貧乏の汚名返上


私は、昨夜、取引先と飲んだ後、やってしまった。
久しぶりにやってしまった。
はしご。
京橋で3軒のスナックをはしごしてしまった。
5万円。次の給料までこの5万円で過ごさなければならなかったのだが、
使ってしまった。
家に帰り、「楽しかったからええんや。楽しかったからええんや」、必死に自分に言い聞かせた。
今日は眠かった。昼過ぎに目覚ましようの刺激の強いガムを買いにいった。
夕方に大きな商談が控えているからだ。
近くのコンビニに行き、ガムをレジに持って行った。
「105円になります」
ポケットから財布を出し、小銭を出そうとした。
チャリン...
手の平には、空しく、2円しか無かった。1円玉2枚だけ。
「やばいっ!札は入ってないのか?!
札入れの部分を開いた。
あった。札が3枚。
何円になるのか? 
為替が分からないので、金額は分からない。
1ドル札2枚、20ドル札1枚。計22ドル。
「すいません!財布忘れちゃって!」
私は、財布をポケットに入れ、ガムをレジに置いたまま、店から飛び出した。恥ずかしかった。
「失敗したなあ。財布忘れちゃって、なんて言うてしもた。財布、目の前に出してたのに。矛盾してるよなあ。違う言訳したら良かった。でも、店員さん、めちゃくちゃ貧乏って思ったやろな。だって、2円やもんな。ほんまかっこ悪いわ」
銀行に行き、自動支払い機にカードを差し込んだ。
今月の生活費、全て使ってしまったので、仕方がなく、貯金用の別口座からおろさざるをえなかった。
暗唱番号を打ち、さて「いくらおろそうか」
とりあえず、1万。これで、2〜3日は飲める。
だが、先ほどのコンビニの一件を思いだし、
なぜか、10万おろしてしまった。必要は無かったのだが。
私は、コンビニに戻り、
「先ほどはどうも」
店員の女の子は笑いをこらえていた。
「さっきのガムだけどねえ。有るかね?」
「棚に戻しましたけど... そちらの棚です」
私は、ガムを取り、レジに持って行った。
ポケットから財布を取り出し、札入れを店員さんに見えるように開いた。
万札の束。「ははは。ちょっと大きいが、これで」
1万円札を差し出した。
私は、貧乏の汚名を返上することに成功した。
エコノミック・アニマルといったところだろうか。

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