シャーペンの芯が飛んでくる
私は、デスクに座っている時、たまに眼鏡をかける。もちろん視力が低い のも理由だが、もう一つの事情が有る。 飛んで来るのだ。芯が。 シャーペンの芯が飛んで来る。 向かいに座っているHKさんは、シャーペンの芯を必要以上に長いめに出 し、力強く書きつける。 プチッ! 「いてっ」、この部に来てからしばらく「なんでかな?たまに顔に何か当 たる」と理由が分からなかった。 プチッ! 「いてっ」 その後に聞こえるカチカチッという音。前を見ると、首を傾げて、シャー ペンの頭を押してるHKさん。 「これ、すぐ折れるなあ」 しばらくすると、プチッ! 一日に数十回飛んで来る。NATOの爆撃よりしつこい。 私は右目は見えるので、裸眼でも見えないことはないが、眼鏡をかける。 目を傷つける恐れがあるからだ。 ある日、HKさんが商談してる間に、 「どんなシャーペン使っとんねん?」とデスクの上を見た。 なんで?なんで、こんなの使ってんの?不思議だった。 設計用のシャーペンだ。「FOR PRO」と書いた設計マン用のシャー ペンが転がっていた。1500円ほどする高級な物。 その横には芯のケースも有った。 「H」、なんでこんな薄いの使っとんねん?! だんだん分かってきた。設計用のシャーペン、薄い芯、文字を書くには不 適切である。力強く書かなければ、書いた文字が薄い。さらに、必要以上 に長く芯を出す癖がある。 そら、折れるわ! 謎の設計マンが戻ってきた。 プチッ!砲撃が始まった。 「すぐ折れるのお」 「どうしたんです?」 「シャーペンや。すぐ芯が折れるんや」 「設計用のシャーペンですね」 「おう、これええんや。俺な、工業高校行ってた時から設計用の使ってん ねん。先生が使えって言うててん」 「文字は書きにくいでしょ」 「そおかなあ。このシャーペンが悪いんやで。薄いんや。力入れて書かん と、薄いんや」 「芯は何を使ってます?」 芯のケースを手に取り、非常に嬉しそうな笑顔で 「エッチや!」 「なんで、そんな薄いの使うんですか?HBだったら、濃いですよ」 「あかんあかん!エッチやないとあかん!だって、俺、HKやろ。だか ら、『はっちゃん』のHや」 もう理屈は通じないと思い、私は眼鏡をかけた。 NATOの空爆、数年来のHKさんの砲撃、どちらが先に終わるのか? 私にはユーゴに住む人々の心痛が理解出来る。
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