医者は信用できん
喫煙所に空き缶用のゴミ箱がある。コーヒーを飲み、缶を捨てに行くと、 HKさんが居た。笑顔だ。 「おう。I氏よお。行ってきたんか?」 「はい?」 「肛門や、肛門」 「あっ!行ってきましたよ」 「どうやってん?肛門」 「手術しなくていいみたいです」 「なんでやねん?」 「なんでって?先生が、手術しなくていいって言いますので」 「気持ち悪いのお」 「えっ?」 「だって考えてみろや。気持ち悪いやんけ」 「何がです?」 「肛門やぞ。見たくないでえ」 「え?」 「どうやって見んねん?」 立上り、がに股になって、背中を丸めた。自分の尻を覗きこみながら、 「見えへんでえ。こんなとこ見にくいでえ」 「自分で見なくていいです!医者が見てくれますから」 「おう、そやけど、俺は自分の肛門見たないで」 「僕も見たくないです。自分で見る必要も無いです」 「なんでやねん?見んかったら、分からんやんけ。おう、そうや、手術は どうやってん?」 「してません」 「どうすんねん?ほっとくんか?」 「薬で治します」 「手術せえや」 「しなくていいんです」 「そやけど、どうやってすんねん?」 またもや、立上り、がに股になって、尻を覗きこみ、指を肛門にあてた り、妙な動きをしてる。 「俺、よおせんわ。こんなん、手術しにくいで」 「自分でしなくていいです」 「なんでやねん?医者がしてくれんのやろ?」 「する必要が無いからです」 「じゃ、お前、病院行って、何してきてん?」 「肛門診てもらいました」 「誰に?」 「医者に」 「男の医者か?」 「そうです」 「ああいうのは、女の医者居ないんか?」 「居るんじゃないですか?」 「肛門とか泌尿器の病院て男の医者ばっかりや。女の医者はかなわんけど な。だって、嫌やんけえ。看護婦に見せるのも嫌や。男の医者はええで。 俺もな、今までに女の医者にあたったこと無い」 「何度も行ってんですか?」 「泌尿器科は2回や。肛門は1回や。肛門行った時は、指入れられたん や。あんな汚いところによお指入れるのお。それでまた、痛いんや。何も なってなかったら、気持ちいいらしいぞ」 「泌尿器科に、なんで2回も行ったんですか?」 「ええやないか。行かなあかんかったんや。でも、お前、見せたんか?医 者はええ。看護婦にも見せたんか?」 「しょうがないでしょ。見せたくないですけど」 「なんぼもらってん?」 「え?」 「若い男の肛門や。いいバイトやで。俺なんか、もうあかんけどな。若い 男のや、看護婦喜んでるで。なんぼもろてん?」 「お金もらってどうすんですか?」 「カットの分やんけ。給料カットや。10%切られてやな、嫁はんに小遣 い20%カットされとんねん。肛門でも見せなしょうがないわな。いいね え、若い者は。俺なんか、金になれへんで」 「バイトしに病院行ってるんじゃないです」 「じゃ、手術したんか?」 「してません」 「ほらみろ!バイトやないか」 「ちゃいますよお!」 「じゃ、手術か?」 「手術はせんで良かったんです」 「まあな、難しいもんな。こんなとこ見るのも難しいでえ。俺、今まで自 分の肛門見たことないわ。俺あかんねん。なんでも不器用なんや」 「自分で手術しません」 「じゃ、医者がしおったんか?」 「してません」 「じゃ、何しに医者行ってん?」 「肛門診てもらいに」 「なんぼもらってん?」 「払ったんです。6百円」 「だまされおった... お前、気つけなあかんでえ。最近の医者は何考 えてるか分からんからのお。ついてないやっちゃ... 肛門見せてあげ て、金まで払って...」 どうでもいいいわって気分になってきたので、 「やられましたかねえ」 「まあええやんけ。ああ〜〜〜あ、ええ天気やのお。こおいう日は散歩し たいのお。気分ええで」 一人で爽やかな笑顔をされていた。
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