市場調査の仕事

ミスターTは、最近、会社に出てきてないらしい。
コバ*シがアシスタントに聞くと、「最近、毎日、出先に直行直帰なんです」

ある日、珍しく出社したミスターTに、「お前、最近忙しいんやな」
「そおなんだよお。市場調査だよ」
「市場調査?売り先に行ってんのちゃうの?」
「ばあかやろお。売りに行く前に調査しなきゃなんねえだろ。何が売れて
るかよお、念入りに調査してからだよお」
「お前が扱ってる雑貨なんて、そこら辺のスーパーに行ったら、すぐに調
べれるやん。一日中出歩かんでもいいんちゃうの?」
「ばあかやろお。時間だよ、時間。時間の調整が難しいんだよ。スーパー
はよお、開店が早いだろ。それに間に合うように行かなきゃなんねえんだ
よ」
「なんでなんで?開店じゃなくてもいいやん。何が売れてるか調べてんの
やろ?」
「そうだぞ。客が何を手にするか見てなきゃなんねえんだ」
「別に、実際に手にとるとこ見なくても、棚の陳列見たらいいんとちゃう
んか?」
「ばあかやろお。そんなんじゃ、分かんねえんだよ。実際に手にとるとこ
ろを見なきゃなんねえんだ。開店が10時だろ。だからよお、会社になん
か出てきてたらよお、出遅れんだよ」
「開店はいいけど。どこのスーパーに行ってんの?」
「山の手線界隈だよ。人口の集中してるところがいいんだよ」
「山の手線界隈だったら、市場調査した後に会社に出てこれるやん」
「ばあかやろお。何言ってんだ?閉店も調べなきゃなんねえだろ」
「閉店?」
「閉店前に何が売れてるか、これも大事なんだよなあ」
「じゃ、9時前とかに行くの?」
「9時?なんで、そんな遅い時間に行かなきゃなんねえんだよ」    
     
「だって、最近のスーパーって9時頃まで開いてるやん」
「ばあか、何言ってんだあ?勤務時間知らねえのかあ?6時だよ。うちの
勤務時間は6時。6時前によお、スーパーに行くんだよ」
「6時?だったら、スーパーの閉店時間とは関係無いやん」
「あたりめえだ。なんで、残業代も出ねえのに、9時まで働かなきゃなん
ねえんだよ。6時だよ」
「だって、お前、開店時と閉店時にお客さんが何を買うかを見たいんとち
ゃうの?」
「なんでだよ?開店も閉店も関係ねえよ。何が売れてるか見たいんだよ。
そんなの棚を見りゃ分かるじゃねえか」
「え???じゃ、なんで10時に行くの?」
「開店が10時じゃねえか」
「お前、何言うてるか分からん。まあ、ええわ。じゃ、10時にスーパー
に行って、12時に調査が終わるとしよう。それから6時まで何してん
の?」
「山の手線界隈だ。時間つぶすのは困らねえ」
「時間つぶす?」
「時間つぶす場所無かったら、困るだろ。10時から調査して、10時半
には終わる。夕方は5時からだ。10時半から5時まですることが無かっ
たら、困るじゃねえか。だからよお、山の手線界隈がいいんだよ。いろい
ろ有るぜ」
「ちょ.ちょっと待て!お前、そんなに時間あるんやったら、会社出てき
たらええやないか」
「なんで?」
「なんでって?うちも山の手線界隈やん。十分会社で仕事する時間がある
やん」
「何言ってんだ?会社出てきたら、帰れねえじゃねえか」
「え?夕方に市場調査に行くんやろ?」
「なんで、2回も行かなきゃなんねえんだ。朝に行くんだよ。おんなじこ
と1日に2回してもしょうがねえだろ」
「え?え?じゃ、お前、10時半から何してんの?」
「山の手線界隈に居るんだよ。さっきから言ってるじゃねえか」
「でも、10時半に調査終わって、それから6時までブラブラしてんの
?」
「そんなに遊ぶとこねえよ。やること無きゃ、しょうがねえから、帰るん
だよ」
「遊ぶところって?お前、仕事、10時半に仕事終わって、それから帰る
んか?」
「そうだよ。たとえ山の手線界隈って言ってもよお、そんなにいろいろ有
る訳じゃねえからよお」
「お前、わざわざ30分のために東京まで出てきてんの?」
「ばあかやろお。なんで、30分のために出てこなきゃなんねえんだよ。
松戸だ。遊びに行かない時は、寮の近くだ。なんで、たかだか30分のた
めに出てこなきゃなんねえんだ。電車乗ってる時間のほうが長いじゃねえ
か」
「じゃ、お前。それって、会社サボってるんじゃないの?」
「ばあかやろお。何失礼なこと言ってんだ?市場調査だって言ってるじゃ
ねえか」

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