ファッションのこだわり
先日、BEACHちゃんと飲んだ。BEACHちゃんは、最近、大阪に転勤してき た。 東京に居た頃はMr.Tといつも一緒に居たそうだ。 Mr.Tの話をいろいろとしてくれた。相変わらず変な人だ。 Mr.Tは要らなくなった服をBEACHちゃんにくれるらしい。 「BEACHちゃん。俺の部屋に来てくれ。いらねえ服が有るんだよ」 Mr.Tに部屋に行くと、 「この服いいんだぞ。登山の時に寒くないんだよ。防寒着だ」 差し出されたセーターを見たBEACHちゃんは、 「それ俺の服ですやん!前から探してたんですよ!勝手にもってかないで 下 さいよ!」 「なんだ〜、BEACHちゃんのだっのか〜。誰のか分からなかったんだよ〜」 また後日、BEACHちゃんが引っ越しの支度をしていると、 「BEACHちゃん。俺の部屋に来てくれ。いらねえ服が有るんだよ」 Mr.Tの部屋に行くと、折り畳んだポロシャツを渡されたそうだ。 大阪に越して来て、ダンボールを開けて整理していたBEACHちゃんの嫁さん が、 「BEACHちゃん。これどうしたの?」 「あっ、それ。Mr.Tさんにもらったんや」 「捨てなよ」 「なんで?せっかくもらったのに」 「襟ちぎれてるよ。こんなの着れないでしょ」 Mr.Tは、服にはこだわりが有る。 休日は、いつも緑色の唐草模様のシャツを着ている。7年前からずっと だ。 BEACHちゃんに「Mr.Tは唐草模様のシャツ着てないか?」と聞いた。 「着てますよお!趣味の悪いやつ。いつもそのシャツの自慢してるんで す。 数え切れないぐらい同じ自慢を聞かされましたよ。『このシャツはいいん だよ。イタリアだで。イタリアってのは、色が違うんだよ。太陽の国だか らな。色が鮮やかなんだよ』って話するんです」 「あのシャツな、俺が売ったんや。学生時代、バブルの絶頂やったやん。 プリントものの服が流行ったやん。その時に買ったんや。会社入ってから 唐草模様のシャツ着れんから、どうしようかと思ってたら、Mr.Tが気に入 って、売ってくれって言うんや。それで3千円で売ったんや。そやけど、 あの服、鮮やかな色使いではないで。どちらかと言うと暗い色使いやで」 「そうやったんですか!今泉さんが売ったんですか!あのシャツばっかり 着てますよ。『イタリアだあ』って自慢して」 Mr.Tは、普段着だけではなく、会社に行く時の服にもこだわりがある。 上着の下に着るドレスシャツは、東京日本橋の三越で買う。 一世代も二世代も前のサラリーマンは、日本橋の三越で買物をするのがス テータスだった。最近では、三越など倒産前のボロ百貨店に行くなんて、 ダサい人のすることなのだが、今だに「三越じゃなきゃ駄目なんだよ。他 のは駄目だあ。だ〜めだあ。だめだめ〜」などとこだわっている。 シャツは、三越で3万円ほどの高いものを買う。独特な趣味で、黒色、黄 色など目立つものを買う。 ネクタイ、スーツは、大阪に出張した時に大阪で買う。 ネクタイは、京橋の安いネクタイ屋。光り物のネクタイばかりの店。 スーツは、天満のバッタ屋。不回転在庫を買い取り、安く売る店。置いて る服は、不回転在庫だったのがすぐに分かる古い形の物ばかり。 三越の趣味の悪い成金親父のコーナーで買ったシャツに、全然色が合って ない光り物のネクタイ、バブル時に流行ったダブッと太めのイタ物のスー ツ。 ほとんど気違いである。 ちなみに靴は、アキレスのゴム底のウォーキングシューズ。「歩きやすい んだよお。疲れないんだぞお。お前もはけよお」、会うたびに勧められ る。
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