扶養家族

この不景気、いったいいつまで続くのだろうか?
物が売れない。売れても、非常に低い価格でしか売れない。
会社は利益を出せない。少しでも経費を削減して、会社の存続をはかって
いる。
もちろん経費の中には、我々の給料も含まれる。
こんな中、当然のように給料がカットされている。
アイデアマンのミスターTは、早速この窮乏に手をうつべく人事に行った。
「すいません。扶養家族手当の支給を受ける手続きしたいんですが。用紙
をください」
「扶養家族?あれ?ミスターTさん、まだ結婚してませんよね?」
「独身ですよお。だあって、まだ早いですよお」
「まだって、ミスターTさん、もう32歳でしょ。いい加減落ち着かないと」
「32なんて、まあだまだ早いんです。46歳になったら、二十歳の女の
子と結婚しますので」
「夢見るのは勝手ですけど...」
「そんなことより、扶養家族手当をもらいたんで、申込み用紙ください」
「え?結婚してないんですよね?」
「まだしません。46で」
「46で結婚するのはいいですけど、独身だと、扶養家族手当は支給出来
ませんよ。だって、扶養家族が居ないじゃないですか」
「ちいがう、ちいがいますよお。扶養家族って、嫁さんじゃないんです。
だって、まだ6歳ですよお、将来の嫁さん。結婚は二十歳になってからで
す」
「あっ!お父さんかお母さんですね!え?!でも、たしかミスターTさんのご
両親は、お二人とも働いてますよね?」
「働いてます。両親じゃないんですよお。おばあちゃんです」
「おばあちゃん?!!!」
「おばあちゃん、僕の扶養家族にします」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!たしか、ミスターTさんのおばあちゃん
は、伊豆に住んでらっしゃいましたよね?」
「そうです。2ヶ月に1〜2回行って、話相手してやってんですよ」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。それじゃ、扶養家族とは言えません
よ」
「どうして?」
「扶養家族って、言葉の通り、養っている家族ですから。たまに会う人を
扶養家族とは言いませんよ。それに、おばあちゃんは、何も仕事してない
んですか?ミスターTさんのご両親が生活費を送ってあげてるんですか?」
「農業やってます」
「それじゃ、扶養家族になりません。おばあちゃんご自身がお仕事されて
るんですから。ミスターTさんが生活費を出してるんであれば、話は変わりま
すが」
「お土産持ってってます」
「いえ。お土産の話じゃないです。生活費をミスターTさんが面倒見てるんじ
ゃないんですよね?」
「そんなの出来る訳ねえだろ!だって、給料、こんなに安いのによお、な
んでばあちゃんの生活費払ってやんなきゃなんねえんだ?!」
「ミスターTさん!落ち着いて下さい!生活費の面倒見てなかったら、扶養家
族として認められないんですよ」
「お土産持ってってますよ」
「いえ。お土産では...」
「じゃ!いくらぐらいの土産持ってけって言うんだよお!」
「ミスターTさん!落ち着いて下さい!とにかく、おばあさんをミスターTさんの
扶養家族として認める訳にいかないんです」
「どうして、そんな無茶言うんですか?こんな安い給料なのに、ばあちゃ
んの生活費出せだの、もっと高い土産持って行けだの、そんなこと出来る
訳ないでしょ。だから、扶養家族手当くださいって言ってんじゃないです
か。扶養家族手当もらえば、もう少し高いお土産持ってけるでしょ」
「だから、あの... とにかく、手続きは出来ません。申し訳ないので
すが」
「じゃ、うちの課長はどうなんですか?課長には兄さんが居るじゃないで
すか。それなのに、課長の両親を扶養家族にして、手当もらってるって言
ってましたよ」
「課長さんのお兄さんは失業されてますので、実際に課長さんが、ご両親
の生活費をみておられますので」
「俺だって、お土産持って行ってますよ」
「いい加減にして下さい!!!」
「んだよお...何も怒んなくてもいいじゃねえか」
追い払われたミスターTは、新たなる給料アップ作戦を思案中である。

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