あみだくじ その2


2月1日、数年前の初出勤日の悪夢を思い出した。九条OSで縛られシバかれたあの悪夢が蘇った。M田と二人でマドモアゼルの一杯やってた。酒Iさん、F元と落ち合う予定だった。しばらく飲んでると、酒Iさん、F元が来た。

「天国のドアに行きましょう。なかなかいい店ですよ。酒Iさん、勢いつけて下さいよ」、焼酎を連ちゃんで飲ませたのが、そもそもの間違いだった。

「真Kも呼んでるからよお。おっ!そうや。真Kに北欧館(ホモ専サウナ)に行かそう!阿弥陀くじで、真Kが当たったいうことにしよう」
真Kが遅れて入ってきた。
「おう。真K、お前、北欧館や」
「なんでですかあ?!待って下さいよお!」
F元が「じゃ、酒Iさん。今回は公正に行きましょう。これじゃ、あまりにも可哀想だ」                                

「そうやな。じゃ、一人7本線ひけ」
阿弥陀に弱い。前日の阿弥陀でもミックスルーム(変態バー)が当たった。その時は、満員で入れず、運良く逃げ延びた。今回は、4つが「マグネット、1つが北欧館。5人も居て、当りが4つも有るんだから、大丈夫だろうと気の緩みもあった。張り詰めた緊迫感のもと、一人一人名前を書いていった。

「I」−−− 
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                          −−−「北欧館」

当たった。
全身の力が一気に抜けたと思うと、急に全身に戦慄が走った。
そして、恐怖。
周りを見ると、助かった!と手を叩いて喜んでる連中だ。
「このゲームは無かったことに」、誰も聞かない。狂喜している。
本町から梅田に出るまでに逃げる、頭の中に地図を張り巡らせ、分かりにく
い路地を選んだ。
タクシーが梅田に着き、それから北欧館が見えるところまでの道程を覚えていない。恐怖のあまり、記憶が飛んでしまったようだ。トラウマとは、そんなものなのだろう。                             

「適当に行きますんで、皆さん、マグネットに行って下さい」
「ええがなええがな。見送るがな」
しつこい連中だ。
ロビーまでついて来やがった。
フロントには、見るからにホモの店員。
「すいません。うちは会員制なんです」
「入会金いくらやねん?ちゃん、心配すんな。入会金払ったる」
ほんとにしつこい連中だ。
「あのお、うちの内容知ってらっしゃるんですか?」
「知ってる知ってる。当たり前やがな」
「なんだ。そうなんですか。じゃ、どうぞ。入会金は結構です」
話をつけやがった。なんとしつこい連中だ。
2200円のチケットを買い、脱衣所に向かった。
数人の客が居た。一枚一枚脱いでゆき、向きだしになっていく私の可哀想な体を、奴らはなめ回すように見ていた。
一般の銭湯では、皆、股間を隠さなかったり、手拭で押さえて隠す程度なので、バスタオルはロッカーにしまい、手拭だけを持って行った。手拭を首に掛け、フリチンで風呂場を探していると、周りの客は皆、大きなバスタオルを腰に巻いているのに気付いた。

「しまった!これじゃ、あえてえじきにしてくれと言ってるようなものだ」
急いで風呂場を探した。道順が分からず、フリチンでロビーに行き、「お風呂どこ?」、「いやん」、店員が顔を赤らめたことに無性に腹が立った。道順を聞き、風呂場に急いだ。シャワールームがあった。入ってすぐのシャワールームに入った。一人用のシャワールームで、間仕切りがしてある。

シャワーを浴びてると、他の客が入って来た。一人用なのに。
「すんません。もうすぐ終わりますんで」
出て行った。黙って。
「なんやろな?」と、シャワーを続ける。また違うのが入ってきた。一人用なのに。                   
「すんません。もう終わりますんで」
出て行った。黙ったまま。
「こんでんのかな?」
また違うのが入って来た。
「どないなっとんねん?!」、シャンプー、石鹸、泡まみれで飛び出し、他のシャワールームを見ると、他はみな、扉がついていた。僕が使ってた部屋は、どうもホモを誘う恋愛の場だったようだ。

「あぶねえな。注意書きぐらい書いとけよ」、他の部屋に移り、扉を締め、鍵をかけた。「なんで、鍵が必要やねん?」とりあえず、鍵かけたら、入って来ないだろう。一安心して、シャワーを浴びていた。

ガタッ!
右斜め上から音がした。瞳孔が開いた。頭上斜め上に禿げ親父の顔。間仕切りによじ登って覗いていた。
「すんません!」、恐怖のあまり、とにかく謝った。
シャワーは諦め、少し散策してみた。
2段ベッドの部屋だ。各ベッド、カーテンのみで、何も防御になるものは無い。「こえええ!こんなとこ寝れるかよお!しかも、真っ暗じゃねえか!」

欲場を探していると、スチームルームがあった。
真っ暗で、人影が見えない。「誰も居ねえな」
入ると、暖かい蒸気が充満していて、非常に心地良かった。
「こりゃ、いいわ。お薦めだわ。ああ〜〜〜気持ちええわあ」
ボォ〜〜〜ッと突っ立ってると、何か気配を感じる。全身に緊張が走った。
「なんや?なんや?」
目の前約15cmほどに目が二つ。
「ああっ!!!すんません!!!」
とりあえず謝って、飛び出した。
「何考えてんだ?!狂ってるよ!」
欲場が見つかった。
洗い場にサラリーマン風の親父が、キョロキョロ周りを警戒しながら体を洗っていた。「ははぁ〜〜〜ん。ノンケだな。何も知らず入ってきたんだな」

風呂には誰も入っていなかったので、ゆったりつかることが出来た。しばらくつかっていると、筋肉隆々のボディビルダーらしき数人が入ってきた。
「おいおい!こんなのに羽交い締めされたら、望みは無い!」
脱出。
水風呂ではホモが二人、水を掛け合い、じゃれあっていた。
「馬鹿め」、横目で見ながらロッカールームに向かった。
途中、休憩室があり、中ではホモどもが煙草を吹かしくつろいでいた。
体を拭いてると、ボディビルダー風のホモ数人が入って来た。
急いでパンツをはこうとすると、
「ああっ!!!」
握られた。
何の同意も了解も無しに握りやがった。
私の口から漏れる言葉は、
「すんまへん」、ただ一言。
それ以上何もせず去って行った。
急いで服を着て、髪型を直す余裕も無く、北欧館を飛び出した。もちろんネクタイなど締める余裕など無かった。チャックだけはキッチリしめた。本能が働いたのだろう。

シャツのボタンもほとんどとめず、飛び出した姿は、レイプ魔から逃げてきた半裸の女のようだっただろう。
歩きながらボタンをとめて、マグネットに向かった。
マグネットに入ると、酒Iさん、F元、M田が盛り上がっていた。
M田は上半身裸。真Kが居ない。
「あいつは?」
「ミックスルームや。ゲームで負けおったから、ミックスルームや。おう、Hちゃんもはよ入れ」
ゲームで負けると、服を一枚脱ぐというくだらないことで盛り上がっていた。「まだ、こんなことするんですか?もう勘弁して下さいよお」
しつこいので、仕方なしにゲームに加わった。しばらくすると、真Kが入って来た。もちろん彼もゲームに加わらされた。
幕戸ママが遅れて入って来た。
「ヤバい!こんな状況に。気違いババア、何か余計なこと言い出すんちゃうか」
悪い予感は当たるものだ。
「全裸になって、さらに負けたら、そのままコート着て、ローソンで蝋燭買ってくること」
ニューハーフ版酒Iだ。発想がそっくりだ。
運良く、酒Iさんが負けた。
「おいおい!マジかよお!」
M田のコートのみを着て出て行った。
10〜15分ほどして、「開いてなかったがな」、酒Iさんが戻ってきた。
「二回戦!!!」、ニューハーフ版酒Iがわめきやがった。
「次負けた人は、コートだけ着て、ミックスルームに行くこと。ちゃんと私が同伴するから」
次は、何が有っても、絶対に負ける訳にいかない。
恐怖と戦慄の緊張の下、
私は負けた。
全身から力が抜けた。
続いて、恐怖が体を占領した。羞恥心など起こる余裕も無かった。
なにせ、ミックスルームのマスターは変態中の変態と聞いていたからだ。
客層も非常に悪く、変態ばかりと聞いていた。
中通り商店街をコートのみで歩いた。足が寒く、ふと下を見ると、すね毛だ。「裸なんだなあ」、実感してる場合じゃない。店は近づいてきた。
「マスター!!!おもろい子連れて来たでえ。こらっ!脱げっ!」
スーツを着ていたら、ぶっ飛ばしてたところだが、あまりの情けない姿を自覚していたので、反撃する気がくじけた。
「おっ!いいねえ!」
顔が割れたくなかったので、付けひげと眼鏡をしていた私は、赤いロープで亀甲縛りをされた。ロープは弾力性が有り、「なんだ、意外と痛くねえんだな。上手に出来てんだなあ」と感心していると、背中をロープを引き上げやがった。ケツに食い込み、「こら!てめえ!幕戸!痔が悪化したら、どうすんだ!」

店内、ドッとうけた。情けなかった。「じゃ、カテーテルやろうよ。カテーテル」
カテーテルプレーとは、尿道に異物を差し込むプレーだ。
「おいっ!てめえ!いい加減にしろ!」
マッチ棒を持って追いかけやがった。
レズの客が「可哀想やん。じゃ、何かギャグやってくれたら、許してあげてよ」、助けてくれた。
「ここは、中途半端なギャグだと、火に油を注ぐようなものだ。真剣にいかなあかん。おっ!そうだ!とっておきのやつがある!」
私は、チンチンと金玉の片方をくっつけ、
「だっちゅ〜〜〜の」
時間が止まった。店内の誰もが止まった。
その一瞬を境に爆笑。「馬鹿ちゃう〜〜〜。何してんの?!」
「ははは!助かった!ギャグは身を救うんだな」
「おっ!良かったよ!何か一杯御馳走するよ」
マスターの野郎、スピリタスなんか出しやがって。
しょうがないから、グラスごと口にくわえ、イッキしてやった。
「やるねえ!じゃ、もう一杯。こいつはくるでえ」
スピリタスにジンロと何かを混ぜた悪酔いする酒を差し出された。
もちろんイッキだ。
「めちゃくちゃ強いなあ。全然酔えへんやん」
「そんなもんで酔うかい」
スーツを着てたら、格好いい場面だっただろう。
しばらくレズと世間話をしていると、外から聞き慣れた声がしてきた。
「まさか!」
ドアが開くと同じに爆笑。「何しとんねん?!」
マグネットに残った4人だ。
「洒落なんないっすよお!」
あげくの果てに蝋燭でさんざんにいたぶられた。
M田に衣類を取ってきてもらい、スーツ姿に戻り、ミックスルームを後にした。マグネットに戻り、I上に編集してもらった今までの結婚式ビデオを見た。幕戸、藤村ともに爆笑していた。

O川の場面で「フリチンてのはなあ、こうやってやるもんだ。しばってどないすんねん」、一言説教してやった。
客が数人入ってきたので、ビデオを止め、我々は店を後にした。
タクシーで帰り、風呂場で蝋燭をはがした。
なんとも情けない気分だった。
翌2日の朝、何とも言えない罪悪感にさいなまれ、おてんと様を見ることが出来なかった。
「会社休もうか」と迷っている内に遅刻してしまった。


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