カテゴリーキラー

いつだっただろうか?1〜2年前にMr.Tと大阪で飲んだ。
「I氏。お前、カテゴリーキラーって知ってるか?」
一冊の本を鞄から取り出した。
彼は読書家だ。部屋には数百冊の本が書棚を埋めている。
「特許で一発当てる!」、「中小企業診断士になる法」、「100を切る
秘訣!(ゴルフ)」、安易なマニュアル本が数百冊並んでいる。
物を大事にする彼の本は、どの本も新品同様だ。
彼には特技があり、行間を読む、ではなく、ページ間を読み取ることが出
来る。どの本も、最初の2〜3ページと写真、挿絵のみしか読まない。た
ったそれだけで読みこなすのだ。
天才読書家は、「今からの時代、カテゴリーキラーじゃなきゃなんねえん
だ。お前、カテゴリーキラー知ってるか?」
「知ってるよ。物流技術管理士の資格取る時に勉強したし、俺の業界では
知ってないとマズいわ」
「じゃ、説明してみろ。カテゴリーキラーって何なんだ?」
「メーカーから小売りまでの問屋を飛ばすことやん」
「ばあかやろお。違うよ」
「あってるって。カテゴリーを殺すんや」
「違うよお。お前、何言ってんだ。そんな意味じゃないぞお」
「じゃ、何よ?」
「トイザラスのことだよ」
読書家は、本を開いた。そこには、トイザラスの店内の写真が掲載されて
いた。
「トイザラスは、カテゴリーキラーのやり方を導入してる一企業!例とし
て載ってるんやんか!」
「ばあかやろお。トイザラスだよ。カテゴリーキラーってのは、トイザラ
スだよ」
「じゃ、カテゴリーって意味知ってんの?キラーは?」
「何言ってんだ。そんなの知ってるよ。カテゴリーってのは、『トイ』だ
ったかな?『トイザ』だったかな?どっちかだよ」
「まさか、Mr.T、お前、キラーは『ザラス』か『ラス』って言うんちゃう
やろな?」
「よおく知ってるじゃねえか。そうなんだよ。それでいいんだよ」
「何言うてんねん!カテゴリーって『過程』や!流通の過程の問屋のこと
をさしてんのや!キラーは『殺す』、つまり問屋を飛ばして、メーカーか
ら小売りに直販することや。そうしたら、余計な商社マージンもかからな
いし、交錯輸送の余分な物流費もカット出来るやろ。トイザラスは、そう
いうやり方をいち早く取り入れた会社。それで、カテゴリーキラーの本に
は、トイザラスの例が載ってんの」
「なんだあ、そおだったのかよお。この本、間違ってんだよお。トイザラ
スって書いてんだぞお。作者に文句言ってやんなきゃなんねえなあ」
「違うって!トイザラスを例にしてんの!どこまで読んだんや?」
「これだよお」
トイザラスの店内の写真のページしか読んでないのだろう。これ以上言っ
ても仕方がないので、「なんて作者だよ。こんないい加減な本出しやがっ
て。
千五百円損したよお」と怒っているMr.Tをながめながらカクテルグラスを
傾けた。
数ヶ月前、退社前の石Dが東京に出張した。
Mr.Tが居るユニチカ販売のデスクに行った。
「Mr.Tさん。元気でっか?」
Mr.Tは、本を眺めていた。
「おう、石Dじゃねえか。お前、マクロって分かってるか?今の時代、マ
クロじゃなきゃなんねえんだぞ。駄目だぞお、マクロに見なきゃ」
「何読んではるんですか?」
「ばあかやろお。これからの時代、物事をマクロに見なきゃなんねえん
だ。
お前は物事をマクロに見てないから、ウールは赤字なんだよ。マクロに見
ろよお」
「うちも赤字ですけど、Mr.Tさんのユニ販も赤字じゃないですか!」
「ばあかやろお。俺は、マクロに見てるから、大丈夫だあ」
「だって、赤字じゃないですか!じゃ、ユニ販みたいな大赤字の会社でも
大丈夫って言うんですか?」
「マクロだから、大丈夫だあ」
「Mr.Tさん、さっきからマクロ、マクロって言いますけどねえ、意味分か
って言ってるんですか?」
「あ〜たりまえだあ、ばあかやろお。お前はマクロに見てないから、分か
ってねえんだよお。マクロに見なきゃなんねえんだぞお」
これ以上言っても無駄と思った石Dは、「ちょっと5階に行きますんで」
と立ち去ろうとした。背中ごしに「マクロに見なきゃなんねえんだぞお」
読書家は今頃何を読んでいるのだろうか?
2000年問題の本だろうか?読書家のことだから、2000年問題とノ
ストラダムスの大予言とを同じものと捉えていることだろう。

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