社会人の心得

M田が入社したての頃、仕事中に風邪をひき、熱を出した。
「つらいですわあ」
「病院行けよお。人事で保険証のコピーもらって持って行け。ちゃんと保
険きくからな」
「病院て、近くにあるんですか?」
10階にいろんな病院があるのを知らないようだ。教えてあげなければい
けない。親切な私は詳しく教えた。
「13階に内科があるんや。スエヒロって名前。スエヒロ内科とか書いて
へんねん。だから、ちょっと分かりにくいけどな。なんか見た感じレスト
ランみたいに見えるけど、内科やねん。『注射打って下さい』言うたら、
風邪にきく注射打ってくれるで。すぐに行きなさい」
1時間ほどしてM田が戻ってきた。
「ステーキ屋じゃないですか!保険証出して、注射打って下さいって言っ
たら、変な顔されましたよ!」
話を聞くと、恥ずかしくなり、「いえ、すいません。冗談です」とごまか
し、そのままテーブルへ通され、食べたくもないステーキを食べてきたそ
うだ。昼御飯を食べた後に、さらにステーキを食べて、胃がもたれたそう
だ。
親切な私は、彼に「いくらしんどくても、気を抜いちゃ駄目。いつも注意
深くしてなきゃ」という社会人たる者の心得を教えたのだった。

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