買い取り勘違い
4月4日日曜日、先日までただマン逃すわ、解し難い割り勘されるわ、ろ くなことが無かった。 夕方、布団から出て、「おっ、そう言えば、M田が『洋服の青山でスーツ の買い取りしてくれますよ。1着1万円で買い取ってくれます。何着でも 買いとってくれますよ』なんて言ってたなあ」 太ってた時のスーツが有る。もうサイズが合わないので、1万円で買い取 ってくれるんだったら、非常に喜ばしい話だ。 スーツ5着をバッグに詰め込み、天満の方まで歩いて行った。 「5万円もろて、いい飲み屋に行けるで」、楽しくなってきた。 選挙の宣伝カーのねいちゃんが手振ってくると、愛想良く笑顔で手を振り 返した。非常に優しくなれた。 青山に着き、「スーツ買い取って下さい。5着持ってきたんです」 「有難うございます。当店、買い取ったスーツが非常に多くなり、現品は いただかないんです。その分、値引きします」 なんじゃ、そりゃ?相手の言ってる意味が理解出来なかった。 そのままスーツを何着か着せられて、「こういったのが今年の流行です」 おいおい。スーツ買いに来たんちゃうぞ。 「ちょっと待った。スーツ買い取ってくれるんちゃうの?うちの会社の青 山さん担当から聞いたんやけど、スーツ持って行ったら、買い取ってくれ るって」 「買い取ります。今回は現品は結構です。5着分5万円差し引きます」 「マジ!?そんなんやったら、スーツ買う!」 1着2〜3万のスーツを買って、さらに金くれる訳だ。 すると、「じゃ、次は、これなんかは?」 「おいおい。ちょっと待て。1着でいいよ」 「じゃ、買い取りは1着分1万円の値引きです」 よくよく話を聞くと、何着でも買い取ってくれるのではなく、客が1着買 い取ってもらおうと思うと、1着買わなければいけない。そこから値引き ということだった。 M田の馬鹿、ええ加減なこと言いやがって、と絶望的な気分になった。 しょうがないので、4万3千円のスーツを2万に負けさせた。 「1万は負けますけど、2万3千円はちょっとお...」 「ええやないか。ほら」と財布の中を見せ、「な。こんだけんしか無いね ん。ええやん。な。負けてえな」 無理言ってみるもんだわ。負けてくれた。 だけど、帰り道、重たいバッグをかつぎながら、「なんでスーツ買わなあ かんねん!2万言うても、めちゃくちゃ痛いやんけ!5万円もろて、飲み に行くはずやったのによお」 財布には、数百円しか無かった。 仕方がなく、京橋まで重いバッグを担いで歩いて行き、ゲーセンに行っ た。 余計なスーツを買って、余計な出費。5万円入るところが、2万円出て行 き、高級クラブが、なぜかゲーセン。絶望的な気分で家に帰った。 「あれ、ごはん食べてきてないの?」 鍋にごげてこびりついたカレーをしゃもじでこそぎ取り、冷えた御飯にす りつけて、苦い思いと一緒に噛み締めた。 必ず金持ちになってみせるぞ。三日続けて、その言葉が漏れた。
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