若い子の名前は難しい

分社が発表され、誰もが息消沈している。部署の皆さんは、もう閉店とい
った気分なのだろう。仕事をしている人はほとんど居ない。
こういう雰囲気だと、こちらも仕事する気分ではなくなる。
皆、口々に「閉店、閉店。もうやめや」などと言っている。
煙草でもふかそうと喫煙所に行く。やはり閉店のHKさんが居た。
不透明な先行きを考えてるのか深刻な顔をしている。
「どうしたんですか?」
「おう。これや。これ見てくれ」
スポーツ新聞を開いた。
「これ。この子。ほうちゃん。また倒れたぞ」
「ほうちゃん?」
目を凝らして見ると、「朋ちゃん。また倒れる」
「ともちゃんですよ。かはらともみでしたっけ?」
「ともちゃん?ほうちゃんとちゃうんか?最近の若い子の名前は難しいの
お。珍しい名前ばっかりつけて、読みにくいわ」
「難しくないですよ」
「こんなん、普通、ほうって読むでえ。俺らの時代は、そんなややこしい
名前は居なかったわ。よし子とかな。分かりやすい名前や。こんなん読め
へんでえ。ともちゃん?訳分からんわあ」
「ともみって名前、珍しいですか?」
「そんなん、ともなんて、普通読むかあ?普通は、ほうって読むでえ」
「ほうみなんて名前の方が珍しいでしょ」
「そんな名前あるかあ。なんやねん?ほうみって。お前、それは無茶や
ぞ」
「え?ほうって読んでたんでしょ?」
「おう。ほうちゃんや。俺は、はっちゃんや。HKやからな」

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