若者には厳しく


電話が鳴った。私は受話器を取った。
「はい。U社でございます」
「▲△産業でございます。お世話になっております」
「こちらこそお世話になっております」
「若TKさんはいらっしゃいますか?」
「若TKですね。しばらくお待ち下さいませ」
給湯室に居る若TKお嬢ちゃんを呼びに行った。
「若TKさん」
「はい」
なぜか、私は嘘をついてしまった。
「浅野ちゃんから電話やで」
浅野ちゃんは若TKお嬢ちゃんの同期である。
「えっ!ゆっこちゃん(浅野ちゃん)ですか!」
「おう。電話出たってくれい」
浅野ちゃんと大の仲よしの若TKお嬢ちゃんは、
「わあ〜〜〜い」とはしゃぎながらデスクに走った。
受話器を取り、「もしもしい〜〜〜!ゆっこちゃん!」
私はかたまった。結果は分かっていたのだが、なぜかかたまってしまった。
お嬢ちゃんの顔を見ると、
「あ.あ.ああ... お世話してます... いえ、お世話なってますです すいません」
こわばっていた。
私は、喫煙所に行き、煙草に火をつけた。逃げた訳ではない。急に煙草が恋しくなったのだ。
「I氏さん!!!ゆっこちゃんじゃないですかあ!!!」
「なにいっ?!!!違ったのか?!!!」
「もおおおおお!!!」
「聞き間違えたぞ」
「何言ってんですかあ!『▲△産業です』って言ってましたよお!」
「▲△産業?浅野ゆっこ。そりゃ、聞き間違えるぞお」
「もうっ!」
ふくれてどこかに行ってしまった。
私は、若い者に厳しい。早く立派な社会人に育って欲しいからだ。私のような立派な社会人にだ。

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