トラブルメーカー
以前、ミスターTと心斎橋のスナックで飲んだ。 そのスナックは、客とママさんとが野球拳をする。「あんたが主役」と書 いた肩かけをかけられると、断ることは出来ない。 二人でカウンターに座り飲んでると、ミスターTが「トイレ行ってくるよ。し ょんべんしてえんだよ。どこだ?トイレ」 「そっち。入り口んとこ」 ミスターTは入り口の方に歩いて行った。なぜか、そのまま出て行った。 アホやなあ。酔ってるで。と笑っていた。 なかなか戻って来ないので、外に覗きに行くと、 ミスターTは、吹き抜けの階段から地上に小便を放っていた。 「長いんだよお。ビール飲んでたからよお、止まんねえんだよ」 「お前!便所でしろや!」 「便所だよ。いいんだよ、こういう野外の便所はよお。気持ちいいんだ よ」 すると、小便の落下地点の方が騒がしいのに気付いた。 「誰じゃ、こらあ!!!」 下を見ると、立ち小便をしてるスキンヘッドの、どう見ても、ヤクザ風の 3人組にかかっていた。 「ああっ!!!ミスターT、やばい!やーさんの頭にかかってる!はよ止め ろ!」 「ばあかやろお。ビール飲んだからよお、止まんねえんだ」 私は、あまりの恐ろしさにミスターTをほって、店に入った。 しばらくすると、ミスターTが戻って来た。「いいんだよなあ、ああいう吹き 抜けの便所は」 その直後、店の扉が開いた。それと同時に、 「誰じゃ!おい、こら!どいつじゃ!小便かけやがって!出てこい!殺し たる!」 「なあに騒いでんだあ?」 「おい、お前か。さっき、上から小便したの」 「なんで、俺が外で小便しなきゃなんねえんだよ?なあに言ってんだ?店 の中に便所あるんだぞ。なんで、外でしなきゃなんねえんだ?」 「誰か、外で小便しおったんや。俺ら、下に居て、ぶっかけられたんや。 どいつや?出てこんかい!」 「なあに言ってんだあ?あ〜めだろ、雨。天気予報で雨だって言ってたん だよ。あ〜めに決まってるだろ。雲から小便降って、どうすんだ?なあ、 今泉。雲から小便降らねえよなあ」 「おい、にいちゃん。俺らもな、下で立ちしょんしながら、『おっ、雨や な』って言うてたんや。そしたら、だんだん勢いがきつくなってきたん や。しかも、俺だけや、かかったの。こいつらにはかからんと、俺の頭だ けに雨が降るんかい?そやから、小便言うとんねや」 「運がわりいんだよ。たまたま、あんたの頭の上に雲があったんだよ。な んで、雲から小便が降るんだよ。なあに、おかしいこと言ってんだよな あ」 「アホ!絶対、小便や!どいつじゃ!」 そこにママさんが出てきた。すでに野球拳で全裸になり、頭にはハゲのカ ツラ、股間には変なオモチャをつけたママさん。 「ちょっと。店の中でモメないで下さいよ。うちのお客さんが外でおしっ こする訳ないでしょ」 「何言うとんねん!他の店休みやないか!ここしか有らへんやないか!」 「いい加減にして下さい。うちはねえ、上品なお客さんしか来ないんで す。おしっこばらまくような方はお断りしてます。他の階の下劣な店のお 客さんじゃないんですか」 「アホ!上見たら、この階に人影見えたんじゃ!」 「他の階の人かもしれないじゃないですか。とにかく、うちには下品なお 客さんは居ません!」 「そこまで言うんやったら、分かった。すまんな。せっかくの場つぶし て。わりいな。ちょっと他の店調べるわ」 素直に引き下がった。 全裸にハゲのカツラ、股間に変なオモチャ、片手にムチ、もう片手にビー ルが入ったしびんを持った50過ぎのおばはんのどこが上品なのか? ミスターTは「ママ。有難う。ああいうおかしな奴らが居るからよお、膀胱炎 の人が増えるんだ。ああいう奴らに気つかって、小便を我慢しちゃうんだ よなあ。俺はよお、自由人だからさあ、あんなの気にしないけど」 「何言ってんのお!!!あんたのおかげでどうなるかと思ったわ!!!も う、とにかくおとなしくしといてよ!!!」 こんな姿の50過ぎのおばちゃんに怒られたミスターTは、 「しっかりしてるよなあ、ママ。こおいう方針をしっかりしてるママじゃ ないと、水商売は長続きしねえんだ。うちの経営者もこれぐらい方針を明 らかにしなきゃなんねえんだ」 感心していた。
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