マウスは使いにくい


数年前、オフィスのパソコンにウインドウズが搭載されだした。
と同時にマウスが見かけられるようになった。
今では、ウインドウズにしろマウスにしろ、特に珍しいものではない。誰も
が当たり前のように使いこなしている。
ウインドウズ導入当時、HKさんはマウスに関心をしめした。
「おう。これ何やねん?」
「マウスって言うらしいです」
「犬か?」
「犬?!」
「マウスって犬とちゃうんか?」
「ち.ちがいます。犬はドッグです」
「猫か?」
「ち.ちがいます。猫はキャットです。ねずみです」
「ねずみ?」
「マウスってねずみのことです」
「ふう〜〜〜ん」
HKさんはおそるおそるマウスを手にした。
マウスは、御存じの通り、デスクの上を滑らせて操作するものだが、HKさんは持ち上げた。
「おう。これ打ちにくいぞ」
マウスで端末を打っている。
「隣のボタンも押してしまうぞ」
「は.HKさん... マウスは机の上に置いたままでいいです」
「なんでやねん?ボタン押さへんかったら動けへんやんけ」
「いえ。マウスで操作するんです」
またもや、マウスでキーを打った。
「打ちにくいわあ。俺、これ嫌いや。指で打った方が楽やわ」
「ち.ちがうんです。画面上のポインターを動かすんです」
私は、画面上の矢印を指さし、
「これです。この矢印です。マウスを動かしたら、この矢印が動くんです」
「ほお」
HKさんは、再びマウスを手にとり、マウスを宙で上下左右させている。
「動かんぞ、矢印。こわれとんのか?」
「い.いえ... 空中で動かしたら駄目です」
「え?」
「マウスを滑らせるんです。マウスを滑らせると、矢印も一緒に動くんです。」
HKさんは、画面の矢印の上にマウスを当て、マウスを動かした。
「おう。分かったぞ。そやけど、使いにくいぞ。画面見えへんし」
「そ.そうですよねえ...」
「磁石か?」
「え?磁石?」
「この矢印とこのマウス。磁石でくっついてんのか?」
「た.たぶん... そういう仕組みなんでしょう...」
「使いにくいわ」
それ以来、HKさんはマウスに触れることはなくなった。今でも指で端末を打っている。

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