」
「違うのかよお。じゃ、そのマテーニをくれ」
「じゃ、俺はソルティードッグ塩分控え目」
「お客様。ブルドッグのことでございましょうか?」
「そうそう。ブルドッグ」
Mr.Tと私は、いつも合コンで使うくだらないネタを連発した。
&さんを見ると、さらに落ち込んでいた。
「&さん!元気出しいや!」
「そおだぞお。大根食ってねえからだ」
「Mr.T!大根はいいの!」
「I氏君。有難う。でも、いいの」
「&さん。彼氏のことだけど、ちゃんとお話したん?誤解かもしれないや
ん。二人で話せなあかんと思うよ」
「ばあかやろお。話なんかしなくても、物流センターは必要なんだ。だか
らよお、うちの会社も物流センター作らなきゃなんねえんだ」
Mr.Tは、彼の言うマタニティーを何杯もおかわりしていた。酒は強くない
のに。
「お前!何杯飲んどんねん?!それ、きついんやぞ!」
「ばあかやろお。物流センターだ」
結局、ここでも&さんの相談にはのれなかった。遅い時間になり、店を出
た。「&さん。また話聞くわ。今日はごめんな。気つけて帰りや」
&さんを見送り、振り返ると、
「キャバクラ!キャバクラ行くぞお!」
Mr.Tは泥酔だった。
「もう帰ろうや」
「ばあかやろお。キャバクラだ。うちの会社もキャバクラが必要なんだ
よ」
「おい、物流センターとちゃうんかい?」
「そんなのいらねえよ。キャバクラだ。キャバクラ作らなきゃなんねえん
だよ」
私は、危険を感じたのか、無意識の内に走り出していた。とにかく振り向
かず走った。
後ろから「あああああっっっ!!!!!キャバクラ〜〜〜!!!!!ああ
あああっっっ!!!!!」と叫び声が追いかけてきた。
しばらく走ると、叫び声が聞こえなくなった。
振り切ったのか?後ろを振り向くと、約50メートル後方に転がっている
Mr.Tが居た。ころんだのだろう。
「すまん!Mr.T!今日は帰る!」、ころんでいるMr.Tを見捨て、駅に急
いだ。家に着き、寝ていると、電話が鳴る。
「はい。I氏です」、寝ぼけながら返事をすると、
「今度は、ちゃんと聞いてね...」
恐ろしく悲しげな女性の声だ。
「ああっ!!!&さん!!!ごめんごめん!!!ちょっとMr.Tが酔っちゃ
って!今度はちゃんと話聞く!」
「ごめんね...夜中に...」                  
         
その頃、Mr.Tはどうしていたのだろうか?今となっては、聞いても覚えていないだろう。

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