風呂はひとつしかない
喫煙所に行った。 HKさんが居た。 「ええのお、お前」 「え?」 「顔がはっきりしてるやん。俺なんか、顔ボヤけてるからのお。お前みた いのうらやましいわ」 「そんなことないですよ」 「はっきりしてる顔ってええで。まゆ毛がキリイッとして。俺のなんか薄 いわ。歳とったら、ずんずんずんずんまゆ毛が薄くなる。薄いだけやった らええで。白くなってくるんや」 「HKさん、いい顔してますよ」 「そんなことない。お前みたいなはっきりしてる顔がええんや。アメリカ 人みたいのお」 「アメリカ人?そんなん言われたん初めてです」 「アメリカ人みたいで。まゆ毛がキリリイッとして、黒くてな」 「アメリカ人のまゆ毛って、金色が多いんじゃないですか?」 「そんなことない。まゆ毛が黒くてキリリッとはっきりしてるやんけ。う らやましいわ」 HKさんのアメリカはいったいどこにあるのでしょうか?いったいどんな 民族が住んでるのでしょうか? 「そやけど、40、50のおっさんでも、魅力ある人って居るやん。ああ いうのうらやましいわ」 「HKさんも魅力ありますよ」 「そんなことない。40、50で魅力あるおっさん。金持ってるとかじゃ なくて、そんなん関係なくもてる人って居るやん。外歩いてても、そおい う人見かけるやん。あんなん見たら、ほんまうらやましいわ」 「居ますよねえ、かっこいいおじさん」 「おう。俺も若い頃は、そこらのどこにでも居るおっさんな、いかにもお っさんて感じのおっさんや、そんなんにはなりたあなかったわ。歳とっ て、おっさんになるなんて思ってなかった。そんなん絶対嫌やって思って たわ」 「HKさん、そこらのおっさんじゃないですよ」 「そんなことない。そこらのおっさんや。若いってのはええのお。男でも 女でも、若さってのはいいんや」 「そうですか」 「肌が違う。つるつるや。うちの嫁はんでも、もう近くで見たら、『うわ あっ!』て言うてまうで」 「そんなことないでしょ」 「ゆるいわ」 「えっ?」 「肉がたれてきとるわ。体全体がゆるくなっとるわ。もちろん、昔はかっ こ良かったで。そこそこかっこええ女やったわ。だけど、ずんずんずんず んたるんできてる。毎日見てたら、歳とりおんなあってのが分かるわ」 「毎日見てるって?毎日、エッチしてはるんですか?」 「アホ!そんな元気あるかあ!俺、いくつやと思っとんねん。お前みたい に若かったら、出来るかもしれんけどな。俺らぐらいの歳になったら、そ んなんする体力無いわ。俺も歳相応の生活しとるわ」 「じゃ、服の上からでも分かるほどダブついてるんですか?」 「お前、失礼やのお。そこまでゆるくないわ。脱いだら、分かるけどな」 「エッチしてないんですよね?」 「してへん。そんな元気無いわ」 「奥さんの裸見るんですよね?」 「見たないけどな。しゃあないやんけ。見たくなくても、見えるんやか ら」 「え?エッチせずにですか?」 「だって、風呂入るやんけ。嫌でも見てまうやんけ」 「わざわざお風呂覗きはるんですか?」 「は?お前、何言うてんねん?風呂入ったら、嫌でも見るやんけ」 まさか?!!!とは思ったが、 「一緒に入ったら、見えるやんけ。ほんま張りが無くなってるわ」 どこが歳相応やねん!!!とは言えず、 「仲いいんですね」 「そんなことない。エッチもせえへんただの友達って仲や」 「ははは、友達が一緒にお風呂入んないですよ。仲よしなんですよ」 「しゃあないやんけ。風呂一つしかないもん」
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