退化


以前、酒Iさんの家に招かれた時のことだ。
岡田さんと私、酒I夫婦と飲んでいた。
酔った酒Iさんが「イタ電しよう」
奥さんが「やめてよお。いい歳して」
「ええやないか」
酒Iさんが電話機を持ってきて、奥さんの実家にイタズラ電をした。
何故に奥さんの実家を選ぶのか?理解は出来なかった。
奥さんは受話器を取りあげ、
「おかあさん!順ちゃんが馬鹿なことすんの!おかあさんからも怒ってよ」
電話を切ると、酒Iさんは、また奥さんの実家に電話をかけようとした。
たまりかねた奥さんは、いきなり酒Iさんを殴った。
「何すんねん?!お前!岡田の前でなんてことするんやあ!岡田は、お前の先輩やぞ!先輩の前で失礼やないか!」
「なんで、私が岡田さんの後輩なのよ!同じ学校に行ってたわけでもないし、同じ会社に勤めてたわけでもないやん!」
「うるさい!人生の先輩や!お前より岡田のほうが年上や!」
「そんなん関係ないやん!順ちゃんがイタ電なんかするからやん!」
「うるさあい!!!」
酒Iさんは、奥さんの頭をヘッドロックして、もがく奥さんを隣の部屋に引っ張って行った。
子供の喧嘩である。
二人はどつき合いを始めた。
酒Iさんのパンチはヒットしないが、奥さんのはクリーンヒットしていた。
「あたあ!何するんじゃあ!いててえ!」、酒Iさんの顔は徐々に腫れていった。鼻血まで吹き出した。「酒Iさん!やめて下さい!Y野(奥さんの旧姓)!落ち着け!」
岡田さんも「順司!ええ加減にせえ!」
「こいつが悪いんじゃあ!」
「何言ってんの!悪いのは順ちゃんやんか!」
「アホ!お前、誰のおかげで、このマンションに住めると思ってんねん!誰が家賃払ってると思ってんねん!」
独身の私と岡田さんは「なるほど、一家の主としての風格を見せるのだな」
と目を見張った。
「順ちゃんのお父さんやんか!家賃払ってくれてるの、順ちゃんのお父さんやんか!」 
私と岡田さんはこけた。
だが、酒Iさんはひるむことなく続けた。
「そうや!俺のお父さんが払ってるんや!だから、お父さんは偉いんや!」
「何を訳の分からないこと言ってんの!順ちゃん、結婚する前も馬鹿だったけど、結婚してからもっと馬鹿になったやんか!」
「そうや!俺は退化したんや!前はもう少し頭良かったんや!」
私と岡田さんは、二人を座らせ、酒を飲ませた。
「パイゲ〜〜〜〜〜ム!!!」
いきなり酒Iさんが叫びだした。
「目つぶってやな、乳もむねん。誰の乳か当てるんや。はずしたら、イッキせなあかん。パイゲ〜〜〜〜ム!!!」
夫婦そろって認識している通り、彼は退化しているようだ。

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