ミスターTの気遣い
ミスターTは、ピンサロ、キャバクラなど女の子が居る飲み屋が大好きだ。 BEACHちゃんは毎週のように付き合わされたそうだ。 ある日、ミスターTとBEACHちゃんと遅くまで飲んでいた。なんとか松戸までの 終電には間に合った。 「ミスターTさん。タクシーで帰りましょう。寮まで歩くのしんどいですよ」 松戸から寮までは、歩いて約20分。飲んだ帰りに歩くのはつらいものが ある。 タクシー乗り場に行くと、タクシー待ちの行列。待っている間のミスターTの 様子がおかしい。何かそわそわしている。 「BEACHちゃん、いいのか?」 「え?」 「いいんだ、いいんだ」 「どうしたんですか?」 「いいんだ、いいんだ。無理してねえかと思ってよお」 「は?」 「いいんだ、いいんだ」 はっきりしない。思い出したように歯切れの悪いことを言う。30分以上 並んだ。やっとタクシーに乗れる。 「やっと乗れますよ」 「そ.そうだな...」 「乗りましょう」 BEACHちゃんが車に右足を乗り入れるやいなや、 「いいのか?」 「え?」 「無理しなくていいんだぞ」 「は?」 BEACHちゃんの左足も車に入り、座席に座ろうとした。 「無理しちゃ駄目だあ!」 いきなりミスターTに腕をつかまれ、BEACHちゃんは引きずり降ろされた。 何が起こったのか分からないBEACHちゃんは、ただただ呆然とミスターTを見る だけだった。 「いいんだ、いいんだ。何も無理することは無いぞ。行きたいんなら、行 ってもいいんだぞ」 「え?行くって?どこに?」 「無理しちゃ駄目だぞ。行きたいんなら、行ってもいいんだぞ。付き合っ てあげるから」 「どこです?」 「ジャングルベルだ」 ジャングルベルとは、キャバクラのようでキャバクラではない。 看板には「当店はキャバクラではありません。必ずしも女の子がつくとは 限りません。当店はエキサイティング・ナイト・パブです」と大きく表示 している。 「た.たかださん。今からですか?」 「いいんだ、いいんだ。BEACHちゃん、行きたいんなら、ついてってやる よ」 「帰りたいんですが...」 「無理することはない。行ってもいいんだぞ」 「ミスターTさん。行きたいんなら、行きたいって言って下さい」 ミスターTは、タクシーを待っている間ずっともじもじしていたそうだ。
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