豊島肛門科にて 

(ここか。えらい場所にあるな。)
病院は、京橋のホテル街の入り口に位置する。

ドアを開ける。(スリッパが無いなあ。)と思いつつ靴を脱ぐと、受付の窓から「土足のままで結構ですよ!」
耳が熱くなるのを感じながら、ほどいた靴ひもを結ぶ。
待合い室を見渡すと、女性の患者が三人。皆、誰とも目を合わさないと決め込んでる様子で、うつむいているか、雑誌を読んでいるか、重たい空気が漂っている。


I氏「すいません。初診なんですが。便をすると、ちょっと血が出るので」
受付(おばちゃん)「ぷっ」
I氏「...」(何がおもろいんじゃ、こら)
受付「そちらで座ってお待ち下さいね。」
I氏「はい」

待合室のソファーに座り、改めて周りを見回すと、やはり患者は女性しか居ない。(まさか産婦人科に間違って来てしまったのか?)不安がつのり、更に周りを見回すと、横に座ってる女性の非難がましい視線を感じる。

(そうか!女性は痔になりやすいって言うのは本当なんや!俺は間違った病院に来たのではない。)確信と安心が、尻の痛みを忘れさせてくれる。

しばらく本を読んでると、受付の窓から看護婦(おばちゃん)が、待合室を覗き「あらあ!今日は男の子が来てるやん!」。非常に喜んでる。
(たしか病院だよな、ここは)再度、別の不安が全身に充満。
しかし、どう見回しても、病院のなりをしている。(運を天に任せるしかないな、ここまで来たら。)
受付から男性の声「疲れたなあ。一休みや。」
目をやると、煙草をくわえた白衣のおっさんが突っ立っている。(あのおっさんが先生?!威厳を感じられないあのおっさんに俺の尻を治せるのだろうか?いや。ああ見えても、名医なのかもしれん。)様々な考えと恐怖が寒気を増す。必死に本に集中しようともがき、やっと本の世界に引き込まれた頃、受付を済ませて30分は過ぎていたであろう、「I氏さん」診察室から声がする。「あい!」元気良く答え、診察室のドアを開けると、やはり先ほどのおっさんが座っていた。

(このおっさんに任せなしゃあないんか。)諦めの気持ちを見せないよう、なるべく明るく医者の質問に応じる。

「それじゃ、I氏さん。ちょっとそっちのベッドに寝て下さい。診察しますんで。寝方は...。(看護婦に向かって)説明してあげて。」との医者の言葉に「あ!分かります!大丈夫です!」と、いかにも肛門科通のように答えた。なぜなら、昨夜M田から指導をうけたからだ。自信はあった。「診察してもらう際は、ベッドに四つんばいっていうか、ワンワンスタイルをして下さい。だけど片手で股間を隠して下さい。お医者さんに失礼ですからね。余った片手で体を支えたら十分です。」M田の言葉は力強かった。カーテンを閉め、ズボンとパンツをひざまでずらし、早速教えられたスタイルで医者を待つ。

しばらくると、カーテンが開く音。シャー。しかし医者の声は聞こえない。
(なぜだ?!)とカーテンの方を向くと、ぼう然と立つ医者と看護婦の姿があった。
「...壁に手順かいてますので」医者の言葉が理解出来なかった。
「そこに貼ってるでしょ。その格好して下さい。」
医者が指さす壁を見ると、尻を出してベッドに横たわっている男性の絵が描かれた紙が貼ってあった。
(だまされた!!!)眼球が飛び出る思いと同時に全身を燃やし尽くすような熱い羞恥心。                               

残り少ない余力を使い体制を変え、医者の言葉を待つ。
「痛かったら言って下さい」との医者の言葉に、先ほどの失態などただの幻覚と思わせるように元気良く「あい!」と返事。診察が始まるが、何をされてるかは見えない。不安、羞恥心、そんなもの吹っ飛ぶぐらい痛い!とにかく痛い!

しかし、下手に何か言うとまた恥をさらすかもしれない。と言っても我慢の限界。「いでででで」。医者からも看護婦からも返答が無い。再度「あたたたた。」、やはり返答は無い。固い体をねじって見ると、笑いをこらえてる二人の姿。「...動かないで下さい」何かを噛み殺した声が小さく聞こえた。「すんません!いっつぅぅぅ」


診察が終わり、症状の説明を受ける。
肛門の内側に痔が出来ている。便秘が続いたので、固い便がそれを傷つけたのであろうとのことだった。治療には漢方薬を服用する。

診察が終わり、待合室に戻る。
(何時かな?)ポケットの中の時計を探す。(無い!あれ?こっちかな?)どのポケットにも無い。慌ただしく体を探っていると、周りの女性患者から非難がましい視線を突き刺された。

仕方がないので、時計は諦め、薬を受け取り、病院を後にすると、再度(何時かな?)。習慣的に左手首を出すと、(11時か。時間あるし、ゲーセン行こう。...う?...!!!こんなとこに有ったんか!)時計に怒っても仕方がないので、ゲーセンに急ぐ。

診察が終わった安心感のせいか、集中力が無く、ゲームに打ち込めなかった。仕方なしに電車に乗り、会社に着く。
仕事がたまっているが、やる気無し。そんなこんなで、結局こんなメール打ってます。
はよ6時にならんかしら。


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