S先輩の空白

酒iさんが来た。
「I氏ちゃん。ちょっと」
商談席に座った。
「記憶無いんだわあ。金曜日、何してたんかのお?」
「福元が探してましたよ。どうも8時過ぎに会場から消えたみたいです
よ」
「それがよお、一次会の途中から記憶無いんだわあ。気付いたら、道頓堀
んとこの花壇で寝てたんや」
「何時頃ですの?」
「時計見たら、2時や。吉野屋の牛丼持ってたんやあ」
「牛丼?」
「なんか知らんけど、気ついたら、牛丼持って、花壇で寝てたんやあ。全
く記憶無いんやあ。おっ!家帰ったら、嫁はんが言うてたわ。俺、家に電
話してたらしいわ。9時頃って言うてたなあ。嫁はんに怒られたがな。
『こんな時間に酔っ払って帰ってきてえ!』って。怒られながらゲエゲエ
吐いてたんやあ。土曜日、起きれんかったわ」
「病院に行かんかったんですか?」
「起きたら、1時や。間に合わんかったがな。まだ肛門かゆいがな」
「飲み会ぬけて、一人でどこかで飲んでたんじゃないですか?」
「それがよお、金減ってないんや。カード切った形跡も無いし」
「何をしてたんですかねえ?」
「記憶無いんやわあ。おっ!そうや!なんかタクシー乗った記憶ある!そ
やけど、降りた記憶無いんやあ。今日、会社来たら、『お前、尻出してた
ぞ!』って言われたがなあ。一軒目の記憶も無いんやあ。気ついたら、花
壇や。牛丼持ってよお」
8時過ぎから2時までにいったい何が有ったのか、今となっては、もう知
るよしも無い。

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