チョンマゲつけろ
喫煙所にて一服した。 「HKさん。停滞ムードですね」 「なんや停滞って?」 「雰囲気ですよ。在庫もたまって、物動かないですし」 「おう。全然物が動かないねえ」 「さっきの宇治工場の話ですけど、どの設備を縮小するんですか?」 ナイロン製品の生産を縮小するという噂が出ている。 「分かれへんなあ。詳しくは教えてくれへん。売れる物は無いのかねえ」 「衣料品向けは、どうしても、行き着くところは綿とポリエステルみたい ですよ。繊維部隊の人が言ってました」 「ほお、そんなもんかあ。あれはあかんのか?何か変わったやつ有るや ん」 「何です?」 「変なやつ有るやんけ」 「何です?」 「どっか外国の会社と提携してるやつや。ペンチングとかいう会社と提携 してるやんけ」 「ああ!レンチング社ですね。リヨセルです」 「おう。それや。リポセル」 「リヨセルです」 「おう。それや。あれは売れてんのやろ?」 「売れてないらしいです。繊維部隊の人に聞くと、全然売れてないって言 ってましたよ。売れる見込みも無いんで、ろくに生産もしてないそうで す」 「なんやそれ?そんなに人気無いんか?」 「街でそんな素材の服を見たことあります?」 「無いわ。何か売れる物無いのかねえ」 「目につくのは無いですねえ」 「ああ〜〜〜あ、こんなんじゃ、いつまでたっても、給料上がらんのお。 空から金でも降ってこんかのお」 「宝くじでも買ったらどうですか?」 「宝くじ?!あかんあかん!あんなん当たったら、どうすんねん?!」 「いいじゃないですか。一気に金持ちですよ」 「あかんあかん!あんなん当たってみいな、その分悪いこと起きるで」 「そうですかあ?」 「当たり前や。3億円当たってみい、3億円分の悪いこと起きるぞ。だか ら、周りに居ないんや。当たった人居ないやろ。当たった人は、その分悪 いことが起きて、どっかに消えてしもたんや。まだ五十にもなってないの にやな、宝くじなんか当たって、どうにかなってみい、悔やむに悔やまれ へんがな。お前、ほんま無茶言うのお」 「じゃ、他に何か金持ちになる方法は無いですかねえ?」 「おう。この前な、テレビでやってたわ。よお分からんねんけどな、個人 で株の売り買いをするんやて。証券会社とかとちゃうんや。個人で売り買 いするらしいわ。パソコンで何かするって言うてたぞ」 「個人で売り買いって、代行して売り買いするんですか?」 「いや。よお分からん。金儲けてる人居るらしいわ。毎日、買ったり売っ たりしてはるらしいぞ。お前、やってみ」 「やってみって。何をしたらいいんですか?」 「いや。よお分からんのや。俺は出来へんわ。だって、そんなん分かれへ んやん、何していいか」 「どんな仕組みか調べといて下さいよ」 「ええわ、ええわ。あんなん難しいで。テレビでも言うてたわ、『これは 難しいです』って。ああ〜〜〜あ、女の子はええのお」 「なんで、女の子です?」 「だって、いい旦那見つけて結婚したら、生活の心配いらへんがな」 「じゃ、女の子になって下さいよ」 「アホ!俺の女装なんか気持ち悪いわ。なんで、俺がチョンマゲつけなあ かんねん」 「チョンマゲ?」、申し訳ないが全く理解出来なかった。 「おう。チョンマゲや。俺、あんなん憧れるわ。またたびものや。『ごめ んなすって』とか言うてやな、全国を歩いてまわるんや。そんなん憧れる でえ。おう!お前、チョンマゲつけろ!」 「なんで、そんなことせなあかんのですか?!」 「ええやんけ。お前、いつも赤穂の工場に出張してるやんけ。今、テレビ で赤穂浪士やってるやんけ。あの番組でみんなチョンマゲつけてるやん。 お前もつけろって」 「いいです!」 「まあ、I氏ちゃんは、どちらかと言うと、独自の道を往くってタイプや もんなあ。あんまり流行に流されへんわな」 「チョンマゲ流行ってません!」 「そんなことない。テレビでみんなつけてるやん。おう!そうや!さっき 言うてたやつ、売れてないやつ、何だっけ?リポセルか?」 「リヨセルです」 「おう!それ作るのやめてやなあ、チョンマゲ作ったらええねん。ええと 思えへんか?すぐに売り切れやぞ」 「じゃ、まずHKさんがチョンマゲして下さいよ」 「アホ!なんで、そんな変な格好せなあかんねん!近所の人の噂になるや んけ。『HKさんとこのご主人、お侍さんみたいですよお』って噂される やんけ。お前、ほんま、いつも無茶言うのお」
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