マニュアル本活用

ミスターTはマニュアル本、ハウトゥ本が好きだ。
そんなミスターT、給料カットのため、と言うより、風俗通いがたたって、彼
女とのデートにかかる費用が厳しくなっている。
「デートに金をかけない方法はねえのかよお?」
早速、書店にてデートのマニュアル本を立ち読みした。
「なんだこれ?2時間の散策コース?なになに?」
一冊のマニュアル本を手にとり、読み進むと、散策コースがいろいろと紹
介されている。どれも、2時間ほど歩くコースだ。
「これだよお。歩くのに金かかんねえもんな」
その本を買い、早速休日のデートに持って行った。
「今日はよお、ここだ」
折り曲げて印をつけておいたページを開け、電車で現地に向かった。
散策を終え、時計を見ると、
「ちょうど2時間だあ。途中でそば食っただけだからよお、ほとんど余計
な金かかんなかったよお」
その散策コースには、どこで、どの店で、何を食べなさいとまでマニュア
ル化されていた。もちろん、ミスターT達が立ち寄ったそば屋は、その本に紹
介されているそば屋だ。
すっかり気に入ったミスターTは、休日のデートには、そのマニュアル本を必
ず所持して行った。
本に紹介されているほとんどを回ったある日、会社でコバ*シをつかまえ、
「おう。コバ*シ。これいいんだよ。金使わないデートだあ。2時間の散策コ
ースが載ってんだよお」
渡された本を見ると、回ったコースには『済み』と赤ペンでチェックされ
ていた。また各コースの道順、紹介されている店、全てがチェックされて
いた。「お前。まさか、この通り回ってんのか?」
「そうだよお。ほとんど金かかんねえんだあ。デートなんかに金かけてた
らよお、ピンサロ行けねえだろお。いくら、割引券持ってるって言っても
よお、1割り引きだけだからさあ、こういうところで経費節減しなきゃな
んねえんだ」
「ピンサロ行くのやめたらいいやん」
「ちいがう、ちいがうよお。いいんだよお、ピンサロは。なにも無理し
て、ピンサロ行くの控えるこたあ無い。コバ*シ。お前も、これ貸してやるか
らよお、奥さんとのデート、経費節減しろお」
「そやけど、お前。このチェックしてるとこ見たら、全くこの本に書いて
る通り回ってるやんけ。少しぐらい道にそれたっていいんちゃうんか?」
「だあめだ、だめ、だめ。ちゃんとこの通り回んなきゃなんねえよ。だっ
て、この書いてるコースからそれてさあ、彼女が興味ひく物なんか有った
ら、どうすんだあ?まあた、余計な金使わなきゃなんねえだろ。コバ*シ。お
前も、この通り忠実に回んなきゃなんねえぞ。ちょうど2時間だ」
「これ見てたら、紹介されてる食い物屋、そば屋ばっかりやんけ」
「いいんだ、いいんだ。そば、けっこううまかったよお」
「お前、毎週、デートでそばばっかり食ってんのか?」
「だって、しょうがねえだろ。この本に紹介されてるのが、どれもそば屋
じゃねえか。この通り回んなきゃなんねえからな」
「ん?ちょっと待て」
コバ*シは、表紙を確かめた。
「これ、そば屋の特集やんけ!」
「なんだっていいんだ。金かかんねえんだぞ。だまされたと思って、使っ
てみろお」
「じゃ、借りるわ。有難う」
「なくすなよお。あと3コースで全部回るんだからな」
「あと3コース?」
ページをめくっていくと、ほとんど全て『済み』マークがついていた。
「あと3つで終了だあ。なくしちゃ駄目だぞお」
ミスターTの彼女は、よほどミスターTが好きなのか、よほどそばが好きなのか?
コバ*シが、最後に質問した。
「ミスターT、あと3コース回ったら、新しいマニュアル本はどうすんねん
?」
「なに?新しいの?なんで、そんな物買わなきゃなんねえんだよお」
「え?でも、もうすぐこれ制覇してしまうやん」
「まあた1から回るんだよお」

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