新しい電話 その3
新しい電話機の液晶表示が見づらい。 液晶の濃度を変えたいのだが、回覧された操作マニュアルには記載されて いない。 「おう。I氏ちゃん。どないしてん?」 「HKさん。この液晶見えにくいんです。液晶の濃度変えたいんですけ ど、やり方が分からないんです」 HKさんは、席から立ち、私の後ろに来て、液晶表示を覗きこんだ。 「よお見えるやんけ」 「いえ。それは、HKさんが立って、見てはるからです。その角度からは 見えます」 「なんでやねん?よお見えるぞ」 「その角度からは見えます」 「ちゃうがな。お前も立ってみ。よお見えるって」 「だから、立てば、ちょうどいい角度になるんです」 僕は立ち上がり、HKさんを椅子に座らせた。 「見えないでしょ?」 「おおっ!ほんまや。これ、壊れとるぞ」 「いえ。壊れてはいません。角度の問題です」 「角度?」 「液晶画面の角度が悪いんです。液晶の濃度変えたら、少しは見やすくな るんじゃないですかねえ」 「角度?」 私は、電話機を持ち上げ、角度を変えた。 「おおっ!見えるわ!見やすうなったぞ!」 「ね。こういうことです」 HKさんは、私のデスクの上の国語辞典を電話機の下に置いた。 「これで見えるやんけ」 「そうですね...」
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