O氏の消息 その4


岡田さんは、家の電話番号を変えた。
昨年9月よりイタズラ電話がかかってきていたそうだ。昼、夜問わず、ほぼ毎日かかってきていたらしい。かけてくる相手が誰か全く心当たりが無いらしい。
あまりにも恐ろしくなり、NTTに頼んで番号を変更してもらった。
以前の電話番号は、6931−0765。6とクサイ・オナムコと覚えさせられた。新しい番号は、6とクサイ・イロオンナ。6931−1607。
またもや覚えさせられた。
5月22日土曜日、夜中まで飲んでいた。
帰りのタクシーで、「岡田さんに電話しよう!無言で」、素晴らしいアイデアが浮かんだ。
岡田さんは、「新しい番号調べて、またイタ電してきおるんちゃうか」と恐れていた。
いいタイミングだ。早速電話した。深夜3時頃だった。
「はい。岡田です」
出勤時間の遅い岡田さんは、この時間でも起きている。
私は何も言わずに電話を切った。
10分ほどして、タクシーが家についた。車を降りて、再度電話した。
「...はい」
非常に警戒している様子が伝わってきた。
私は何も言わずに電話を切った。
3時半。「岡田さんは、いろいろと考えているだろう。そろそろ恐怖のあまり頭がおかしくなっているのでは?」と3度目の電話をした。
プルル〜プルル〜...
しばらくすると、つながった。
「...にゃい」
恐怖のあまり狂ってしまったのだろう。 
吹き出しそうになった私は、すぐに電話を切った。何も言わずに。
翌日、岡田さんに電話をかけた。私はしらじらしく聞いた。
「岡田さん。番号変えたから、もう変な電話かかってこないでしょう?」
「いや... I氏ちゃん。それがな、昨日な...」
「かかってきましたか?!」
「夢や。イタ電の夢見たんや」
「夢?」
「おう。時計見たら、3時半や。そんな時間、夢や」
「寝てたんですか?」
「起きてたわ。今日の出勤、昼からやからな」
「じゃ、夢じゃないですやん。現実から逃げてませんか?」
「あいつちゃうか?順司。あいつ、酔っ払って電話してきおってんで。あいつしか居れへん」
「それはないでしょう。あの人、奥さんの前でそんなことしないでしょ」
「そうか... 誰やろ?」
「分かりませんねえ」
電話を切り、しばらくしてから再度電話をかけた。
プルル〜プルル〜...
しばらくすると、つながった。
「...にゃい」
すでに恐怖で頭がおかしくなっていた。
私は、しばらく黙っていた。岡田さんも何も言わない。不安、恐怖、絶望、重たい空気が伝わってくる。10数秒の沈黙の後、
「言い忘れたんですけどねえ」、私は口を開いた。
「だあああああっっっっっ!!!!!」
「岡田さん。さっき言い忘れたんですけどね、来週忙しいんです。再来週飲みに行きましょう」
「な.なんや、I氏ちゃんか。びっくりするやんけ」
しばらく楽しめそうだ。

back