新しい電話  その4

新しい電話機の音は非常に甲高い音だ。神経にさわる。
若TKお嬢さんが「音、高くないですか?耳がキーンて鳴ります」
「ほんまやなあ。テレクラの電話機みたいわ」
我々の会話を聞いていたHKさんが「おっ!I氏ちゃん!お前、テレクラ
行くんか?」
「この前、先輩に連れて行かれました」
「うまくいったか?」
「僕は興味無いんで、お付き合いで行っただけです。女の人とは約束して
ません」
「男か?」
「僕は、前々から言ってますけど、ホモじゃないです」
「テレクラって行ったこと無いわあ。若ちゃん、行ったことあるか?」
「無いですよお!なんで、私が行くんですかあ!」
「HKさん。テレクラでの電話の取り方知ってます?」
「取り方?受話器取るんとちゃうんか?」
「早取りなんです。たくさんの男の人が電話を待ってるでしょ。早く取っ
た者勝ちなんです。だから、他の人より早く取るために、こうやって受話
器を上げておいて、フックを押したり上げたりしてるんです。『応答』の
ランプがついたら、フックを押さず、『もしもし』って言うんです」
私は、受話器を肩と耳で挟み、人さし指でフックをおしたり、指を離して
フックを上げたり繰り返した。
「ほお。難しいもんやのお」
HKさんもその動作を見よう見真似でやっていた。
私は立上り、HKさんの電話機の応答のランプを見ていた。
「ランプが赤から緑に変わったら、フックを押したら駄目ですよ」
「おう」
最初の内は応答ランプを見ていたHKさんだが、気が抜けてきたのか、
「若ちゃん。テレクラに電話すんのか?」
「しませんよお!」
ランプが緑になった。
「HKさん!」
「え?」
フックを押した。
「切れましたよ。今、つながったんですよ」
「なんで?」
「応答のランプが緑になったじゃないですか?」
「赤やぞ」
「切れたんですって。フックを押しちゃったんで」
「よお分からんなあ」
「さっきつながったんですよ」
「『もしもし』言わんかったぞ」
「だって、切っちゃったんですもん」                
     
「おう。おかしいぞ。だって、そうやんけ。フック押したら切れるんちゃ
うんか」
「だから、応答のランプが緑になったら、フックを押しちゃ駄目なんで
す」
「ふ〜〜〜ん。難しいのお。あかんわ。俺、テレクラなんかよお行けへん
わ。若ちゃんもテレクラに電話せんでええぞ」
「え?」
「若ちゃんが電話してくれても、たぶん俺、よお取らんわ」

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