富士登山

ミスターTは、人の輪を大事にする。少しでも皆が親しくなるようにと、労力
を惜しまない。
「BEACHちゃんよお、今度、大阪本社、東京本社の男女を集めてよお、山登
りするって企画があるらしいぞお。富士山だ。俺参加すっからよお、BEACH
ちゃんも行こうよ。東阪合わせて、総勢40名だ。男20人と若い女の子
20人だ。富士山で合コンだぞお。気圧低いしよお、酸素薄いからよお、
女の子達に酒飲ませたら、すうぐに酔うぞお。何が起きようが、行かなき
ゃなんねえな」
「ミスターTさん。なかなかいい企画ですねえ。僕も参加します」
「そうだぞお。飲み会は、なるべく頂上付近でするんだぞお。気圧が低け
りゃ低いほどいいんだからな。幹事さんに言っておかなきゃなんねえな。
すぐに企画書作成するぞお。BEACHちゃん、作っといてくれ」
「企画書は要らないでしょう。でも、20対20の合コンて凄いですね」
「そうだぞお。間違い無いぞお。特に気圧が低いからよお、呼吸困難にな
るんだよ。酒なんか、すうぐに回ってしまうんだよお。だけどよお、俺達
も一緒に酔ってちゃ、どうしようもねえからよお、富士山に登る前にさ
あ、たあくさん酸素吸っとかなきゃ駄目だあ」
ミスターTは深呼吸をしだした。
二人は、登山の申込みをした。
仕事中、通勤途中、いかなる時も、ミスターTは深呼吸を続けた。
特にトイレで大便をしている時だ。屁が出ると、「せえっかくの酸素が出
たじゃねえかあ」
排出した大便の臭いが充満しているトイレで、すう〜〜〜〜〜 はあ〜〜
〜と深呼吸を続けた。
さて、登山当日、ミスターTとBEACHちゃんは、富士の待ち合わせ場所に向かっ
た。
駅に着き、待ち合わせ場所に行くと、
大阪本社からは、男性5名、そして期待の女性は、1名のみ。
「BEACHちゃんよお、大阪のほうは、女一人だってよお、東京組に期待しな
きゃなんねえなあ」
幹事に「すいません。東京の方は何人来るんですか?」と聞くと、
「ミスターTさんとBEACH崎さんの二人です。じゃ、みんなそろいましたね。で
は、そろそろ移動しましょう」
愕然としているBEACHちゃんに「BEACHちゃんよお、女1に男7だってよ
お。1、7なんて、ちょっとバランスわりいよなあ。せめて、3、4とか
よお、誤差範囲にしてもらわないと。...ま、最悪、2、5までだな」
彼らは富士山に登った。
登山を終え、ふもとに降りた彼らは、旅館で飲み会をした。結局、頂上付
近で飲み会をしようとは提案しなかったそうだ。
「BEACHちゃんよお、せっかくたあくさん酸素吸ってきたのによお、1、7
の合コンじゃ、どうしようもねえなあ」
「ミスターTさん。さっき幹事さんに聞いたら、この企画って、特に合コンて
訳じゃなかったそうですよ」
「そんなことねえよお。だって、男と女が一緒に飲むんだからよお、合コ
ンじゃねえかあ。でもよお、バランスわりいよなあ。1、7って。あの子
一人を取り合いしたら、男7人でバトルロイヤルだで」
「最初っから登山が目的だったみたいですよ」
「そんなことねえよお。登山ていうのは、気圧の低いっていうポイントを
ついたんだよお。目のつけどころは良かったんだけどよお、女一人じゃ、
どうしようもねえよなあ」
気の抜けたミスターTは、無意識の内に プ〜〜〜っ 屁をこいてしまった。
「ミスターTさん。酸素もれましたけど」
「いらねえよ。だって、もう用ねえじゃん」
ただの屁にしては、臭いが停滞していた。
まさか!と直感したBEACHちゃんは、
「ミスターTさん... 酸素以外のものも...」
そこには、顔面蒼白のミスターTが腰を浮かせていた。

back