今日は静かなO氏
6月10日木曜日、S藤を誘って飲みに行った。 夕方5時頃、仕事をしていると、S藤が来た。 「ちょっといいですか?」 「おう。座れよ」、商談席に座らせた。 「どうしたん?」、ご訪問の意図を聞いた。 「なんでもないです」 S藤との会話はいつもこれで始まる。 「...そうか。何かおもろいこと無いか?」 「無いです」 「...そうか」 「飲みに行ってますか?」 「最近、控えてる。なんだったら、今夜でも飲みに行こうか?」 「はい」 待ち合わせも決めずに、S藤は戻って行った。 また内線をかけてくるだろう。 6時15分、「遅くなりました。すいません」 いきなりS藤が来た。 「あっ、いや... すまん。もうちょっと時間かかるんや」 「そうなんですか。じゃ、地下で待ってます」 急いで仕事を片づけ、地下に走って行った。 「ごめん、ごめん。待ったか? 今日だけど、実は、O氏さんも来るかもしれへん」 「帰ります」 「ちょ、ちょっと待て。来たとしても、軽く飲んで帰るから」 「じゃ、行きます」 前日、O氏さんから電話が有った。「明日休みやねん。パチンコやめてしもたから、何もやること無いわあ。暇でしょうがない」とぼやく。 「じゃ、明日、飲みに行きましょうか?」 「そやなあ。でもな、最近、競馬で負けてるからな、金無いんや。次の給料出てから行こうや。あっ、そやけど、暇やしなあ。どないしよ? 「どちらでも」 「気向いたら、電話するわ」 非常に身勝手である。いつものことであるが。 6時になっても電話が無かったので、もう大丈夫だと思っていた。 S藤と飲み屋に向かって歩いていると、携帯電話が鳴った。 「はい」 「おう。O氏ですう。I氏ちゃん、今、どこに居んの?」 「本町です」 「おう。今から行くわ。駅に着いたら、電話するわ」 私とS藤は、近くの飲み屋に入った。 「O氏さん来るんですか?」 「来る。今電話かかってきた。駅に着いたら、電話するって言うてた」 「電源切っときましょう」 「それはマズい。覚悟しようや。30分ほどしたら、本町に着くわ」 ところが、時間が経っても、電話が無い。 「O氏さん、遅いですね」 「ほんまやなあ。何してんのかな?」 1時間ほど経った。やっと電話が鳴った。 「どうしたんですか?O氏さん」 「おう。どこで飲んでんねん?」 「本町って言いましたやん」 「本町?京橋とちゃうんか?俺、京橋に居るねん。I氏ちゃん探して、飲み屋一軒一軒覗いてたんや。見つかれへんから、電話したんや。分かった。鶴橋やな。今から行くわ」 「もしもし!本町です!鶴橋じゃないです!本町です!」 非常に面倒な人である。いつものことであるが。 8時半、携帯電話が鳴った。 「おう。O氏や。本町着いたわ。どこ行ったらええねん?」 「あの世。 あっ、いえ。すいません。どこに居るんですか?」 「会社や。I氏ちゃんの会社や。おっさんに聞いたら、『もう帰った』って言うてたぞ」 「勝手にオフィスに入らないで下さい!」 非常に迷惑な人である。いつものことであるが。 道順を説明して、O氏さんを待った。 S藤に「O氏さんは、最近痩せたらしい。あの人、得意気に『痩せたやろ』 って自慢するから、『痩せましたねえ』って合わせたってな」と指示しておいた。 しばらくすると、来た。 全然痩せていない。痩せてるどころか、太っていた。 だが、それを指摘してはならない。「O氏さん、痩せましたねえ。なあ、S藤。痩せはったよなあ」 「O氏さん、太りましたねえ」、S藤は正直だった。 私は顔が引き痙った。必要以上に自尊心の高いO氏さんに対して何てことを。すぐに話題を変えた。 「O氏さん。何飲みます?」 「おう。チューハイや。食い物はいらんわ。京橋でラーメン食ってきたからな。そやけど、何も無いのも寂しいのお。ちょっと食おうか」 O氏さんは大食いである。いつも自分の前に皿を集めて、両腕で囲って、一人で食べる。また食べこぼしが多い。口の周りや服は食べこぼしだらけ。 ラーメンを食べて来たとは思えないほど、一人で食べている。 O氏さんのポリシーとして、割り勘負けはしてはならないというのがある。 あぜんとしている私とS藤の前で、O氏さんは狂ったように飲み食いをしていた。いつものことであるが。 「社員食堂のな、めしの量が少ないんや。食堂のおばちゃんに言うてやな、残りそうなやつ全部もらってたんや。転勤してから、まだ食堂のおばちゃんと親しくなってないから、ただでくれって言われへんのや」 皿を抱えて、食べこぼししながらボヤいていた。 「O氏さん。僕ら、7時前から飲んでますので、O氏さんには申し訳ないんですが、そろそろ帰りたいんです」 「おっ、そうか。しゃあないな」 ラストスパートだ。さらに注文して、残された数分で食いまくった。 9時半頃、お会計をした。 O氏さんには、いつも割り勘負け、というより、実質たかられているので、うまくO氏さんから多いめに金をもらった。 O氏さんは「おう。どうすんねん?次どこやねん?」、すでに二次会に行くものと決めつけている。 S藤に迷惑をかけるのも気の毒だったので、S藤を逃がして、O氏さんと二人で京橋の飲み屋に行った。 店に入るなり、「あれ?おにいさん。今日はメイクしてへんやん」 いきなりの店員さんの言葉に、「なんで、俺がメイクせなあかんねん」 半月ほど前、その店で泥酔しているO氏さんの顔にボールペンで落書きをしたことがある。O氏さんは記憶が無いようだ。 さらに店員さんは「おにいさん。今日はまともやん。酔ってへんの?」 「俺は、いつもシラフや」 「よお言うわ。いつも泥酔やん。初めてやで、シラフのおにいさんを見たのは。だって、いつやったかなあ?倒れましたやん」 以前、O氏さんは店の中で倒れたことがある。 シラフに見えるO氏さんは、先ほどの店に引き続き、飲み食いのペースを上げた。いくつかの皿を両腕で囲って、一人で食っている。 お会計をすると、5千5百円。私は焼酎3杯を飲んだだけである。 だが、やはり、結果はいつもの通り。3千円とられた。O氏さんは、2千5百円置いて、さっさと出て行った。 O氏さんを駅まで送り、家に帰った。 今朝は、ゲリである。 目の前で課長が、何かにつまずき、ころんだ。 吹き出した瞬間、肛門が開きそうになった。 トイレに走った。なんとか間に合った。
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