部長が休んだ理由


今朝、出社すると、部長の姿が無い。
10時頃、誰彼ともなく、「部長から何か連絡あった?」
課長に「部長、お休みですか?」、何気無く聞いた。
「連絡が無い。休むとも言ってなかったんだけど」
更に資材の人に話を聞くと、昨日の夕刻、突然何も言わずに出て行ったそうだ。そのまま戻って来なかったらしい。
今朝も特に「休む」など連絡が無かったそうだ。
いわゆる無断欠勤である。昨日も無断早退。
午前中は、課長連中が「ご自宅に電話してみようか」、「しばらくしたら、来はるだろう」などと議論していた。
その横でKDさんが「ブレーキ踏むの遅かったんやで」
「ブレーキ?」
「車運転しながらやな、花火に見とれてはったんやで。ブレーキ踏むの忘れて、そのまま宇治川突っ込んだんやで」
昨夜は、宇治の花火大会だったらしい。
そんなことはどうでもいい。
KDさんの意見などどうでもいいのだ。全く根拠が無いのだから。
たまたまKDさんは、昨夜、その花火を見ていただけのことだ。
午前11時、部長より連絡は無い。
忘れられたのか、誰も部長のことを口にする者は居なくなった。
そう言えば、昨夜、酔っ払いながら京橋を歩いていると、空にオレンジ色の光が3つ飛んで行くのを見たような記憶が有るような無いような。
まさか...
KDさんの意見よりは信頼性のある推測だが、口にするのは控えた。
午後1時13分、とっくに忘れさられた部長より電話が入った。
うちの課長が応対した。
「部長、今、どちらに居られるんですか?  はい。そうですか。  いえ。やはり、連絡していただかないと。  はあ、そうですか。  で、明日はどうされるんですか?  はあ。分かりました」
受話器を下ろした課長は、
「夏ばてだって。昨日、しんどそうに早退したんだから、それぐらい気づけって怒られた。明日は、体調良ければ、出て来るって言うてはる。
そんなん、休むんだったら、連絡ぐらいしてもらわあかんわな。
それに、僕、昨日出張してたんだから、部長がしんどそうにしてたことなんか知らないよ。なんで怒られなあかんのやろ」
部長だが、おそらく、いや間違いなく、二日酔いなのだ。
部長の行き付けのクラブに私の友人が勤めている。
彼女に聞いて、裏をとろう。

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