割引券の謎

ある日、ミスターTとBEACHちゃんは、会社帰りに神田で天丼を食べた。天丼を
食べ終え、「さあ帰ろう」と神田駅に向かった。
駅では白人男性がパントマイムを演じていた。
誰も見ていなかった。
その観客が居ない演芸の前にミスターTは立ち止まり、熱心に見ていた。
ただ一人で拍手喝采を送っていた。
「グレート!エ〜クセレント!パ〜ラダイス!」、英語力が無いなりに絶
賛していた。
「いいんだ、いいんだ。BEACHちゃん、こういうインタ〜ナショナルな伝統
芸はいいんだぞ。いいぞお!!!ブラボー!!!」
白人芸人は物欲しげに小銭入れを指さした。
ミスターTは、芸人の意図に気付き、ポケットから財布を出し、札らしきもの
を入れるやいなや逃げるように改札に走った。
「ミスターTさんが万札を入れるなんて?!」、残ったBEACHちゃんは喜ぶ芸人
の小銭入れを覗いた。
中には1万円札らしき模様の上に「ハッピー」と書いた紙が入っていた。
神田駅前にあるピンサロ「ハッピー」の割引券だ。
この券は、毎朝、神田駅南口を出てすぐの交差点の電柱に貼られる。10
枚のみだ。
このサロンによく通うコバ*シが「あの割引券、いつ行っても無いねん。10
枚限定やもんな。すぐに無くなるわな」と言っている。
BEACHちゃんだけが知っている。その幻の割引券、ミスターTが、店員さんが貼
りに行く時間をつかんでいることを。
さらにBEACHちゃんは知っていた。
ミスターTは、その時間に合わせて通勤すること。
そして、「だ〜めだ、だめだ。こんなふしだらの貼ってちゃ。町の景観を
汚すんだよなあ」と独り言を言いながら、10枚全てをはがし、なぜかポ
ケットに入れることも。
コバ*シは、今朝も「また無い。ほんま人気やなあ」と感心していたのだろ
う。

back