主任は行動派
HKさんはアイデアマンであるとともに、すぐに実行する行動派だ。坂越 工場での構内作業のビデオ撮影に付き合っていただいたことがある。 フォークリフトでの運搬作業の撮影だ。 時速20km近くで走るフォークリフトをビデオカメラを持って、走って 追いかけながら撮影している私を見て、 「I氏ちゃん。しんどいやろ。一日中走ってるもんな。トラック借りよう や」 「トラック?」 「おう、軽トラや。神原君に運転してもらってやな。俺らが後ろに乗っ て、フォークリフトを追いかけるんや」 「荷台に乗るんですか?危ないですよ。僕は走るのはかまいませんから」 「ええやんけ。毎日走ってたら、体もてへんで」 早速、軽トラックを運転してもらい、我々二人は荷台に乗った。 運搬作業を行うフォークリフトの後ろを走ってもらい撮影した。外を走っ てる時はいいが、建物の中にはトラックを乗り入れることは出来ない。乗 ったり降りたり大変なので、 「走ってる方が楽です。僕は走りますから、HKさんはトラックに乗って て結構ですよ」 「そおかあ。じゃ、俺は乗ってるぞ」 私はビデオカメラを回しながら走りまわっていた。 今だに分からないことが有る。 HKさんはビデオカメラを回していた訳ではないのだが、助手席ではな く、なぜか荷台に乗っていた。スーツを着て、ネクタイをしめた、オフィ ス街を行き来する会社員の格好のまま。しかも、なぜか立ったまま。 「おう!I氏ちゃん!これええぞお!がははは!!!気持ちええぞお!」 非常にご機嫌だったので、さきの疑問について問うのは控えた。 「がははは!!!I氏ちゃん!しんどないか!がはははは!!!これ楽ち んやぞお!」 前を行くフォークリフトがカーブにさしかかった。 もちろん、それを撮影している私も曲がる。 そして、その後を追ってくる軽トラックも。 フォークリフトはカーブを曲がった。続いて、私も曲がった。 私の背後から 「あああああっっっっっ!!!!!」 叫び声が聞こえた。 撮影を忘れ、後ろを振り向くと、 路上に投げ出されたHKさんが、 しつこく「あああああっっっっっ!!!!!」と叫びながら必要以上に転 がっていた。 「大丈夫ですかあ!!!」 「あああああっっっっっ!!!!!」 止まる気配が無い。転がり続けるHKさんをほって、私は撮影を続行し た。 何も無かったかのように。
|